クラウドネイティブやAIサービスの拡大により、システム全体を正確に把握する「オブザーバビリティ」は開発現場の重要テーマとなった。しかし、従来のログ管理ツールは、データを保存・インデックス化してから分析する仕組みの限界により、コスト増とリアルタイム性の低下が避けられなかった。イスラエル発の Coralogix(コラロジックス)は、データを保存前の転送中に解析する独自技術でこの課題に挑む。今回は、創業者でCEOのアリエル・アサラフ氏に、同社の技術的優位性と今後の展望を聞いた。

目次
保存前の「転送中データ」を分析
AIアシスタントと一線画す「Olly」の実力
業界では珍しいシンプル料金体系
グローバル企業の導入事例
「過去5年間で35倍成長」
伊藤忠テクノソリューションズと提携
中長期的なビジョンは?

保存前の「転送中データ」を分析

 アリエル・アサラフ氏のキャリアは、イスラエル国防軍の精鋭情報部隊「Unit 8200」から始まった。通信分析や大規模データ処理に強みを持つ同部隊は、イスラエルのハイテク産業を牽引する人材を多数輩出していることで知られている。除隊後は、ナスダック上場のホームランドセキュリティ企業ベリント・システムズ(Verint Systems)に入社し、分析基盤や大規模システム運用の実務経験を積んだ。こうしたバックグラウンドを経て、2014年、26歳の若さでコラロジックスを共同創業した。

 コラロジックスは現在、世界600人規模へと成長し、テルアビブ、ロンドン、ボストンを主要拠点にグローバル展開を進めている。事業領域は「オブザーバビリティ」――ログ、メトリクス、トレース、セキュリティデータを統合的に可視化・分析する分野だ。

 同社の技術的優位性を支えるのは、「Streama(ストリーマ)」と「DataPrime(データプライム)」という2つの独自技術である。

Ariel Assaraf
Co-Founder & CEO
イスラエル国防軍の諜報部隊Unit 8200に所属し、通信分析と大規模データ処理の経験を積む。その後、ナスダック上場のホームランドセキュリティ企業Verint Systems(Thoma Bravoが買収)に勤務。2014年にCoralogixを共同創業。2019年にCEOに就任。

ストリーマ:保存前の「転送中データ」を分析する革新的アプローチ

 従来のオブザーバビリティ基盤は、すべてのデータをまず自社ストレージに保存し、インデックスを作成した後で分析するというモデルに依存していた。しかしこの方式では、データ量の増加に比例してストレージコストが急増し、処理レイテンシーも大きくなる。また、データはベンダー側に保管されるため、顧客が完全な所有権を持てないという構造的課題もあった。

 ストリーマは、この常識を覆す。アサラフ氏は次のように説明する。

「データを保存することなく、転送中(in transit)のストリームで深い解析とトレンド分析を行います」

データがストレージに書き込まれる前のタイミングでパターン認識、異常検知、トレンド分析を実行することで、

  • リアルタイム性の向上
  • コスト構造の抜本的改善
  • インデックス依存からの脱却
といったメリットを実現する。

データプライム:データ所有権と無制限の保持を両立

 データプライムは、顧客自身のストレージ(AWS S3など)にデータをオープンフォーマットで保存し、コラロジックス側からリモートで高精度クエリを実行できる仕組みだ。これにより、データをベンダー側に預ける必要がなく、無制限の保持期間と完全なデータ所有権を実現する。

 アサラフ氏はデータプライムとストリーマを組み合わせた価値を次のように説明する。

「ストリーマで分析し、必要に応じてリモートからクエリを実行することで、顧客は深い分析とデータ所有権、無制限保持、低コスト、そしてリアルタイム性を得られます」

競合との違い:アーキテクチャが“根本的に”異なる

 競合各社との違いについて、アサラフ氏は明確だ。

「コラロジックスは顧客のストレージで分析と保存を行いますが、競合はすべてを自社のストレージに置いてから分析する。アーキテクチャが根本的に異なります」

 自社ストレージ依存の競合は、

  • プロプライエタリ形式のため顧客のデータ所有権が制限される
  • ストレージの増加に伴いコストが跳ね上がる
  • データ量に比例して処理性能が低下しやすい
といった制約を抱える。

