AIが自律的に攻撃を仕掛け、その手口が秒単位で巧妙化する現代。今年、全世界におけるサイバー攻撃の件数は前年比100%以上という脅威的なペースで急増しているという。
どの国の企業もこの「見えないマシン(機械)の脅威」に頭を悩ませる中、悪意ある攻撃側ではなく、防御側を優位に立たせるためのプラットフォームを開発するスタートアップが米国シリコンバレー発のExaforce(エクサフォース)だ。
同社は、革新的なマルチモデルAIエンジンを駆使し、これまで人間の手作業に依存していた「アラートのトリアージ(優先順位付け)」や「脅威調査」といったSOC(セキュリティ・オペレーション・センター)の業務を、独自のAIエージェント「エクサボット(Exabots)」によって自律化し、業務負荷と応答遅延を極限まで解消する。
コスラ・ベンチャーズ(Khosla Ventures)などの出資を受け、累計調達額は2億ドルを超える期待のエマージングユニコーン。2026年3月には東京オフィスを開設した同社のCEO、アンカー・シングラ(Ankur Singla)氏に、プラットフォームの革新性と、日本のセキュリティ市場が直面する課題について話を聞いた。
目次
・AIが武器化した時代の「唯一の防御策」とは?
・今のサイバー攻撃に3カ月前のデータは無意味
・「アサヒが止まった意味」を日本はどう見るか
・経営トップとして「書いたコード」で語る
・サイバーセキュリティの重要性を、全世界に伝えていくという使命
AIが武器化した時代の「唯一の防御策」とは?
―まず、エクサフォースの創業の経緯についてお聞かせください。
昨今、AIの武器化によってサイバー攻撃の速度と量は爆発的に増加しています。現在、サイバー攻撃の件数は前年比で100%以上も急増しています。攻撃がAI(マシン)によって自動かつ超高速に行われている今、人間が手動でログを追い、調査しているようでは物理的に追いつくことはできません。
「マシン主導の攻撃には、マシン・スケールの防御でしか立ち向かえない」。これが私たちの根本にある思想です。
私はエクサフォースを創業する前にも、複数のセキュリティ企業(※注:LimilensやVolterra)を立ち上げ、運営していました。やはり自動化された攻撃から企業を守ることを目的としていましたが、それらは「AIファースト」のアプローチではありませんでした。
攻撃者が高度なAIを駆使してくる現代において、セキュリティの基盤そのものを「AIネイティブ」としてゼロから再構築しなければ、防御者を優位に立たせることはできないと確信し、エクサフォースを創業したのです。
Image : Exaforce Featured-Threat_Finding
今のサイバー攻撃に3カ月前のデータは無意味
―エクサフォースのプラットフォームが、競合と一線を画す「最大の強み」はどこにあるのでしょうか。
一言で言えば、「リアルタイム推論」と「モデルの継続的な自己学習」の統合です。
世の中の一般的な大規模言語モデル(LLM)は、ある一時点のデータで訓練され、リリースされた時点でその知識は静的なものになります。しかし、サイバーセキュリティの現場においては、3カ月前のデータで訓練されたモデルなど何の役にも立ちません。攻撃の手口は、いまこの瞬間も変化しているからです。
エクサフォースのプラットフォームは、組織の稼働環境からリアルタイムに流れ込むログ、コード、設定、アイデンティティといったデータを絶え間なく吸収し、推論を行います。そして、データが増えるにつれてモデル自体が「継続的に自己学習(continuously trained)」を繰り返し、自動的に精度を向上させていく仕組みになっています。
これにより、セキュリティエンジニアとAIエージェントが常に同一の、かつ最新の情報を共有しながら、人間レベルの高度な推論能力をもって脅威調査(スレットハンティング)を行うことができるのです。
―グローバルでの導入実績や、顧客からの反応はいかがですか?
