グローバル・オムニチャネル対応に苦心するブランドのデジタル販売を支援
創業の経緯についてConforti氏は、「前職のGUCCIでは、ブランドの独自性を保ちつつ、世界で販売するという重要な経験を得ることができました。ビジネスモデルを異なる地域に合わせてローカライズすることを学んだのです。同時に、当時のモノリシックなプラットフォームでは、構築したいユーザー体験を維持するために十分ではないと理解し、ヘッドレス・コマース・ソリューションを開発することにしました」と切り出した。
PC、スマートフォン、チャットボット、スマートスピーカー、IoT機器など、ユーザーとの接点は増え、世界的なブランドであれば、さらに地域に応じたサービスを展開しなければならない。しかもブランドとしての統一した世界を保つ必要もある。従来のeコマースプラットフォームでは、顧客と対峙するフロントエンドと、商品管理や顧客管理をするバックエンドが統合され、最適な顧客体験を提供するための柔軟な対応が困難だった。
ヘッドレス・コマースのアプローチは、フロントエンドとバックエンドを切り分け、APIを通じてやりとりができるようにするというもの。これによって、多様化するユーザー接点に対して最適なインターフェースを迅速にデザインできる。しかも、応答速度などのパフォーマンスの最適化も可能だ。eコマースでは、100ミリ秒の遅延が大きな収益の差につながることもあるからだ。さらに、バックエンドではさまざまな外部システムとの連携も可能となり、ローカライズに役立つ。
Image: Commerce Layer
Conforti氏は「多くの企業がグローバル化を望んでいます。世界のすべての国で販売し、グローバル市場をサポートしたいと考えているのです。そのためには、ビジネスモデルをローカライズするための柔軟なソリューションが必要です。異なる文化、異なる通貨、異なる規制、あらゆるものがあります。しかし、その国の言葉で話し、その国の通貨で支払い、その国で利用できる配送業者との提携をサポートしたいというニーズがあります。このような柔軟性も、ヘッドレス・コマースが望まれる理由です」と語った。
ブランドに配慮した、ヘッドレス・ネイティブなテクノロジーとビジネスモデル
ヘッドレス・コマースは、最近のeコマース界ではちょっとしたバズワードとなっており、eコマース用のプラットフォーム大手のShopify社もヘッドレス機能をサポートするようになった。
Conforti氏に競合との違いを聞くと、「Shopify、Magento、Salesforce Commerce Cloudなど、モノリシックなソリューションもヘッドレスをサポートすると主張しています。しかし、私が言いたいのは、ヘッドレスはあとから追加する機能ではありません。私たちはピュアなヘッドレスです。CommercetoolsやElastic Pathなどのプラットフォームは、ヘッドレス市場の先駆者ですが、彼らのテクノロジーはレガシーで、私たちの方がよりモダンです」と説明した。
Commerce Layerのターゲット顧客はグローバル展開を望むブランドだ。Conforti氏は「世界のテクノロジーの中心地はアメリカですが、消費力という観点ではアメリカ以外の国が85%を占めています。ですから、ブランドをお持ちなら世界に目を向けるべきです。私はイタリア人ですが、イタリアにはGUCCIのような美しいブランドがあります、しかし、国内市場だけでは小さいため、できる限り多くの国をサポートしたいと思うのは当然です。私たちはこの課題を解決するソリューションを提供するために最善を尽くしているのです。私はGUCCIで学びましたので、グローバルなブランドが求めるものを知っています」と述べた。
ビジネスモデルは一般的なSaaSモデルだが、売上に対するシェアではなく、1回の注文あたりの固定の価格を設定している。Conforti氏はこのビジネスモデル設定は重要だとし、たとえブランドが多くの売上をあげたとしても、1回の注文は等しい労力しかかからないため、売上に応じた課金はしない方針だ。平均受注額が大きなラグジュアリー・プレミアム・ブランドにとってはうれしい設定だ。売上シェアというよりは、グローバルでのシェアを取りに行く戦略と言える。
日本市場では、技術パートナーやデジタルエージェンシーとの関係強化を希望
ヘッドレス・コマースの需要とモダンなアーキテクチャー、そして戦略的なビジネスモデル設定によって、Commerce Layerは急成長中だ。創業したばかりということもあるが、現在15名のチームは主にエンジニアリングが中心で、マーケティング機能はなく、口コミだけで売上高数百万ドルの収益をあげた。2020年5月に600万ドル(シリーズA)の調達をして以来1年間で6倍以上の成長を遂げたという。コロナ禍によって企業のデジタル変革が加速したことも追い風になっている。
Conforti氏は「パンデミックで多くのブランドが被害を受けました。実店舗の閉鎖によって、オンラインで事業を行っていなかった企業は本当に苦しい思いをしています。そこで皆さんが、デジタル活用はもはやオプションではなく、必須であることを認識しました。また、これまで卸売しかしていなかったブランドが、消費者に直接販売する動きも出ています。さらに、実店舗でであっても接客時に接触を控えるようになっており、ほかのシステムとの連携によって非接触決済のニーズにも応えることができます」と説明した。
Photo: Wirestock Creators / Shutterstock
ビジネスを展開する場面や地域に対応したPOSシステム、決済システム、物流パートナーなどと柔軟に接続できるのが、ヘッドレス・ネイティブなCommerce Layerの特徴で、多くの需要を満たしている。そして、2021年5月には1600万ドル(シリーズB)を調達。イタリアを中心としたヨーロッパの開発チームを現在の倍以上となる30名〜40名とし、少なくとも5名以上のマーケティング・セールスチームをアメリカに組織する予定だ。機能面ではサブスクリプション管理や、1つのサイトで複数のブランドを扱えるマーケットプレイスについても開発を進めるという。
日本市場についてConforti氏は「日本は興味深い市場のひとつだと感じています。そして、日本のブランドにもぜひ使っていただきたいと思っています。市場参入においては、テクノロジー・パートナーやデジタルエージェンシーなど、日本のブランドをサポートしてもらえるパートナーシップ契約を結びたいと思っています。彼らがクライアントをケアし、サポートすることが一番よい方法だと思います」と述べた。
Commerce Layerは、柔軟性とスピードを武器にしたヘッドレス・コマースによっての新たなeコマースの標準になり、ユニコーン企業としてのIPOを目指している。Conforti氏は、そのために世界中の開発者やパートナーに利用されるソリューションにすることがミッションであると語った。