 一方、コラロジックスは顧客ストレージを活用することで
  • 最大70%のコスト削減(同社事例)
  • データガバナンスの強化
  • スケーラビリティとリアルタイム性の両立
といった構造的優位性を持つ。

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AIアシスタントと一線画す「Olly」の実力

 AI活用は、オブザーバビリティ分野でも進んでいるが、アサラフ氏は「その多くはエンジニアの補助ツールに留まっています」と指摘する。

 コラロジックスが開発した「Olly(オリー)」は、その枠を大きく超えたAIエージェントだ。技術的な質問だけでなく、ビジネスレベルの質問に自律的に答える。

「コラロジックスが構築したのはAIエージェントであり、できないことを支援するだけでなく、実際に調査を自律的に実行します」とアサラフ氏は強調する。

 例えば、「今、私のビジネスが収益を失っている原因は何か?」「顧客が不満を抱いている要因は何か?」といった問いに対し、Ollyはログ、メトリクス、トレースを横断的に分析し、ユーザー行動とバックエンド情報を統合して具体的な回答を返す。

「『なぜ今ビジネスが収益を失っているのか?』と尋ねると、Ollyがあなたのデータ、ユーザーの行動、すべてのバックエンド情報を理解して、『このサービスを修正する必要があります。方法はこうです』と教えてくれるのです」

 Ollyの登場によって、オブザーバビリティは単なる監視・可視化の領域から、ビジネス全体の意思決定を支える“理解”のフェーズへ進化した。もはや専門的なクエリを書けるエンジニアだけのツールではなく、組織の誰もが質問し、インサイトを得られるプラットフォームへと変わり始めている。

 アサラフ氏が目指しているのは、「誰でも深い技術的質問を投げかけ、シンプルな言葉で答えを得られる未来」である。コラロジックスの技術基盤が蓄積したあらゆるデータを、組織全体が活用できる時代がすでに動き出したと言えるだろう。

業界では珍しいシンプル料金体系

 コラロジックスの収益モデルは、、オブザーバビリティ業界では珍しいほどシンプルだ。課金対象はデータ量(ボリューム)のみで、ユーザー数や管理者数による追加料金は一切ない。

「ボリュームに対してのみ課金します。ログでもメトリクスでもトレースでもセキュリティでもAI監視でも、すべて同じです」

 顧客はボリューム単位をまとめて購入し、ログ/メトリクス/トレース/セキュリティなど、必要なユースケースに自由に振り分けられる。さらに、新機能は既存プランに自動的に含まれるため、追加の契約変更は不要だ。

 競合との差別化は、料金体系だけに留まらない。第1に、インデックスなしのアーキテクチャによる圧倒的なコスト効率。「コラロジックスは顧客のストレージで分析と保存を行いますが、競合他社はすべてを自社のストレージに置いてから分析します。そのため、彼らはより高コストです」

 第2に、データ所有権の完全性だ。顧客のストレージにオープンフォーマットで保存されるため、ベンダーロックインのリスクがなく、データガバナンスとコンプライアンス要件を満たしやすい。

 第3に、サポート体制の手厚さだ。「24時間365日、30秒以内に人間によるサポートを提供している企業は他にありません」とアサラフ氏は強調する。すべての顧客にテクニカル・アカウント・マネジャー(TAM)が配置されるのも特徴だ。

グローバル企業の導入事例

 コラロジックスの技術的優位性は、グローバル企業の実績によって裏付けられている。

 TradeWebは、債券やETF、デリバティブを扱うグローバル金融技術企業だ。1日130TBという膨大なデータを処理し、コラロジックス導入でMTTR(平均復旧時間)を50%削減した。セルフホスト型オープンソーススタックの保守負担から解放され、アーカイブデータへのアクセスが数秒以内に可能となった。保持期間は2週間から無制限へと拡大した。

 monday.comは、業務管理プラットフォーム「Work OS」を提供し、200以上の業種で数百万ユーザーを支えている。断片化していたログを統合し、R&D部門のログ検索時間を劇的に短縮。ログ量が60倍に増加する中でもMTTRを60%削減し、年間50万ドル以上のコスト削減を実現した。

