IoTやAIを活用して、さまざまな住宅設備・家電製品のオートメーション化や遠隔操作を行い、快適な暮らしを実現するスマートホーム。近年、注目が高まるこの市場に早期から参入し、業界を牽引するスタートアップがアクセルラボ(本社:東京都新宿区)だ。同社が手掛けるスマートホーム・プラットフォームサービス「SpaceCore(スペース・コア)」は、家の照明やエアコン、シャッター、給湯器、スマートロックなどを一元管理。それだけでなく、高齢者や子供の見守り、ホームセキュリティなど暮らしを丸ごとカバーしていて、サービスを利用する不動産事業者や入居者が急増している。創業者でCEOの小暮 学氏に、プロダクトの特長やスマートホーム市場の展望を聞いた。

目次
スマート化した自社物件に大反響、手応え得てアクセルラボ設立
「人が家に合わせる」から「家が人に合わせる」へ
スマートホーム化で賃料アップに貢献
スマートホーム分野のデファクトスタンダードに

スマート化した自社物件に大反響、手応え得てアクセルラボ設立

―アクセルラボを立ち上げた経緯をお聞かせください。

 もともとは不動産投資会社に入社し、投資家に投資不動産を提案するコンサルティング営業のようなことをやっていました。その経験を生かして、当時27歳だった2004年に不動産投資会社のインヴァランス(2020年10月に大東建託が子会社化)を起業しました。

 2015年ごろからアメリカをよく訪れるようになり、不動産業界をはじめ色々なものが変化しているのを実感しました。スマートホームもすでに立ち上がっていたんですね。あらゆるものがインターネットにつながっている「IoT化された住宅」を目の当たりにし、この流れは日本にも来るだろうと感じました。そこで、社内に担当部署を作って、まずは自社物件をスマート化しようと動き出したのがスマートホーム開発の始まりです。

 約1年かけて自前のアプリケーションやソフトウエアの開発し、完成したのは2016年末ごろ。お風呂を沸かす、照明のオン・オフ、エアコンの操作などを全て手元のスマートフォンで行えるもので、建物を1棟丸ごとスマート化してお客様に提供したところ、入居者の反響がものすごく良かったんですね。「私たちが想像していた『未来のおうち』って、もうあるんですね」なんていう声もいただいたほどで。

 例えば、玄関の鍵を開けたり閉めたりできるスマートロックも、使ったことがない人にはその便利さが実感できないかもしれません。しかし、毎日使うようになると、いちいち鍵を取り出して差し込むという作業が面倒になり、スマートロック機能がない住宅に不満を感じるようになるものです。

 実際に利用した入居者の声を聞いて手応えを感じ、自社物件への実装だけでなく、外販も手掛けていこうと、2017年7月にアクセルラボを立ち上げました。(設立当初はインヴァランスの100%子会社。2020年10月にインヴァランスとの資本関係を解消、大東建託と資本業務提携を締結)

小暮 学
代表取締役 / CEO & Founder
不動産投資会社営業職を経て、2004年、27歳でインヴァランスを設立。総合デベロッパーとして東京都内の投資用マンションにおけるリーディングカンパニーへと成長させる。2017年、アクセルラボ設立。空間とテクノロジーの融合を掲げ、スマートホームサービスなどさまざまな事業を展開。AI・IoT分野の海外スタートアップへの投資も積極的に行っている。

「人が家に合わせる」から「家が人に合わせる」へ

―プロダクトの特長や強みを教えてください。

 当社は自社開発したIoT用のエンジンを住宅向けにアレンジし、「SpaceCore」というプラットフォームを提供しています。SpaceCoreは、他社メーカーが製造するカメラやセンサー、家電などのさまざまな機器、給湯器や床暖房などの住宅設備を接続しアプリ1つでそれらを自在に操作することができます。メーカー系のアプリの場合、鍵のアプリ、お風呂のアプリ、家電のアプリと個別のアプリが提供されるため、機器ごとにアプリを切り替えなければならず、ユーザビリティが低くなり、結局ユーザーがアプリを使わなくなってしまいます。その点、われわれのアプリはさまざまなデバイスを一元管理ができて、シームレスに操作することができます。

