商用・オフィスビルの電力消費量の約70%はHVACシステム
―まずは75F設立の経緯を教えていただけますか。
私は、元々はネットワークエンジニアでした。そして、当時1歳だった娘の夜泣きがきっかけで、HVACシステム(暖房・換気・空調システム)に関わり始め、人生が変わりました。
娘は、子供部屋で寝かせると、夜中に必ず泣きました。これは、夜中に室温が10度以上下がり、室内が寒くなることが原因でした。そして、室温が下がる理由は、サーモスタット(温度を調整するための装置)が西向きの主寝室に設置されていることにありました。主寝室には夕日が差し込み、室温が上がります。主寝室以外の部屋には温度センサーがなく、サーモスタットは主寝室を基準にしているため、暖房が入らず室内が寒かったのです。私は、エンジニアの誇りにかけて、この問題を解決するために当時の仕事を辞めました。これが75F設立につながっています。
―御社のサービスについてお話いただけますか。
75Fは、コマーシャル(商用・オフィス)ビルを対象に室内空気質の維持、室温制御、照明およびスペース管理サービスをご提供しています。私たちはこれをビルディングインテリジェンスシステムと呼んでいます。
電力消費量という観点では、エネルギーの60%〜から70%がHVACや照明の制御システムから送られます。私たちはHVACのオペレーションにおける30%〜50%のエネルギー効率を実現し、顧客においては41.8%ほどの省エネルギーを実現しています。
現在は、オフィスビルでの導入が主で、次に、レストランや小売店でも導入されています。他には、診療所(クリニック)での導入もありますが、総合病院は対象外です。
機械学習、デジタルセンサー、クラウドを使ったトータルソリューション
―ハードウェアとソフトウェアも提供していると伺いました。
2012年に事業を開始した当時は、ほとんどのビルに直接デジタル制御(Direct Digital Control/以下DDC)と呼ばれるコントローラが導入されていました。DDCは、90年代半ばから後半に作られた非常に古いアーキテクチャなため、近代的な新しいビルでは設置が難しい傾向がありました。また、VSPによるIoTやクラウドコンピューティングが普及していたタイミングだったため、HVACトータルソリューション実現において、テクノロジースタックに何が求められるか明確でした。
当社は、「パズルの中の1ピース」ではなく、IoT、特にデジタルセンサーを活用し、ハードウェア、ソフトウェアと、ビル全体を最適制御する機械学習レイヤーを含めた、完全なアーキテクチャを構築しました。ソリューションに含まれる構成要素は全て慎重に設計されており、システム全体として非常によく機能します。
―御社の強みを教えてください。
そうですね。他社の多くはソフトウェアの最適化など、問題を部分的に解決する「パズルの中の1ピース」的なソリューションでしかありません。
当社は、ディープテック(Deep Tech)です。制御デバイスの設置と、空気の流れやHVAC機器の監視だけでなく制御も行い、問題を全体的に解決し、「ディープ」なところから電力消費量を削減しています。商用・オフィスビルにおける再生可能エネルギーの導入も現実的になるほど、画期的な削減です。
シンガポールに展開。日本展開にも意欲
―新型コロナウィルスの影響で、オフィスや商業施設に行くリスクに人々が気づき始めています。今後の働き方などにもたらす変化についてどう思われますか。
今後の見通しについては興味があります。新型コロナウィルス以前から、外の新鮮な空気を取り入れ、室内空気質をやや正圧な状態に保つことが好まれていましたね。
当社のソリューションは、現在の状況になる前からリモート操作が可能です。現在は、多くのビルが完全に閉鎖されていますが、HVACシステムの多くは現場に行かないと調整ができません。当社のソリューションを使っている顧客は、リモートでスタンバイモードに切り替えられるので、現場に人を派遣する必要はありません。
―今後日本市場への参入はお考えですか。
ロードマップにありますが、まだ具体的な予定はありません。参入する際には、ビジネス拡大を支援してくださる日本企業のパートナーが必要です。
米国外ではインドと、最近シンガポールに事務所を設立しました。公益事業庁のシンガポール・パワーがパートナーとなり、電力使用量削減のために当社のシステムが広く導入されています。
シンガポール市場は、ある意味、日本市場と似ているところがありますので、シンガポールでの経験が日本市場に参入する時に活かせると考えています。