Image: Leia
ロボットが空間に女性のホログラムの動画を投射する。そこで助けを求めるメッセージを伝えるのは、レイア姫(Princess Leia)―1977年に公開された映画『スター・ウォーズ 新たなる希望』で観客を魅了したシーンのひとつだ。そのレイア姫と同じ名前を持つLeiaは、裸眼立体視ができるディスプレイの技術をベースとした3D体験プラットフォームを提供する企業。共同創業者でCEOのDavid Fattal氏に、創業の経緯や事業展望を聞いた。

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カリフォルニアの美しい太陽の光から生まれた3Dディスプレイ

 Fattal氏は、スタンフォード大学で量子コンピューティングを研究し、博士号を取得した物理学者でもある。在学中は、量子情報処理の第一人者である山本喜久教授の研究室に在籍。ナノスケールの光を操作し、光の粒子であるフォトンを放出して電子回路に干渉させるなどの研究をしていた。

 その後Fattal氏は2005年にHPに入社し、HP Labsの研究者として、光や電子を扱うさまざまなプロジェクトに携わる。彼らがライトフィールド(Lightfields)と呼ぶ3Dディスプレイの技術は、2010年ごろに高い効率を得るため光を使うコンピューター・チップ(半導体素子)を研究していたときに偶然発見された。ある日、研究中のFattal氏は、突然の火災報知器の警告に驚き、チップを持って外に出た。

David Fattal
Co-Foundr & CEO
スタンフォード大学で量子コンピューティングなどを学び、物理学の博士号を取得。2005年にHPに入社し、パロアルトのHP Labsの研究者として、光子ベースの量子情報処理や量子科学研究などを行う。HP Labs時代に裸眼立体視ディスプレイを実現するライトフィールド技術を発明。共に研究をしていたPeng Zhen氏(共同創業者兼CTO)らとともに2014年にLeiaを創業。

「あとからわかったのですが、火災訓練だったのです。そのことを知らなかった私は、それまでの苦労を無駄にしたくありませんでしたので、研究所の外にチップを持ち出しました。すると、カリフォルニアの美しい太陽がチップに反射し、屈折したりして、非常に指向性の高いパターンを描きました。外に集まったみんながこれに魅了されました」(Fattal氏)

 こうして、もともとはコンピューター・チップのための技術を、ディスプレイに応用できるとして、ライトフィールドの技術が生まれた。これは、スター・ウォーズのシーンのように空間に投射するものでないが、複雑な光の効果によって、平面のディスプレイにリアルで立体的な描写を可能にする。特別なメガネは必要なく、また1つの視点からでなく、同じ画面を見る異なる視点の複数のユーザーが3D効果を体験できるもので、2013年には世界的な科学雑誌『Nature』にも掲載された。そしてFattal氏は、HP Labsでの研究仲間のPeng Zhen氏(共同創業者兼CTO)らとともに2014年にLeiaを創業する。

自社プラットフォームと、パートナーとの協業によるエコシステムを創出

 創業当時5〜6人のチームだったLeiaは、2021年6月現在では220名のメンバーで構成されており、アメリカ以外に、生産拠点として中国にも拠点を構えている。Fattal氏は、Leiaのライトフィールド技術は、その美しさだけでなく、生産の面でも優れていると語る。多くの3Dヘッドセット用ディスプレイが採用している半導体プロセスではなく、より安価なディスプレイ製造プロセスで、ガラスに刻印することで実現できるため、非常にコストパフォーマンスよく生産できるという。

 Leiaはディスプレイを生産するだけでなく、そこで展開されるアプリケーションや、コンテンツ、コンテンツ配信プラットフォームも提供している。それらを利用できるのが、同社オリジナルのAndroidタブレット『LUME PAD』だ。

 Fattal氏は「私たちの最新のディスプレイを使ったタブレットです。アメリカ国内の小売店や接客業、医療機関などの顧客、そして一般消費者向けにも販売します。MicrosoftがSurfaceを使って最新のWindows体験を伝えているように、私たちもLUME PADでライトフィールドの美しい体験を伝えるのです」と説明した。

 LUME PADではライトフィールドの世界を体験できるゲームやビデオ、写真共有などの専用アプリケーションを楽しめる。また、外部のパートナーがライトフィールド向けコンテンツを提供できるよう、独自のコンテンツ配信プラットフォームも用意してある。なお、3Dコンテンツだけでなく、一般のAndroidタブレットと同じくGoogle Playのコンテンツも利用可能だ。

Leia社オリジナルのAndroidタブレット『LUME PAD』 (Image: Leia)

 当面は北米市場に展開されるLUME PADだが、日本市場への参入についてFattal氏は「日本は私たちにとって非常に良い市場と認識しています。日本の消費者は、アメリカの人たちよりもテクノロジーやライブ・イノベーションを好むと思います。現在私たちには中東や中国にパートナーがいますが、日本の市場や消費者の習慣を知る、戦略的なパートナーを見つけたらぜひ進出したいと思っています」と述べた。

 ライトフィールドのテクノロジーはLUME PADだけでなく、さまざまな業界に向けた製品・ソリューションにも応用されている。Leiaはこれまでに3回の資金調達で1億6000万ドルを集めているが、シリーズCではドイツの自動車業界関連の大手サプライヤーであるContinentalが中心となった。その関係で自動車用のディスプレイも開発している。ライトフィールド技術をベースにして他社と協業しながらさまざまなエコシステムを開発しているのだ。

コロナによって失われた、コミュニケーションを取り戻す

「200年前に写真が発明されてから、人々は常に現実世界に近づこうとしてきました。モノクロからカラーへ、静止画から動画へと進化しました。次は、タッチすることを求めるでしょう。人々はデジタルの世界でますます多くの時間をスクリーンに費やすようになりました。つまり、現実世界の生活のような質を失っているのです。この問題を解決し、生き生きした、より現実に近いものをスクリーンに映し出すことで、デジタルコミュニケーションをより良くするのがLeiaの使命です。そのためにハードウェアを提供することはもちろんですが、それ以上に重要なのは、コンテンツ制作やコンテンツ配信のためのツールを提供し、エコシステムを確立していくことだと考えています」

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