 Pumaは、グローバルECプラットフォームでコラロジックスを活用している。ハイブリッドクラウド環境に散在していたログを統合管理し、MTTRを約1時間からほぼリアルタイムへと短縮。障害1件あたり約10万ドルのリスクを回避しつつ、コストを70%削減し、20以上のグローバル地域で展開した。

 これらの企業に共通するのは、オブザーバビリティを単なる技術課題ではなく、ビジネス成果に直結する戦略的投資として位置づけている点だ。アサラフ氏は「技術はビジネスの実現手段です。エラーを解決するだけでは十分ではありません。ソフトウェアが素晴らしくても、誰も買わなければ意味がない。我々は実際のビジネス成果につなげることを重視しています」と語る。

「過去5年間で35倍成長」

「過去5年間で約35倍成長しました」。アサラフ氏がCEOに就任した2019年以降、コラロジックスは急速な成長を遂げている。現在の組織規模は約600名で、売上の約80%が直販、20%がパートナー経由だ。さらに2025年6月には、NewView Capitalをリード投資家としてシリーズEラウンドで1億1,500万ドルを調達し、企業価値10億ドルを超えるユニコーン企業となった。

 次の2年間で注力するのは、Ollyによる「エージェント体験」を中心に据えた戦略だ。

「最大のマイルストーンは、エージェント体験をどう提示するかです。コラロジックスの主要な体験は、Ollyを通じたものになります」

 技術的優位性を活かし、技術者だけでなく組織全体の誰もが深い技術的質問に対して簡単な回答を得られる環境の実現を目指す。

 課題についてアサラフ氏は率直に語る。

「主な課題は常に競争です。そして急速な成長をどう効率的に行うか、品質をどう維持するかです」。ただし技術面については自信を示す。「我々は非常に優れた技術と技術チームを持っています」

 市場は十分に大きく、顧客は賢明だ。同社の成功は、どれだけ優れたパフォーマンスを発揮するかにかかっている。

image : Coralogix HP 「Olly」紹介ページ

伊藤忠テクノソリューションズと提携

 コラロジックスは日本企業との取り組み実績を持つ。日本最大級のシステムインテグレーター、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)とのパートナーシップだ。

 CTCのシリコンバレー拠点CTC Americaが主導し、CTC自身が提供するチームコラボレーションプラットフォーム「Tocaro」の開発チームにコラロジックスを導入した。CTCは投資家でありパートナーであると同時に、自社でもコラロジックスを実使用する「実践検証型」パートナーだ。

 Tocaroチームは、従来使用していたサービスの10分以上のログ遅延に悩まされ、リリース時には二つのツールでの監視体制を強いられていた。コラロジックス導入により、MTTD / MTTRを50%以上削減し、開発工数を月20時間削減した。ユーザー採用率は60%に達している。

 新たな価値創出も実現している。ユーザー行動を分析し、カスタマーサクセスチーム向けダッシュボードを構築。アカウント別のアクティブユーザー数や行動パターンを可視化し、チャーンリスクやアップセル機会を自動検知できるようになった。

 アサラフ氏は日本市場への本格展開に意欲を示す。「我々は東アジアで良好なプレゼンスを持っています。必要であれば日本にオフィスを開設する準備もできていますし、それは我々にとって良い機会だと考えています」

 CTCとの関係を基盤に、製造業、金融、通信分野への展開を計画。リセラーおよびソリューションサービスパートナーとの協業も積極的に模索している。

中長期的なビジョンは?

 5〜10年先を見据えたアサラフ氏のビジョンは明確だ。「すべてのビジネスデータが1つのプラットフォーム、つまり我々のプラットフォームに集約され、AIエージェントによって自動的に分析されます。そしてあらゆるビジネス判断が、コラロジックス上で実行される分析から始まり、そこで完結するのです」

 複数のツールを使い分ける時代は終わり、1つの場所で質問を投げかければよくなるとアサラフ氏は語る。

「次にどの製品を売るべきか?どの顧客がリスクを抱えているか?どの市場を開拓すべきか?そしてコラロジックスがすべてに答える。それが我々のビジョンです」

 オブザーバビリティからビジネスインテリジェンスへ。観測技術がビジネスの意思決定基盤になる未来を、コラロジックスは切り拓こうとしている。



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