パンデミック中で声高に叫ばれる感染防止。マスクの在庫不足や手に入らず転売される消毒液などは、未だ人々の記憶に深く刻まれている。そのような状況を変えるべくパンデミック中に立ち上がったのが、米国発のバイオテック企業R-Zeroである。同社は室内空間を守るUVC(紫外放射)ライト滅菌装置を開発している。同社は今年6月にシリーズBで4,000万ドルを調達し、日本展開も視野に入れている。今回はCEOで共同創業者のGrant Morgan氏に製品開発の背景や、今後の展望を聞いた。

人々の健康のため、感染防止にIoTを活用

――まず製品の概要を教えてください。

 私たちは医療用グレードのUVCライト滅菌装置を開発しています。設計・開発・製造をすべて自社で行い、起業から5ヶ月で販売開始までこぎつけました。

Grant Morgan
R-Zero
Co-Founder & CEO
カリフォルニア工科大学サンルイスオビスポ校で、機械工学の学士号を修得後、米国の製薬会社アボット・ラボラトリーズでR&Dを担当。その後、モバイル関連スタートアップでのVP職、立ち上げ及びCTO職に従事し、2020年に共同創設者2名とR-Zeroを設立する。

 コロナ禍以前は、私たちは室内空間の消毒をあまりうまく行ってきませんでした。大量の化学薬品で除菌を行っている実情は、100年前と何も変わっていません。毎年インフルエンザなどが流行するのに、ただ手をこまねいていました。

 私たちのミッションは、感染予防です。最先端のテクノロジーを使って、洗練された消毒方法を生み出すべく私たちはスタートしました。

 未来はIoTが鍵です。滅菌範囲や程度などデータサイエンスを活用してリスクを減らすべきです。私たちが開発したのは自動の空間除菌システム「Arc」で医療用グレードを実現し、化学薬品を使わず、環境負荷も低いUVCライトを使用した機械となっています。

コロナ禍という歴史的な災難を転機に

――コロナ禍で起業したそうですね。事業立ち上げのきっかけは何でしたか?

 私たちはこのコロナ禍で、人の死や経済への甚大な影響など、人生に一度あるかないかの例を見ない災難に直面しました。私と、シリアルアントレプレナーであるEli Harrisと、20年以上ベンチャーキャピタリストとして従事したBen Boyerの3名で、自分たちに何かできることはないかと考え始めました。当時は3人ともそれぞれの仕事に携わっていましたが、私はここで動かなかったら後で後悔するだろうと思ったのです。

 最初は、歴史的に影響力のあった事件を調査するところから始めました。例えば、空港に液体の持ち込みが禁止されるきっかけとなった9・11テロを見ると、このような大型の災難のあとは、何かしら社会のシステムに変化が起こっていることが分かります。

 パンデミックの場合、そのような変化は公衆衛生面におけるものだろうと考えました。人々が安全に公共の場所に戻ってこられるようにするには何が必要だろうか、と考えた時に、予防が肝心だと分かりました。

Photo : Maridav / Shutterstock

フルリモートで起業

――コロナ禍の企業は大変だったんじゃないでしょうか。事業立ち上げにあたり、どのような点が課題でしたか?

 人と人との間のコミュニケーションが制限される中、私たちはフルリモートで勤務していました。素晴らしいチームメンバーに恵まれましたが、関係を構築したくてもリモートで交流を図る難しさもありました。仲良くなりたくてもチームで集まれなかったり、つなげたい人をつなげられないもどかしさを感じました。その中でも絆を深めようと社員一丸となり頑張ってきました。

 また製品開発では、製品に実際に触れられない難点や、急成長する会社のスピードに対応する難しさも経験しました。製品設計の当初は、UVCライトの在庫が全くなく、セミコンダクター不足にも陥りました。マイクロチップの供給も、より競争的になるばかりなので、苦労しました。

 幸い、私たちには素晴らしいサプライチェーンがあり、提携しているパートナーにも恵まれました。開発したい製品の主軸となるパーツが取り寄せられないと、元も子もありません。必要としている施設にいち早く製品を届けたいという一心でした。

――開発している新製品についての詳細を教えてください。

 現在は、 取り付け可能な自動滅菌機械を開発しています。化学薬品を使った消毒では労働力、時間、手間もかかり、体にも悪影響です。天井等に取り付けられ、自動で動く製品があれば、その問題は解決できます。

 また、センサーを開発している企業を最近買収したので、空間がどのように利用されているのか、人の流れなどをより上手く把握できるようになります。どこに人が集まりがちで、どこにリスクがあるのかなどをデータとして戻してくれるのです。そのデータを機械が受信し、リスクを数値化して滅菌範囲を定めることができます。人がいなくなれば、自動で電源が切れるといった具合です。省エネにもなりますね。

Photo : R-Zero

わずか設立1年でシリーズBの4000万ドル調達。日本展開にも意欲

――今年6月にシリーズBで4000万ドルを調達しました。調達した資金の使い道を教えてください。

 チームを大きくし、どんどん新製品開発を進めていくことが目標です。どこの室内空間でも、リスクを把握し、空間がどのように活用されているのかについて情報を得る必要があります。センサーや、データサイエンス、マシーンラーニングを使い、より製品に拡張性を持たせたいと思います。また特定の空間での感染を減らせることを証明するための臨床試験の実行も予定しています。

 さらに、国際展開も考えています。人々の衛生保全は、万国共通です。日本は、公衆衛生の面では進んでいると感じるので、いいフィットになるのではないでしょうか。私たちの製品は、どこであっても簡単に組み立て可能となるよう設計しているので、市場を問いません。ぜひ日本のマーケットにも進出したいです。

――今後の会社としての目標は何でしょうか?

 現在、年末までに、チームを2倍に拡大しようとしています。来年は、さらに2〜3倍に拡大させる予定ですが、国際展開が大きなポイントになるでしょう。また、臨床試験を通して、機械の有用性を証明することで、ただの宣伝文句ではないということもぜひ普及させたいです。

 そして、次のステップは、レストランや教育施設、オフィス等に機械を設置してもらうことです。それが私たちにとっては、成功を意味する最重要なポイントとなるでしょう。



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