新型コロナの流行によって、世界的にEコマースの需要が拡大した一方、物流にかかる負担が増えている。物流現場での感染者の発生で操業停止を余儀なくされたり、工場労働を敬遠する人が増えたりするなど、人手不足は深刻な問題だ。中国北京に本社を置くロボットメーカーForwardX Roboticsは、こうした現場のニーズに応えるために生まれた。周囲の状況を理解し、自ら判断するというインテリジェントなモバイルロボットを提供する企業だ。ForwardXがつくるロボットの特徴や強みとはどんなものだろうか。創業者でCEOのNicolas Chee氏に聞いた。

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自律するロボットで社会課題に貢献したい

 Chee氏は、北京航空航天大学で集積回路設計を学び、修士号を取得。在学中にロボットコンテストに参加した経験がある。SAPに就職し、ドイツ駐在時代を含め5年ほど勤めた。2009年にOracleへ入社。当時、最年少でディレクター職に就き、大型のSaaS案件などを手掛けた。モバイルロボットの会社、ForwardXを2016年に創業した理由を次のように述べた。

「私は、モバイルロボットが生産性を高め、仕事の選択肢を増やすことによって、人々の生活をより良くすることができると信じています。また、AIやコンピュータビジョンといった新しい技術が、研究段階から開発段階へ、そしていよいよ実用化へというフェーズに移っていると感じてきました。いまや、ロボット技術のトレンドは、自律制御や自己学習へ向かっています。このトレンドは、産業界が求めていることでもあります。私はこうした最先端技術を駆使して、社会に貢献したいと思ったのです」

Nicolas Chee
ForwardX Robotics
Founder & CEO
北京航空航天大学で集積回路設計を学び、修士号を取得。SAPに就職し、中国とドイツで勤務した。2009年にOracleへ入社し、中国市場の製品ラインディレクターを務める。2016年、モバイルロボットメーカーForwardX Roboticsを創業。

 ForwardXが提供するモバイルロボットは、ガイドなしで走行するAMR(Autonomous Mobile Robot、自律走行搬送ロボット)だ。人はロボット画面の指示に従って商品を載せるだけで、ロボットが自ら、次のピッキング箇所、あるいは搬送場所まで移動してくれる。

 AIを使った「Fleet Manager」と呼ばれる運行管理ソフトを使えば、ロボットの現在位置、稼働状況、空き状態を監視することもできる。何百台というロボットをタクシーの配車システムのようにジョブを振り分けることができるのだ。

 さらにChee氏は、ForwardX製AMRの最大の特徴は、車の自動運転にも使われるセンサー、LiDAR(Light Detection and Ranging)を搭載していることだと述べる。

「私たちは第3世代のロボットから、位置や距離感を測るためにLiDARを使用してきました。そして、近年、事業がグローバル化するに伴い、さらに安定した空間認識が求められています。そのためにはLiDARとスキャン技術が欠かせません。いまは第3世代よりももっと精度に磨きをかけた、第4世代の技術を使っています」

 LiDARは、レーザー光を使って、物体までの距離や方向を測るセンサーの一種。同じく自動運転に使われるミリ波レーダーやカメラよりも高価なセンサーだが、正確な形状や距離を3次元で把握することにつながるため、研究開発が盛んに行われている技術だ。これを使えば、より正確に、ロボット同士が衝突するのを避けたり、最適な走行ルートを計算する技術を向上させることができるだろう。

直近2年間で急成長 1000台超の納入実績

 中国はいま、人件費の上昇によって、グローバルな価格競争力を失いつつある。こうした中、生産効率をあげたいと、生産現場は官民一体となって省人化・自動化に取り組む。政府は産業用ロボットの内製化を国策のひとつとするなど、中国ロボット市場は近年、成長いちじるしい。

 ひしめきあうロボットメーカーの中でも、物流と製造業がForwardXの得意とする分野だ。物流ではアリババグループとならぶEC大手JD.comや、国際輸送会社のDHLと提携している中国物流大手のSF Supply Chain China、伊藤忠ロジスティクス(中国)、製造業ではトヨタ系部品会社や中国系自動車企業、携帯電話メーカーといった大型顧客の名前が並ぶ。

「JD.comとは、物流パフォーマンスを上げるために、AMRをはじめ20品以上のプロダクトを立ち上げました。その結果、JD.comは非常に良好な投資収益率を達成しています。昨年は、こうしたプロジェクトを60件以上立ち上げ、いずれも好感触を得ています」

 現在、抱えている顧客は70社以上。これまでに納入した台数は1千台に上るという。2016年に創業してから2019年末までの販売台数がわずか3台だったというから、2020年以降の急成長ぶりが分かる。

 日本企業とは、セールスの部分でパートナーシップを求めており、すでに椿本マシナリー、フジテックス、菱電商事などと代理店契約を結んでいる。現在は日本導入の手助けもしているが、ゆくゆくはロボットの販売だけに専念していきたいという。

最先端技術でロボット業界のゲームチェンジャーになる

 2021年12月、シリーズCで中国の保険会社であるTaikang Life Insuranceなどから3100万ドル(約37億円)を調達した。現在の従業員数は約100名。調達資金は、ソフトウェア開発チームと、中国と日本、アメリカのマーケティングセールスに使う予定だ。

 ForwardXのロボットに磨きをかけるのは、AIとコンピュータビジョンの技術だけではない。今後は、データを活用したディープラーニングも積極的に採用していく予定だ。データは顧客である工場の基幹システムから収集し、現場に散らばるロボットに転送するような仕組みづくりを考える。上位システムと連動するソリューションこそ、いま求められているニーズだからだ。Chee氏は、これからのモバイルロボットを次のように成長させたいと語る。

「コンピュータビジョンとLiDARを備えた第4世代のロボットが、人間のように振る舞うことができる、ゲームチェンジャーになると信じています。まったく新しい製品となるでしょう。私たちは、こうした技術を使った最初の企業となります。これまで調達資金の半分を、研究開発に充ててきました。これほど多くの投資を行った企業は、他にありません。だからこそ、私たちは非常に安定した、堅牢なAMRを提供することができるのです」

 ForwardXのモバイルロボットは、AI、コンピュータビジョン、ディープラーニングなど、最先端の技術を吸収し続けていく。人手作業の補助だけにとどまらない、より賢く、自律して動く人間のようなロボティクスの世界を目指しているのだ。こうした好奇心と勢いに満ちたチャレンジ精神が、世界のロボットにどんな新風を巻き起こすのか、今後の成長を楽しみにしたい。

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