Photo: EQUINOM
日本料理にはかかせない大豆製品や、ゴマなど、原材料に注目してみたことはあるだろうか。イスラエルに拠点を置くEquinomは、遺伝子を組み替えないで、企業の要望に合わせカスタマイズした種子類や豆類の開発を行う企業だ。昨今GMO食品の安全性が取り沙汰される中で、昔ながらの技法とテクノロジーを融合することに成功したEquinomの創業者兼CEOであるGil Shalev氏に話を聞いた。

人のために栄養価の高い種子を開発

――御社の開発している種子について詳しく教えてください。

 自然は私たちにたくさんの栄養豊かな種子をもたらしてくれましたが、大手種子会社は低コスト化や、より多くの収穫を目指し種子を長年交配してきました。そのため、現在使われる作物の大部分は動物の餌となるので、タンパク質や資質など栄養に富んでいる必要がありません。そこで私たちは、動物の餌ではなく、人の食べ物として使用できる種子を交配することにしたのです。

Gil Shalev
Equinom
Founder & CEO
イスラエルのヘブライ大学にて植物工学の博士号を修得。フランスの大手種子会社Vilmorin傘下のHazera Geneticsで、トマトの交配などに4年ほど従事。2011年に独立し、Equinomを立ち上げる。

 昔の種子は、栄養価に富んでいましたが、歴史の発展とともに作物の交配はより経済的なものへと変化しました。私たちはタンパク質を多く含む多大な量の豆類の遺伝資源データを集め、それを分析・計算し、遺伝子を組み替えず最適な栄養価となるように交配を工夫します。私たちは遺伝子を操作せずとも従来の交配で栄養価を的確に左右できる独自のアルゴリズムを開発したのです。

――どうしてGMOを避けようと思ったのですか。

 もともと私は、植物遺伝学を学んでおり、博士号も修得しています。その後フランスの企業で働いていたときに、遺伝子シーケンシングの技術のコストが下がっている実情を知りました。しかしEquinomを立ち上げるまでは、その技術が種子交配に応用できることを知りませんでした。

 また、個人的に私は、食べ物は全ての人にあまねく行き渡るものであるべきという信条があります。私は少しばかりの人口に食べ物を与えるのではなく、世界中の人々に食べ物を届けたいのです。そのような信条を持ち、それを実現することに貢献できていることを光栄に感じます。

生化学を用いて原材料をより健康的なものに

――このような製品を開発するにあたってどんな点に苦労しましたか。

 古い種類の種子から新しい種子を作ろうとすると、何年もかかるものですが、私たちは種子の遺伝子配列をもとに、遺伝子を組み替えることなく、従来の交配のやり方を使い栄養価の高い最適な種子の組み合わせを見つけることに成功しました。

 最初に大量生産できたのは、ゴマでした。私たちの品種は従来のものよりも30%多くタンパク質が含まれており、処理後その数値は65%までに上昇します。これから年を追ってタンパク質を多く必要としていく食べ物業界にとってこれは革命的な数値です。

 また、立ち上げ当初、原材料を扱う大手の食品会社は、種子の交配の重要性を認識していませんでした。通常、食品会社は、市場で見つけることのできる原材料を使って製品化しようとしますが、背景にある生化学が分からなければ困難です。

 私たちはそれが商機だと思いました。製品を作りたくても、どんな原料が必要なのか分からないので、原材料の成分や遺伝子を理解できる人がいたら画期的ではないでしょうか。つまりクライアントの要望に応じて、業界基準を満たすどのような交配でも可能となるのです。

 例えば代替肉を原材料とするバーガーの場合、タンパク質の構造が異なり水分との結合能力が高くないといけません。しかし、クライアントに合わせてカスタマイズして種子の開発を行うとそれも可能となります。唯一の問題は、時間がかかり、膨大なデータベースを必要とすることです。

――どのような企業と協働していますか。

 クライアントのニーズを満たす必要があるため、サプライチェーンのどのような企業とも協働することはできます。現在は主に北米の農家や、食品加工会社と提携しています。

――これまで調達した資金の使い道や今後の目標を教えてください。

 現時点ではタンパク質に焦点を置いて種子の交配をしていますが、未来はタンパク質だけではありません。私たちには他の栄養価を高められるような技術もあるのです。

 また、1箇所で作物を栽培し輸出するより、ローカルのサプライチェーンを作る方がはるかにコストも安く持続可能です。最終的な目標は、既にある材料を加工するのではなく、自然な原材料を私たちから仕入れてもらうことです。加工コストもかからず、サプライチェーンでもコストカットができるので、他で取り寄せたり輸入するより大幅に費用を抑えることができます。

 資金のほとんどは、作物の生産体制の拡大に充てられるでしょう。最初は、エンドウ豆、その後は大豆、そして既に開発し販売を行っているゴマの3種類で、2022年はこれが中心となります。来年までにタンパク質を50%以上含む豆類のローンチも予定しています。

Photo: EQUINOM

日本でもゴマを展開。今後はタンパク質を多く含む種子もローンチ予定

――すでに日本企業とも協働しているそうですね。具体的にどんな活動をしていますか。

 実は日本市場では、もう既に4年以上も取引があります。取り扱っているのは主にゴマで、取引先は三井物産や三菱商事や花正などです。

 ゴマの収穫は手で直に行うので、汚染の面や菌の付着などが起こり得ます。そのため、もともとはトレーサビリティの分野で関心を寄せてもらったのがきっかけでした。そこから自社の製品を販売しはじめ、ゴマが非常に重要な原料であることが分かりました。

 日本は、納豆・豆腐・味噌など、様々な植物性タンパク質を原料にした製品があります。日本は私たちの戦略的な市場で、食の質にこだわり、トレーサビリティに関しての面でも非常に発達の余地がある市場だと思いますので、今後も植物性タンパク質の原料を中心に展開していきたいと思います。

Photo: kai keisuke / Shutterstock

――最後に読者にメッセージをお願いします。

 家畜の餌となるような作物ではなく、人が食べるよう設計された種子を摂取すべきです。テクノロジーが発達する一方、食べ物は非常に繊細です。様々に加工されたものを、口にしたいと思うでしょうか? そのような食品の開発に投資を行いたいでしょうか? 私はそう思いません。

 植物性タンパク質が今や話題となる中、私たちはその分野に既に7年も従事しています。人が口にする原材料の栄養価を改善していくといった意味では、私たちがパイオニアでしょう。人々がこれから普段何を口にするかは、どんどん選択の幅が増え、洗練されていきます。私たちは持続可能で、誰でも利用可能なソリューションを提供しています。自然が生み出したものを食べるということは、元来非常にシンプルなことですから。



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