例えば、米ナスダック上場のガーダントヘルス(Guardant Health)やユニコーン企業のファンクションヘルス(Function Health)といった医療・ヘルスケア分野の顧客は、導入後にセキュリティ体制が劇的に改善したと公表してくれています。
さらに、核融合エネルギー領域で業界をリードするコモンウェルス・フュージョン・システムズ(Commonwealth Fusion Systems)や、台湾の通信機器大手アクトン・テクノロジー(Accton Technology)などもエクサフォースを活用しています。
私たちはこのように、ヘルスケア、製造、最先端エネルギーなど極めて機密性が高く人命や社会インフラに直結する多様な業界を保護しているという強い責任感を持ってプロダクトを提供しています。
「アサヒが止まった意味」を日本はどう見るか
―日本のサイバーセキュリティ市場の現状をどのように分析されていますか。
率直に申し上げて、日本は全体的なセキュリティ対策、およびクラウドやAIの導入率において、他の先進国より遅れをとっています。さらに深刻なのが、急速に進む高齢化と労働人口の減少です。このままでは、ただでさえ不足している日本のサイバーセキュリティ専門家が、将来さらに枯渇することは目に見えています。
この人材不足の壁を乗り越え、国を守る唯一の手段こそが「AIの本格的な導入」です。
これまで日本は、地理的・言語的な要因もあり、海外のサイバー攻撃の嵐から比較的隔離され、守られてきました。しかし、その「安全神話」はすでに崩壊しています。
実際、アサヒグループがサイバー攻撃を受けてシステムが完全にオフ(停止)になるという重大な事件が起きましたよね。日本人にとってビールが飲めなくなるというのは本当に大問題でしょう?(笑)冗談ではなく、何の対策も講じなければこうした大規模な攻撃は今後さらに頻発し、生活に密接したインフラ、流通、衣食住を揺るがすようになるでしょう。日本が世界に誇る優れた工業技術や貴重な知的財産を守るためにも、今こそ未来への投資を真剣に始めるべきです。
―セキュリティ人材が圧倒的に不足している日本において、一般のビジネスパーソンやエンジニアは、まず何から始めるべきでしょうか。
実は、セキュリティを学び、自衛するためのハードルは、現代において非常に低くなっています。
ChatGPT、Claude、そしてGeminiといった高度なLLM(大規模言語モデル)は、サイバーセキュリティの基礎や、それが自社のビジネスにどう影響するか、そしてどのように防御体制を築くべきかを学ぶための「最高の学習ツール」です。
専門家に頼り切るのではなく、こうした身近なAIツールを駆使して、一人ひとりがサイバーリスクを「自分ごと」として学び始めることが、国全体のレジリエンスを高める第一歩になります。
―今年3月には、日本オフィス開設を発表されましたね。
はい。日本でのサイバーセキュリティの需要は今後どんどん増えていくと予想されていて、我々は、プロフェッショナルとして、その需要に応えたいと考えています。
東京オフィスでは、専任エンジニアチームと営業担当者が常駐し、日本企業のデータ主権及び規制要件にマッチするように最適化されたエクサフォースを紹介したり、既存顧客へ日本語でのきめ細かいアフターサポートを提供しています。
私自身も、定期的に日本に出向き、日本市場を必ず自分の目で見て確かめるようにしています。
Image : Summit Art Creations / Shutterstock
経営トップとして「書いたコード」で語る
―経営者として大切にしている哲学はなんですか?
経営陣と現場の乖離ができないように努めることです。
私はCEOとして会社の陣頭指揮を執る立場にありますが、業務の約25%はソリューションの設計・開発に費やしていて、今でも広範囲にわたってコードを書き、ソリューションの設計を行っています。AI時代のセキュリティ企業において、経営者自らが「開発者」であり続けることは、極めて重要だと考えているからです。私が開発者として手を動かすからこそ、現場チームとの乖離ができにくく、ビジネス課題もいち早く見つけることができるのです。
また、私は創業当時から世界最高水準の企業から人材を採用することにこだわってきました。創業当初のメンバーは、グーグルやパロアルトネットワークス(Palo Alto Networks)の出身者であり、彼らが紹介してくれた優秀な人材を中心に徐々にメンバーが増えていきました。
こうした採用ネットワークは、お金をかければ手に入るというものではありません。社員がそれぞれ自らの専門性の軸を持ちつつも、チームとして支え合う組織づくりの要になっています。
これからも、さらに世界中に事業拡大していく予定ですが、どの拠点であっても妥協することなく、情熱のある誠実な人材だけを採用していくつもりです。
サイバーセキュリティの重要性を、全世界に伝えていくという使命
―最後に、御社が目指す「究極の社会的価値」についてお聞かせください。
サイバーセキュリティの重要性を、説得力を持って全世界に伝えていけるところだと思います。
多くの人は「サイバーセキュリティ=企業のサーバーやデータを守る技術」だと考えています。しかし、それは本質ではありません。セキュリティの本質は、企業で働く「人間」の社会的・精神的な幸福(ウェルビーイング)を守ることです。
今後10年間は、人類にとって非常に大事な局面になります。
AIは画面の中(アプリ)から飛び出し、自律型ロボットや物理デバイスとして私たちの現実世界に深く浸透してきます。人類にとって素晴らしい変革である一方、歴史が証明している通り、新しい技術革命は常に「新たな攻撃手法やマシンスケールの戦争」を引き起こしてきました。
だからこそ私たちは、高度な技術力とリアルタイムのデータプラットフォームを駆使し、「防御者が常に攻撃者よりも優位に立つ世界」を当たり前にしていきます。日本語でスムーズに連携できる強固なサポート体制も整っていますので、大切な技術と人々を守り、未来への投資を進めたいと考える多くの日本企業と、強固なパートナーシップを結べることを楽しみにしています。