ビジネス上、ずさんなデータ管理や脆弱なセキュリティは、会社に甚大な被害をもたらしかねない。今回は、改革が遅れがちなセキュリティ業務に新風を吹き込む米国発のMonadを紹介したい。2020年設立の同社はセキュリティデータに簡単にアクセスできるプラットフォームを提供し、大手VCであるSequoia Capitalなどから累計1900万ドルの資金調達を行っている。CEOであるChristian Almenar氏に、事業内容や業界動向などについて話を聞いた。

サイバーセキュリティをデータ化、可視化

――まず御社の事業概要を教えてもらえますか。

 Monadでは、サイバーセキュリティをデータ化することで、普段の業務に応用可能なインフストラクチャを提供しています。私と共同創業者はセキュリティ業界に携わって10年ほどになります。そこでの経験から私たちが気づいたのは、業界に多数のプレイヤーがいることで顧客にとって非常に分かりづらい構図になっているという現実です。

Christian Almenar
Monad
Co-Founder & CEO
科学と芸術の発展のためのクーパー・ユニオン校で科学学士号を取得し、モバイルセキュリティ製品のプロダクトマネージャーとしてキャリアを開始する。その後、Google I/O 2013で取り上げられた会社を起業したり、2015年には後にVMWare社に買収されたセキュリティ企業を立ち上げるなどシリアルアントレプレナーとして活動。2020年にMonadを立ち上げ、CEOに就任。

 セキュリティ製品も数多くあり、1つの会社が20〜25程度のセキュリティツールを使っているというケースもざらにあります。各製品は独自の仕様があるので、セキュリティに関して知識のある人材を雇うのも困難です。

 私たちの目標は、セキュリティ業界により透明性をもたらすことで、ツールをより効率的にマネジメントし、セキュリティをデータ化することです。それにより、システムを可視化し、何のリスクからシステムを守っているのか一目瞭然にできるようにしています。

Image: Monad HP

――御社はパンデミックの真っ只中に会社を立ち上げたわけですが、現在までの道のりはどうでしたか?

 共同創業者や初期投資家はもともと知り合いでしたが、他のチームメンバーはリモートで採用したばかりの人材がほとんどです。実際に会った人はいません。また、リアルではまだ会ったことがない投資家からも支援してもらっています。

 起業するのはこれが初めてではありませんが、同じ室内に他の人々がいないのは初めてでした。これは非常に不思議な感じがすると同時に、チャレンジでもありました。

 一番の課題は業務を構造化し、そして社内文化に早い段階で力を入れたことでした。自分はどんな会社を作りたくて、どんなビジョンのもと動いているのか皆に理解してもらう必要があったのです。そのような意味では、普通の企業では後回しになることを先に行う必要があったと感じます。

データを企業に活用してもらい、意思決定を促す

――技術的にどのような点に焦点を当てていますか。またどのような企業を対象にしていますか。

 企業はコンプライアンスや法規制に対応するため、これまでより多くのデータを管理する必要が生じています。企業内で使った数年分ものデータ全てを管理・保存するニーズが高まっています。

 私たちは膨大なデータを管理する必要があり、セキュリティ業界だけでなくビッグデータ業界の出身者も雇用しなくてはいけませんでした。つまり私たちはセキュリティ会社とビッグデータ企業のハイブリッドのようなものです。

Image: Monad HP

 クライアントは、新しいテクノロジーを採用することに抵抗のない企業が多いです。クラウドデータテクノロジーのポテンシャルを信じてくれて、日々の業務に必須であると理解しているクライアントが多いです。また、Snowflakeのようなクラウドデータ企業とも一緒に働いています。

企業だけでなく、病院や学校もハッカー攻撃から守りたい

――今後の目標は何でしょうか。

 サイバーセキュリティは、現代の社会では重要かつ未解決の課題となっています。サイバーセキュリティは使いようによっては、人々や企業を脅かす武器にもなりますし、場合によっては国家間レベルの問題に発展する可能性もあります。だからこそ、私たちは事業を通じてセキュリティ業界の発展に寄与したいのです。

 私たちに当てはめると、企業として利益を上げながら、持続可能なビジネスをし、製品開発を続けることが大切ですが、より大きな目標は業界を革新することです。どこにリスクがあって、どこを強固にしなくてはいけないのかという点を明確にすることで、ハッカー攻撃から守ることができます。

 最終的なビジョンとしては、製品にお金を払う余裕のある企業だけではなく、予算が充てられない中小企業も助けられるようにすることです。小さい病院や学校がハッカー攻撃の被害に遭い、身代金を請求されたなどの話を聞くと心が痛みます。ゆくゆくは、非営利団体のような形で、プライバシーやセキュリティを助けられると良いと思います。

 短期的には、米国市場向けに製品開発を行っていますが、私たちに問い合わせをしなくても製品を利用できる環境を来年までに整えたいと思っています。

 もともとリモートで米国で始まった企業ですが、今ではヨーロッパを拠点にする人材を雇ったりもしています。アジアでも人材を雇うことで、日本に来る理由もできると思います。

――日本進出については予定していますか。

 もちろんです。日本には個人的に行ったこともあります。技術的な観点から言うと、日本語での提供を可能にすること以外に修正することはないと思いますが、日本のビジネス文化に適応することが重要だと感じます。日本でのパートナーを見つけ、製品を日本向けにデザインし展開できたら素晴らしいと思います。

――調達した資金の使い道はどのようにお考えですか。

 Sequoia Capitalをはじめとして総額20億円程度を調達することに成功したので、その資金はまず人材雇用に充てたいと思います。世界中のどこにいても構わないので最高のエンジニアを雇いたいと思います。パンデミックの不幸中の幸いは、このように雇用に自由が生まれ民主化されたことだと感じます。カスタマーサポートにも注力していますし、雇った人材とともに素晴らしい製品を開発したいです。



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