 例えば、夜になって家の中を明るくしようと思ったら、アプリ操作1つで自動的にカーテンを閉めて照明を点けてくれますし、寝る時にスマートスピーカーに「お休み」と一声かければ照明を消してエアコンを止めてくれる。今までの住宅だと、照明を1つ点けるにもわざわざスイッチのところまで歩いていかなければならず、「人が家に合わせて生活している」状態でしたが、SpaceCoreを導入すれば「家が人に合わせてくれる」んです。

 また、セキュリティに関しても、鍵を閉めずに家を出ると、何分か後に「鍵が開いていますが、閉めますか?」という通知がスマホに届き、簡易的なホームセキュリティも実現できます。現在、警備会社によるホームセキュリティは、25分以内の駆け付けサービスが必要なために料金が高くなり、アメリカでは30%以上導入されているのに対し、日本では10%に届いていません。しかし、SpaceCoreならセンサーが侵入者を検知してスマホに通知し、知らせを受けた居住者がwebカメラで室内を確認して警察に通報するといったことが可能になります。

―SpaceCoreの導入は、不動産業者にとってはどんなメリットがありますか?

 管理会社の業務の3割は入居者とのコミュニケーションだと言われていますが、SpaceCoreならアプリ上でコミュニケーションを取ることができますし、煩雑な入退去の管理も効率化できます。メーカー系のアプリだと、入居者が変わるたびに現地に行ってIoT機器のリセットボタンを押し、前の入居者が機器を利用できないようにするといった作業が必要になります。入居者が毎年25%~30%入れ替わる中、いちいちこうした作業を行うのは大変な負荷です。

 しかし、当社のアプリは賃貸管理ソフトとインテグレートされていますので、入退去日に合わせて自動的に機器がリアクティベートされて、退去者の利用を停止し、入居者がすぐに機器とアプリを使えるようにできます。また、内装業者などには自動生成したパスコードを発行しますので、鍵の受け渡しもなく部屋の工事ができます。このように、当社のアプリは入居者にとっても管理会社にとってもユーザビリティが非常に高く、事実、70%近いアクティブユーザー率をキープしています。

image: アクセルラボ 「SpaceCore」

スマートホーム化で賃料アップに貢献

―SpaceCoreのビジネスモデルや導入事例についてお聞かせください。

 将来的には、Amazonプライムのように居住者向けの有料サービスの提供も考えていますが、現在はBtoBで事業を展開しています。賃貸業界最大手の大東建託さんをはじめ、多くの不動産会社にSpaceCoreを採用いただいていますし、SpaceCoreの名前は出さずにわれわれがデバイスからソフトウェアまで全て提供するOEM的なビジネスも数多く手がけています。

 当社にも投資されている国内最大の独立系不動産ファンド会社ケネディクスは、ここ数年、戸建て賃貸の展開に力を入れています。戸建て賃貸には大きな需要があるにもかかわらず、これまでサプライヤーがほとんどいなかったのですが、同社がその市場を開拓し、毎年数千億円のアセットを積み上げています。戸建て賃貸市場のメインターゲットはファミリー層ですが、そのお客様たちが気にかけているのがセキュリティ面であるため、SpaceCoreが採用され、全戸に標準導入していただいています。

 この戸建て賃貸の管理・運営は、東急住宅リースが行っていますが、同社が想定したより1万5,000~2万円ほど高い賃料が得られているとのことです。アメリカではスマートホームの普及率が50%近くに達しているので、当社のようなプロダクトの標準装備が半ば当然と思われていますが、日本ではまだ普及率10%そこそこですので、十分な差別化になり、賃料アップに確実に寄与できると考えています。

―今や数多くのユーザーに利用されているSpaceCoreですが、事業展開に当たってはどのようなご苦労がありましたか?

 常に新しいソフトウェアを開発したり、機能を高めたりし続けていますので、開発費の調達が大変です。また、スマートホームを普及させる上では、足回りも強くなければなりません。不動産管理会社や居住者が皆IoTに詳しいというわけではありませんので、設置・設定を任せるのは負担になりますし、不具合が起きた時にその原因が無線の通信プロトコルなのか、クラウドなのか、デバイスなのかも特定できないと思います。そのためわれわれが設置・設定からテクニカルサポートまでカバーすることが必要で、かなりの手間とコストがかかります。そこで昨年、カスタマーサポートに特化した「インスタテック」という子会社を設立しました。

―スマートホームは今後成長が見込まれる市場だと思いますが、競合はいますか?

