Fortune100ランクインする企業の約半数がクライアント
――御社はどんなサービスを展開しているのですか。
FiscalNoteは、世界中の法制度や規制、訴訟関連など、公的機関の情報を毎日アップデートし、ひとまとめにしたSaaS型プラットフォームです。グローバル企業は、世界各国でビジネスを展開しています。たとえば、製薬会社であれば各国の保健機関の法律やマーケティングに対する規制など、その国ならではの事情に詳しくならなければ、円滑に事業活動を行うことができません。さらに、国内においても州や郡といった地域ごとにさまざまな規制が存在します。
ですから、グローバル企業は政策や法律に関する情報をアップデートしておく必要があるのです。FiscalNoteを使えば、それらの情報をワンストップで確認できますし、どんな法律が議会で可決したか、政治家や政党が特定の法律に関してソーシャルメディアでどのような発言をしたかまでチェックできるのです。
FiscalNoteは、AIを使って、世界中の何千・何万もの政府(地方政府を含む)ウェブサイトを網羅しています。何十億もの資料をAIでソートをかけ、産業・国別に整理します。そして、クライアントに対しては、関係する業界の法律を毎日通知します。これらのプロセスはすべて自動で行っています。
当社が網羅するのは40~50カ国の政府機関で、OECD加盟国すべてを含んでいます。また、AIを使う以外にも、社内に分析部門を抱えているので、世界中の約200カ国の情報を提供することが可能です。現在、5000~6000社のクライアントがいて、それらの多くが企業です。政府機関や業界団体、金融機関の利用もあります。
Fortune100にもランクインする世界的グローバル企業の約半数が当社の顧客です。NetflixやTeslaなど、業界を問わず、超有名企業がFiscalNoteを使っているのです。
――FiscalNoteの使用例を教えてください。
飲料メーカーのネスレ(Nestle)は当社の顧客です。ネスレはご存じの通り、グローバル企業であり、社内に巨大な法務部を抱えています。何千人もの顧問弁護士がネスレで働いていることでしょう。
ネスレは世界中で商品を販売しているため、食に関する法律やESGに関する規制、チョコレートバーや飲料のパッケージングの表示義務など、膨大な数の法規制と対峙しなければなりません。
FiscalNoteは、ネスレの法務部が使う必須のプラットフォームになっています。世界でネスレの商品が陳列されていない国は珍しいでしょうから、当社が各国政府の表示義務法の変更などの情報を毎日更新することで、同社の法務部は最新の情報を入手できるのです。
著名投資家たちを惹きつけられたワケ
――御社は2022年8月1日付で、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場しました。今後の計画や目標を教えてください。
法規制に関する情報をとりまとめたプラットフォームで、世界で一番のシェアを狙います。当社の競合にはブルームバーグ(Bloomberg)やロイター(Reuters)などがいますが、当社は世界各国の情報を入手・分析している点とAIの技術力で差別化を図っています。
技術力に裏打ちされた最適な顧客体験を届けていることで、今期は1億7300万ドルの売上を見込んでいます。この数字は、対前年比50%以上増と、FiscalNoteの成長速度にはすさまじいものがあります。市場でのトップランナーになるために、今後は競合他社の買収や新機能の実装などに取り組んでいきます。
――FiscalNoteの投資家には、NBAのダラス・マーベリックのオーナーとして知られるMark Cuban氏やYahoo!創業者のJerry Yang氏など、著名投資家が並びます。彼らを惹きつけることができたのはなぜでしょう。
当社のミッションがとても明確で、だれも実現できなかったことを実現しようとしているからでしょう。FiscaNoteのミッションは、「組織にとって必要不可欠な情報を分析し、提供することで、彼らの潜在能力を引き出す」です。
FiscalNoteをグローバル企業が使うようになれば、世界中の政府機関の透明性が向上し、法制度も明確になるでしょう。なぜなら、今やそうした企業は各国の政治経済に大きな影響を与えているからです。当社の投資家たちは、私たちが実現しようとしている未来に共感しているのではないでしょうか。
――FiscalNoteを創業した経緯を教えてください。
私は政治に関わっていた時期があります。バラク・オバマが上院議員だった2007年に、彼の大統領選挙出馬キャンペーンをサポートしていました。さらに、私自身もメリーランド州モントゴメリー郡の教育委員の一人に選出されました。それらの経験が、「政府機関の情報の不透明さ」に気づかせてくれるきっかけになりました。政治や行政機関は縦割り意識が強く、他の機関から見て何をしているのかが分かりにくいのです。
そこで、各国の政治情勢や法制度をアップトゥデイトでまとめるプラットフォームをつくろうと思い立ち、2013年にシリコンバレーで当社を創業した、という流れです。
アジア有数のB2B市場を誇る日本は魅力的 M&Aで本格進出をねらう
――御社の顧客にはトヨタ自動車など、すでに日本企業があります。日本市場に本格的に進出する考えはありますか?
既に、日本の製薬会社やエネルギー企業は当社のクライアントです。FiscalNoteは、日本市場を、アジアの中でも最も優先順位の高い市場だと位置づけています。なぜなら、日本には世界でも有力なB2B企業が存在しているからです。もちろん、中国や韓国、シンガポールやインドネシアなど、急速な経済成長を続けている企業はあります。
しかし、これらの国々の主たる産業は、ECやゲーム、決済など消費者起点、つまり、B2Cのビジネスです。これらのビジネスは、まだ産業としては成熟していません。対して日本は、アジアで唯一の成熟したB2B産業が存在する国です。
また、意外と見過ごされていますが、アメリカの約3分の1の人口を抱えていることも、日本市場の魅力です。すでに、MicrosoftやSalesforceなど、外資系ITプラットフォームが日本で成功を収めていることを考えても、FiscalNoteが日本市場にフィットする可能性は高いと考えています。
――日本の大企業と協業したいという考えはありますか? その場合、どのようなパートナーシップがベストでしょうか。
まず代理店でしょう。R&D(共同開発)にも、M&Aの機会にも興味があります。おそらく、M&Aが日本市場に最速で進出できる方法だと考えています。当社と同じフィールドでビジネスをしている企業を買収し、マネジメント・顧客を踏襲した上でFiscalNoteのバリューを発揮する、という形です。他国でも同業他社を買収してその国に進出するというプロセスを経てきました。
たとえば、2021年2月には、地政学的分析・アドバイザリー会社のOxford Analytica社を買収し、イギリスに進出しています。また、同年5月にはオーストラリアの調査会社TimeBase社を、2022年8月には韓国のデータ会社であるAicel Technologiesを買収しています。
日本でも確かな顧客基盤を持ち、ともに未来をつくっていける企業を探していきたいですね。