IoT化で進むエンジニアリング業界の改革。設計システムも日々変貌を遂げており、業界のトレンドを逐一把握することは難しい状況だ。今回は「マイクロサービス」と呼ばれるソフトウェア開発の重要なアーキテクチャを、より簡単に・シームレスに管理できるようなプラットフォームを開発したCortex(本社・米カリフォルニア州)を取り上げる。共同創業者でCEOのAnish Dhar氏は、Uberでのエンジニア経験をもとに起業した。多くの企業が直面するマイクロサービスの課題やCortexが提案するソリューション、今後の事業展開について聞いた。

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Y Combinator 卒業後 セコイアキャピタルも出資

――御社の提供するサービスや立ち上げの経緯を教えてください。

 Cortexは、エンジニアリングチームが開発するサービスアーキテクチャについてより理解を深める手助けをしています。私と共同創業者はエンジニアとしての経験をきっかけに2年前に会社を立ち上げました。

 私自身は以前、Uberでエンジニアとして勤めていました。私のチームは300程度のマイクロサービスを管理していましたが、それらがベストプラクティスに則っているのか、どのチームがどのサービスを管理しているのかを把握するのが非常に煩雑でした。

Anish Dhar
Cortex
Co-Founder & CEO
2015年にUberでのキャリアをスタートし、4年ほどプロダクトエンジニアリングに携わる。退社後の2019年に共同創業者らと共にCortexを立ち上げた。その以前にも2社を起業しており、シリアルアントレプレナーでもある。

 当時はそれぞれのデータ管理がスプレッドシートやGoogle Docs等で行われていたため、1番必要な時にファイルが更新されていないなどの問題がありました。この問題は本質的にどの企業でも見受けられ、各企業がマイクロサービスの管理を手動で対処していることが分かりました。

 Cortexは、この過程を自動化することに成功したのです。立ち上げ後、Y Combiantor(のアクセラレータープログラム)に参加、卒業し、セコイアキャピタルから資金の調達ができました。現在35社以上が(当社のサービスを)導入しており、OpendoorやGrammarlyといった著名な企業がチーム内でCortexのプラットフォームを活用してくれています。

――技術開発について教えてください。どのような点で苦労しましたか。

 最も難しいことの1つは、多くの企業が使用している多様なサービスを全てまとめて、Cortex内で自動で追跡できるようにすることです。一部の企業は、Kubernetesといったオープンソースのソフトウェアでサービスを管理している場合がありますが、数千のサービスをシームレスにCortexにまとめるにはどうしたらよいでしょうか。

 私たちの場合、多くのリソースをR&Dに投入しました。例えば、オンボーディングのフローを改善したり、マイクロサービスの名称に基づいて自動でマッピングを行ったりしました。実際にサービスを集約する過程に時間をかけました。

Image: Cortex

調達資金で新機能開発、マーケティング強化

――創業から2年ほどが経ちました。これまでの道のりはどうでしたか。

 素晴らしい道のりだと思います。多くの企業がCortexを採用していることを大変嬉しく思います。毎週さまざまな企業の問い合わせがあります。これも、マイクロサービス設計に携わる多くの人々が、サービスをスプレッドシートや自分の頭の中で管理するといった、人の手によるマニュアルな方法以上のソリューションを求め始めているからだと思います。私たちは、業界内で非常に重要な問題を解決していると感じます。

――調達した資金の使い道を教えてください。

 2021年11月には、シリーズAの資金調達ラウンドで、セコイアキャピタル、Tiger Global Managementをリード投資家に1500万ドル(約17億円)を調達することに成功しました。2022年は特に営業チームを伸ばし、マーケティング業務に集中することで幅広い業界でブランドの認知力を向上させたいと思っています。

 製品開発の面でも新しい魅力的な機能をいろいろ計画しています。たとえば、今多くの時間をかけて取り組んでいる新機能の1つは「パーソナライゼーション」と呼んでいるものです。Cortexにログインした際、ユーザーにマイクロサービス一覧を表示し、どのチームが何をしているのかを把握できる機能です。

Image: Panchenko Vladimir / Shutterstock

 ユーザーの所属するチーム、設計するサービス、パフォーマンスなどが、ユーザー個々人のためにパーソナライズされたホームページで表示されます。エンジニアであるユーザー側からすると、Cortexにログインさえすれば、自分のパフォーマンスや、何を優先したらいいのか簡単に把握できます。

ローカリゼーションにも注力し、日本展開も視野に

――今後の目標を教えてください。

 長期的な目標を聞かれた際にいつも話すストーリーがあります。Uberで働き始めた頃、私のチームは10件のマイクロサービスの開発に携わっており、私はそのうち9件を担当していました。報告書の作成業務の際、1つのAPIが当時のUberの重要な決済の8割に関わっていたことが分かりました。実はそのサービスを設計したエンジニアは既に退職しており、私は報告書の作成で書類を確認したのでたまたま気づきました。

 つまり、エンジニアはサービスやAPIに変更を加えても、その変更が必要となった背景を知らなかったり、誰に聞いたらいいか分からなかったりする場合が多く、実際にこのような問題が起こりうるのです。私たちは、まさにこういった問題を防ぐための基盤を作っているのです。

 今はマイクロサービス限定ですが、同様の問題がAPIだったり、データベースといったレイヤーでも存在します。アーキテクチャの各レイヤーにそれぞれの問題点があり、予備知識が必要となります。今後はマイクロサービス以外の側面でもCortexを使えるようサービスを充実させていきたいと思います。

――日本市場展開の可能性について教えてください

 アジア、中でも日本は進出するのに最適な場所だと感じます。ローカリゼーションなども今年の大きな目標となるでしょう。また、私たちの助けを借りず、ユーザー自身でオンボーディングができるような仕組みを整えることにも多額の投資を行う予定です。それによって、誰でも・いつでもCortexを使えるようになります。

 私たちが解決を図る問題は、世界中のどのソフトウェア会社でも見受けられる問題です。日本のような国でサービスを展開し、マイクロサービスの複雑さを簡単にし、ソフトウェア企業を支援することができれば光栄に思います。

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