パナソニック ビジネスイノベーション本部 主幹
足立 崇彰
今回は2018年11月開催のセミナー「国内大手企業担当者が語るシリコンバレーの今と活用法」のパネルディスカッションの内容をお届けする。パナソニックの足立氏がシリコンバレーの活用法、スタートアップとの事業連携の方法論を紹介した。
(モデレーター:Ishin USA CEO 丸山 広大)

足立 崇彰(あだち たかあき)
2018年6月まで4年間シリコンバレーでPanasonic Venture Group / Associate Directorとしてベンチャー投資、事業開発に従事。 帰国後は事業開発に従事するとともに、スタートアップのアドバイザや大阪商工会議所のインキュベーション組織 Xportのメンター/オーガナイザーを務めるなど社外での活動を行っている。

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現地決裁できる100億円ファンドを設立

―まずパナソニックさんのシリコンバレーでの取り組みを紹介してもらえますか。

 自己紹介ですが、今の会社が2社目で、いまは事業開発を行っていますが、もともとエンジニアです。パナソニックに入ってからは半導体部門で長く開発をしてきました。そして2014年7月に、アメリカで投資をせよと言われて赴任しました。ですから渡米してからCVCと事業開発を始めたということです。

 パナソニックの投資はもともと、本社の技術部門から始まり1998年にファンドを作って活動を始めました。当時のシリコンバレーは、日本人が行って何かを探そうと思ってもまったく難しい状況でした。

 ローカルネットワークに入らないと難しかったので、ファンドを作り、現地のキャピタリストを雇って情報を得ていました。

 シリコンバレーは新しい技術が生まれる場所である一方、ビジネスが生まれるところでもあります。そこで2017年4月に、パナソニック・ベンチャーズというCVCを立ち上げました。

 この会社はCVCと言いながら、投資判断時に共同開発などはまったく求めません。KPIもフィナンシャルリターンに設定しています。活動領域が技術開発からビジネス開発へと移っているので、本社の主管は技術部門ではなく、経営企画に集約されています。

 この新しいファンドは、ファンドサイズが100ミリオンドル(約110億円)で、期間は10年間。フィナンシャルリターンを目的にしているので、シリーズB、Cあたりのステージを中心に投資しています。

 特徴として、かなり優秀な現地のキャピタリストを雇い、ネットワークに深く食い込んで活動しています。それから一般的な日本企業ですと、投資判断のスピードは平均で3〜6カ月だと思います。しかし、うちの投資チームは最短1時間で投資を決めたという実績もあります。

 これは日本の判断を仰がず、現地の日本側の責任者とマネージング・パートナーの2人で投資判断ができる形にしているからです。本当に良いスタートアップ企業への投資は、それぐらいのスピードが必要であるということです。

インキュベーション・スペースから協業が決まった

 それから、私が手がけたプロジェクトとして、インキュベーションがあります。シリコンバレーのパナソニックのオフィスにインキュベーション・スペースを作り、ここでスタートアップの育成を行いました。

 当時は、ものづくりのスタートアップは量産、商品化の段階で失敗することが多く、せっかく良いスタートアップ企業があってももったいない部分がありました。我々は製造業ですので、そこをサポートしようと考えていました。そこにはIoTのプラットフォームをやっているスタートアップや、自動調理ロボットを作っている企業などが入居していました。

 やはりオフィスの中にスタートアップ企業がいると、気楽に会話をする場ができます。当初はこのスペースを開いてから1〜2年経って協業することができれば良いと思っていましたが、半年で協業が始まりました。また、知財部門はスタートアップ企業の知財戦略をサポートしたりして、お互いに良い関係が築けたと思います。

 日本に帰国してからは、継続して事業開発、日本へ来たシリコンバレーのスタートアップとの協業なども行っています。社外でも新しいことも始めており、大阪商工会議所と大阪工業大学が作った「Xport」というオープンイノベーション拠点でメンターをしています。

 シリコンバレーにいた日本の方は帰国すると、それぞれの会社に戻ってしまい、繋がりがなくなってしまいます。東京はたまに皆が集まることがあるのですが、大阪では機会が少ないので、コミュニティをつくる必要性があります。シリコンバレーにいた人とシリコンバレーに興味がある人を繋げて、万博もあるので大阪を盛り上げていく活動をしています。

シリコンバレーは新しいビジネスが生まれる場所

―あらためて確認なのですが、なぜシリコンバレーなのでしょうか。何を目的にシリコンバレーで活動しているのでしょうか?

 世界のエコシステムの中では、シリコンバレーは新しいビジネスが生まれる場所。技術は、実はシリコンバレーだけではなく、様々な場所で生まれてシリコンバレーにやってきます。

 我々はビジネスを作りたいのでシリコンバレーにいます。例えば、ものづくりで学ぶ場合は深センなど、場所により役割が分かれています。

―シリコンバレーで事業開発をするためには、スタートアップとの連携は欠かせません。まず、どのように良いスタートアップを探していくのでしょうか?

 渡米した当初は、イベントに参加して人と知り合って情報を取っていました。そのうち自分が何をやりたいのかを発信していくと情報も入ってくるようになりました。

 イベントというより、知り合いからスタートアップを紹介されることが多く、私が投資した直近の2件もその紹介によるものです。結局、人ですね。

自社のやりたいことをスタートアップに明確に示す

―シリコンバレーには世界中の大企業が集まっているので、日本の大企業でも存在感を示せるわけではありません。その中で、どのようにスタートアップに対して自社を売り込むのでしょうか?

 日本企業では、スタートアップと打ち合わせをしても、相手の話を聞くだけという形が多くあります。それだとうまく進まないので、こちらから先にプレゼンテーションをします。小さいことですが効果的です。

 パナソニックは色々な事業をしている反面、何をしたいのか分からない。ですからこちらからこんなことをやりたいと先に言うと話がスムーズに進みます。

―スタートアップとの協業が始まった場合、日本本社、既存の事業部との連携が必要になります。どのように橋渡しをしていますか?

 私が渡米する以前は、駐在員がスタートアップ企業を見つけて、日本へ出張して紹介する形が一般的でした。しかし、それでスタートアップの良さが伝わるのかと言うと、絶対伝えられません。

 そこで、日本本社の社員にアメリカへ来てもらって、スタートアップと会う形に変えました。それだけでも変わります。こんなスタートアップがあると押しつけられるよりも、こちらへ来ると自分も探し当てた一人になった感覚が生まれます。

水平分業の経験がシリコンバレーで活きた

―あかせる範囲でいいので失敗談を聞かせてもらえますか。

 あまり失敗をしていないのですが(笑)。スタートアップとの付き合いの中で色々な話はするのですが、あまり不用意なことを言うと危ない、という話があります。

 あるスタートアップが資金調達に苦労して、我々との関係をエサに他の会社から資金調達をしようとして問題になりました。メールを全部提出してくれとか、事実関係を調査するという話になったんです。怖気づく必要はないのですが、気をつけるべきところは気をつけて付き合わないとアメリカでは怖い部分がありますね。

―シリコンバレーではどういった方が活躍できると思いますか。

 渡米の際、なぜ投資経験のない自分がアメリカへ行くのかと聞いたところ、「生命力が一番強いからだ」と言われました(笑)。ですから生命力は強い方がいいと思います(笑)。

 あと、事業経験のある人間のほうが、スタートアップの対応がしやすいと思います。それにプラスして他社との連携が必要な水平分業を経験している人が向くと思います。

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