時は金なり―WebサイトやWebサービスには素早いレスポンスが求められている。最近では、ユーザーの状況にあわせて柔軟にコンテンツを提供したり、リアルタイムに分析した結果を出力したりする複雑な処理も行われている。この高速化の鍵を握る要素のひとつがデータベースであり、メモリ上で動作する高速データベースの「Redis」は人気のオープンソースだ。2011年に創業し、Redisのエンタープライズ版を提供するRedis Labsは、2021年4月にTiger Global Managementが主導するシリーズGにて1億1,000万ドルを調達し、IPOに向けて着々と準備中。共同創業者でCEOのOfer Bengal氏に事業戦略を聞いた。

Webのレスポンス改善のため、メモリ上で高速に動作するデータベースを展開

「私たちは、非常に大きな非常に大きなウェブサイトやアプリケーションを高速化する挑戦をしていました。そこで、アプリケーションの入り口を高速化したとしても、データレイヤーにボトルネックがあることに気づき、この問題を解決しようと決心したのです」とBengal 氏は切り出した。

 イスラエル出身のBengal氏は連続起業家だ。航空業界のエンジニアとしてキャリアをスタートしたBengal氏は、1980年代後半、イスラエルのハイテクシーンに触発され、1989年に通信インフラ管理企業のRiT Technologiesを創業する。同社は1997年にNASDAQに上場した。2000年にはモバイルインターネットを先取りしたMobile Economy Ltd.を創業し、2003年に売却。その後はいくつかのハイテク企業でCEOを務めたのち、Webの高速化の課題をとらえ2011年にRedis Labsを創業した。

Ofer Bengal
Redis Labs
Co-Founder & CEO
航空機エンジニアとしてキャリアをスタートしたのち、1989年に大規模通信インフラ管理企業であるRiT Technologiesを創業し、1997年にNASDAQに上場させる。その後モバイルインターネット企業やメディカルデバイスなどのテック系企業などにCEOとして従事したのち、Webサイトにおけるデータレイヤーの高速化に取り組むべく2011年にRedis Labsを創業する。

 Redis Labsのアプローチは、データベース高速化のためにキャッシュを用意するのではなく、メモリ上にデータベースを展開するものだ。Bengal 氏は「今や世界はオンライン化していて、オンラインサービスを提供する際には素早いレスポンスが求められており、そうしないと顧客を失うことになります。Redis Enterpriseは、消費者向けのWebアプリケーションだけでなく、金融取引の認証など、即座に応答が必要な場面で利用されています。以前は、クレジットカードの認証完了まで数秒待たされていましたが、瞬時に完了できるようになっています」と語る。

世界の名だたる大企業が利用。コロナ禍でさらに成長を重ねる

 Redisの商用版であるRedis Enterpriseは、オンプレミス環境でも導入できるほか、AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platformに対応しており、各プラットフォームから利用可能だ。Bengal 氏によると、既に顧客は8500社以上あり、Fortune 500のうち、上位100社の30%が利用しているという。社名は明かせないものの、誰もが知るテクノロジー上位企業などのほか、主要なクレジットカード会社のトランザクションや、トップレベルのeコマースサイトのパーソナライズなどにも採用されている。ビジネスモデルは、使用量に応じた支払いに加え、年間の使用料を前払いする2種類がある。

 同社はここ数年で毎年50%以上の成長をしているとし、2021年はさらに成長を加速する見込みだ。Redis自体が人気のオープンソースで、データベースのランキングサイト「DB-Engines」(https://db-engines.com/en/ranking)では、350以上のデータベース中6位となっている。これにさまざまな機能を加え、さらに99.999%という高い可用性を備えていることがRedis Enterpriseの成長を支えている。

 さらにBengal氏は「コロナウイルスが発生したとき、私たちのビジネスがスローダウンしないかと心配しました。ところが、多くの企業がデジタル変革を促進したおかげで、弊社は多くの新規顧客を獲得するなど、恩恵をうけることができました」と、コロナ禍によってもたらされた変化を語った。

AI分野でも重要な役割を果たし、データレイヤーの主要プレイヤーを目指す

 2021年4月に調達した資金は、継続的な開発や市場開拓のために使われる。現在の主な顧客は北米市場で、全体の7割を占める。残りはヨーロッパとインドだ。世界中の開発組織を2倍に拡大していく。現在の従業員550名のうち200名がアメリカ、200名がイスラエル、残りはヨーロッパやインドなど世界中に配置している。資金を得たRedis Labsは新たな分野である人工知能でのイノベーションにも挑戦している。

「私たちは人口知能の2つの分野で中心的な役割を果たしています。ひとつがFeature Storeと呼ばれるもので、私たちがAIモデルを構築し、特定の参照データと連動させAIを高速に動作させるデータレイヤーとして使われています。もうひとつはModel Influencingというもので、『RedisAI』という新たな製品を作って提供しています。これは、インフラを追加することなく、AIモデルをデータが存在するアプリケーション側で実行させるものです」(Bengal氏)

 日本市場への進出についてBengal氏に聞くと、北米以外はヨーロッパを中心に事業を展開してくとするものの、中国や日本でも事業を開始していきたい意向を示した。余談だがBengal氏はその昔、日本のおもちゃメーカーに商品企画の提案もした経験もあるという。さらに、コロナ禍となる前の2018年に日本を訪れ全国各地を観光した思い出を語ってくれた。

 現在のところ、現在の主な日本のユーザーは、AWSなどのクラウドベンダーを通じたフルマネージドサービスの顧客だ。日本への本格進出を効率化するには製品だけでなく、ウェブサイトやマーケティング資料などすべてのローカライズや日本のオフィス開設が必要だとし、そのためにはさらに多くの準備が必要だと考えている。そのため、時期は明言されなかったが、ある時点でのアメリカの株式市場でのIPOを計画している。最後にBengal氏は同社のビジョンについて次のようにコメントした。

「データベースのエンジンを提供する企業は300以上ありましたが、市場が成熟した現在は5〜7社程度が主なプレイヤーです。中でも私たちは、大量のデータを短時間に処理する点ではほかの誰よりも優れています。リアルタイムデータ管理のリーダーとして、この分野の標準となることを望んでいるのです」



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