 競合はいるにはいますが、外国製のシステムを使っている会社がほとんどで、当社のようなIoTプラットフォームを自社開発し、運用しているような会社は存じません。それに、日本の住宅は5,000万戸以上あり、スマートホームはそのうちの10%しかないわけですから、新たな競合が現れてもわれわれの事業に支障が出る心配はありません。

image: アクセルラボ

スマートホーム分野のデファクトスタンダードに

―御社は住宅以外の領域でも事業展開されていますね?

 スマートホーム開発で培った技術をベースにしたIoTエンジンを開発し、ホテル業界や介護業界にも提供しています。例えば、ホテルではチェックアウト一つとってもフロントに宿泊客の行列ができたりしますが、IoT技術を使えばその手続きを簡略化し、ホテルとお客様双方の負荷を減らすことができますし、介護施設にしてもwebカメラを使えば、入居者の部屋にいちいち足を運ばなくてもスタッフステーションから入居者を見守ることができます。

 その他、公民館などの施設でも、閉館時にわざわざ鍵を閉めに行かなくても遠隔でロックできるようにして効率化を図ったり、面白いところでは、鉄道駅のトイレの混雑状況を利用者が把握できるようにインターフェースを作ったりもしています。人手不足が進む中、IoTによるDXのニーズが高まっていて、建設現場でのセキュリティ管理や、農家のビニールハウスの温度管理の自動化など、今後当社のサービスはさらに多くの業界で活用されるようになるでしょう。

―この数年、業績はどのように推移していますか?

 3年ほど前から当社のサービスを利用される企業が毎年100社以上増加し、現在導入社数が350社、利用件数も2万3,000件を突破しています。IoTエンジンの収益を含めると、売上も毎年3倍以上というペースで伸びていますね。

―今後の目標やパートナーシップの可能性について教えてください。

 当社はSpaceCoreをスマートホーム・プラットフォームのデファクトスタンダード(事実上の業界標準)にすることを目標にしており、2028年には累計100万件のデバイス導入、上場時に年間20万室の導入を目指しています。その目標に向けて、これからさらにソフトウェアの開発にも力を入れていきますし、「Matter」対応のゲートウェイの開発も進めています。

 Matterは無線通信規格標準化団体CSAが推進するスマートホームの国際標準規格で、メーカーやプラットフォームの枠を超えてIoT機器間のシームレスな通信を可能にするものです。当社もCSAに加盟していますが、今後Matterが普及すれば、さらに多くの機器がよりスムーズにつながるようになりますので、ユーザーの利便性も一層向上するはずです。

 パートナーについてですが、当社は大東建託やケネディクスなどの不動産事業者と連携して事業を展開していますし、ハードウェアに関しても、美和ロックとMatter対応製品の開発で協業しているのをはじめ、パナソニック、パーパス、リンナイなど多くのメーカーとオープンに連携させていただいています。これからIoT機器やソフトウェアの進化とともに、スマートホームのみならず、IoT技術を活用したDXがさまざまな業界で進められていくと思いますので、それらの企業といろいろな形で連携できるのではないかと思っています。

―御社の将来のビジョンと、将来の顧客やパートナーに対するメッセージをお願いします。

 当社は「IoTを、日本社会の『あたりまえ』に」というビジョンを掲げていますが、IoTがさらに普及すれば、人と住宅や施設、機器がシームレスにつながり、利便性が高まるとともにさまざまなコストが下がるはずです。われわれはIoTによるイノベーションを通じ、そのような快適な社会の実現に貢献していきたいと思っています。

 スマートホームは、いずれ温水洗浄便座のように住宅のスタンダードになると思います。しかし、何千万世帯もある住宅をわれわれの力だけでスマート化するのは困難で、そのために多くの企業とオープンに連携して事業を進めています。また、住宅だけでなくIoTを活用してさまざまな社会課題を解決したいと思っていますし、必要なところに必要なソリューションを提供する技術も持っていますので、業種にこだわらずオープンにつながっていければと願っています。



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