タブレット端末やスマートフォン、KIOSK端末、POSシステムなど、ビジネス運営において目的に応じたデバイスの導入は必須ともいえる時代。しかし、これらを管理するソフトウエアはそれぞれが独立しているケースも多く、企業は各種デバイスをいかに管理するかが課題となっている。Esper(本社:米国シアトル)は、こうした全ての端末を一元管理できるモバイルデバイス管理(MDM)ソリューションを提供するスタートアップだ。共同創業者でCEOのYadhu Gopalan氏に話を聞いた。

目次
MDM領域でDevOpsの手法を採用
Amazon時代に見つけた「ニッチ市場」
日本進出は2025年予定

MDM領域でDevOpsの手法を採用

―御社は企業が保有するIoTデバイスを一元管理できるMDMソリューションを展開しています。他社との差別点などを教えてください。

 MDMは近年、多くの新規企業が参入していますが、当社の最大の差別化ポイントはDevOps(開発と運用の連携を重視する開発手法)を原則としているところにあります。

 他社は、デバイスの管理に重点を置いていますが、当社はソフトウエアのデプロイも容易にしています。企業活動においてもIoT化は著しく、業務生産性向上のためにさまざまなアプリケーションを次々に導入しています。こうした中で、当社のデバイス管理プラットフォームのように、ソフトウエアを容易に導入できるシステムを保有していると、競争力の向上につながるのです。

Yadhu Gopalan
Co-Founder & CEO
Auburn Universityで Electrical and Electronics Engineeringの修士号を取得後、1994年にMicrosoftに入社。Software Design EngineerやPrincipal Lead Program Mangerとして約19年間勤務する。2013年にAmazonに入社後はAmazon GoやAWSなどを手掛ける。2018年5月にEsperを創業、CEOに就任。現職。

―どういった方に利用されていますか。

 当社のソリューションは主に、デバイスの管理・運用システムを構築しようとしている企業の開発担当チームや運用担当チームに利用いただいています。

 ソリューションを提供する対象の業界は幅広く、例えば、小売、飲食、ホスピタリティ業界などさまざまです。これらの企業は、多店舗展開をしていることが多く、従業員が保有するスマホなどのデバイスを逐一管理する必要があります。さらに、店舗内の厨房やPOSシステム、キオスクなど、さまざまな機器とスマホは連携しており、ありとあらゆる場所から取得できるデータと連携させなければいけません。

 これだけの量のデータを安全に管理しようとすれば、優れた管理・運用システムが必要になります。当社のMDMソリューションは、AndroidとiOSに対応しており、各種ソフトウエアのアップデートやセキュリティ対策にも対応しています。また、企業がアジャイル開発した独自ソフトウエアの展開も、当社のソリューションを通せば2週間後に完了可能です。通常、数カ月かかることを考えると、スピードに優れていることが実感できるのではないでしょうか。

image: Esper

Amazon時代に見つけた「ニッチ市場」

―成功事例には、どのようなものがありますか。

 飲食チェーンのTaco Bellは当社の顧客です。同社は、約4年前に店舗内システムを自社製ソフトウエアに切り替えると決断したのですが、その際にわれわれがシステム移行をお手伝いしました。注文用のKIOSK端末、会計業務のPOSシステム、あるいはキッチン内など店舗の至るところに15点以上のデバイスが存在しているわけですから、どのようにしてソフトウエアをデプロイしたり、管理したりするかが非常に重要になってくるわけです。こうした異なるデバイスを同期させるために、当社のソリューションを活用していただきました。

 他にもClinical inkという、臨床試験管理を行う企業にも導入されています。同社は2〜3万台のデバイスを、臨床試験を受ける顧客に出荷していますが、これらのデバイスにもセキュリティ上のさまざまな管理が必要になっています。Clinical inkのような会社にしてみると、デバイスの使い勝手の良さやセキュリティ管理は顧客体験と直結しています。サービス体験向上のために新たなソフトウエアを開発することを考えても、当社のMDMソリューションのようなサービスが必要なのです。

―Esperを創業したきっかけは?

 私は長年、デバイス管理を専門にIT企業で勤務してきました。MicrosoftではSoftware Design Engineerを務め、AmazonではFire OSを担当したほか、Amazon GOのカメラの開発にも携わりました。

 Amazon GOでの経験は大変貴重なもので、買い物の内容の確認など、IoTカメラが果たす重要な役割を再認識したのです。私は長年組織で勤めていたのですが、以前からスタートアップ企業をつくりたいとずっと思っていました。先ほどもお話ししましたが、MDMの領域でDevOpsの手法を採用している企業は少なく、ニッチ市場を見つけた、と確信するようになりました。そこで、創業に至ったという経緯です。

―創業から約6年が経過していますが、成長を示す数字を教えてください。

 重要な数字はNRR(Net Retention Rate /売上維持率、既存顧客から得る売上の前年比)です。われわれはNRRを常に125%以上に保てており、前の四半期は143%でした。つまり、毎年毎年、顧客はわれわれのサービスを使い続けて、規模を拡大できているという意味です。

 Esperの成功は、顧客企業がどれだけ効率的にDEMを進められるかにかかっています。顧客の成功が我々の成功にも直結するわけですから、導入の前段階でも、料金を頂かずに正しいハードウエア選びをサポートしています。

image: Esper

日本進出は2025年予定

―日本市場に参入する考えはありますか?

 現在のEsperの顧客はほとんどがアメリカにいます。将来的に日本への進出も視野に入れています。具体的な時期としては、2025年ごろでしょうか。

 実は、私自身、Microsoft時代に日本で仕事をしたことがあるのです。NECや日立製作所といった企業が顧客でした。日本の商習慣は他国のそれと比較しても独特です。日本は製造業が分厚く、IoTデバイスのニーズは大きいと考えています。現地で適切なパートナーを見つけることさえできれば、進出のチャンスも大いにあるでしょう。

 具体的な業界としては、デバイスを開発する製造業や物流企業との協業が考えられます。ただ、言語のハードルがありますので、チューニングが必須だと思っていますが。

―日本企業とのパートナーシップを考えた時、求めている形態にはどのようなものがありますか?

 最も可能性が高いのは、OEMパートナーでしょう。その次に、投資など、資本関係の構築が絡むものが良いと考えています。第三に、再販業者や代理店が挙げられますが、この関係性は日本市場である程度成功してからが適切です。

 Esperはまだ従業員150人程度の、小さな会社です。日本市場での成功を確かなものにするためには、ソフトウエア・ソリューション分野で共に成功しようと考えているパートナーの存在が必要不可欠です。  



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