自動運転車にとっての最重要技術といえる「車載ミリ波レーダー」。それは、視界に入る物体の識別を可能にする、いわば人の目に代わる車の「眼」となる。アメリカ・カリフォルニア州に本社を構えるMetawaveは、そんな車載ミリ波レーダーに搭載するチップを開発するスタートアップだ。同社の技術を車両に搭載すれば、長距離にある物体の識別が可能になる。デンソーやToyota Ventures、NTTドコモ・ベンチャーズなど日本企業も出資に名を連ねるMetawaveの創業者でCEOのMaha Achour氏に話を聞いた。

自動運転を支える「物体予測」

――御社はどんなサービスを展開しているのでしょうか。

 Metawaveは、自動車と航空機の自動走行を支える、物体予測を行う車載ミリ波レーダーを支えるチップを開発する企業です。自動運転の将来性は大きく、さまざまな企業が近年、自動運転車の開発に注力していますが、課題の1つは長距離の物体予測です。特に雨や雪などの悪天候時には、物体を「長距離にわたって」「解像度高く」「正確に」予測することが不可欠です。

 当社が開発するチップである位相コントローラーの「MARCONI」を搭載した車載ミリ波レーダー「SPEKTRA」では、これら3つの価値を実現しています。たとえば、どんな悪天候時であれ、SPEKTRAは、最長300m先にある物体を正確に特定し識別しますし、歩行者に関しても200m先まで認識するのです。

 またこの技術は、トンネルを抜けた際の急な光や深い霧など、視界がよくない状況下でも効果を発揮しますので、自動運転の安全性の向上に寄与していると言えるでしょう。

Maha Achour
Founder & CEO
University of California, Los Angelesで物理学の修士号、マサチューセッツ工科大学(MIT)で同博士号を取得。University of California San Diegoでは電気工学の修士号も取得。半導体、ワイヤレスRF、光通信、センシング、防衛の各業界において、スタートアップや上場企業で25年以上にわたってリーダーシップを発揮してきた。Rayspan社のCo-Founder&CTO、Polyceed-Dyenamics社のCo-Founder&CEOなどを経て、2017年にMetawaveを設立し、CEOに就任。

 当社は、車メーカーのサプライチェーンのなかでいうティア1(Tier1)とティア2(Tier2)に分類される企業やOEM車を開発する企業と協働し、車載ミリ波レーダーの研究を行っています。

 Tier1企業は自前で車載ミリ波レーダーを開発することができず、Tier2は搭載するチップを開発することができないため、Metawaveと契約を結び、実験をしているのです。具体的な企業名を挙げると、デンソーやHyundai、TOYOTA Venturesといった企業になります。2017~2019年当時、注目が高まってきた自動運転に対し、それを可能にするコア技術が車載ミリ波レーダーであるため、デンソーやTOYOTA Venturesは当社への出資を決定しました。

「チップの技術力」で長距離にわたる物体、人の識別が可能に

――御社の製品の競合他社との差別化ポイントを教えてください。

 当社のチップを搭載した車載ミリ波レーダー技術が、長い距離の物体の特定・識別を可能にしている点でしょう。今日、自動運転を可能にするためのレーダーはたくさんありますが、そのうちどれもが、当社の技術のように300m先の物体、200m先の人間を識別することはできていません。

 Metawaveのチップがなぜ、長距離の識別を可能にしているかというと、車体前方から物体と人間を識別するために発するビームの威力がとても強いからです。これは、チップの技術力が優れていることの証左です。

 自動運転の将来性は、長距離の物体・人間をいかに正確に見通せるかにかかっていると言っても過言ではありません。たとえば、テスラの自動運転車「オートパイロット」は、高速道路を時速90マイルで走行します。夜間はカメラの能力は限られ、視界が昼間に比べると悪くなります。その際に、カメラの能力をカバーするのがレーダーです。つまり、Metawaveは完全自動走行車の実装に不可欠な技術を開発しているのです。

Image:Metawave

――自動運転の世界において、向こう5年でどのような変化が待ち受けているとお考えですか?また、御社はその変化に対して、どのように貢献できるとお考えですか?

 自動車業界全体が大きな変革期を迎えることは間違いないでしょう。過去を考えると、日本の自動車メーカーはハイブリット車へのトランジションをうまく行ったと考えていますし、アメリカ車はEV化への転換を行っています。

 ハイブリットかEVか、という業界の中の大きなトレンドが今後を左右すると考えていますし、そのどちらがより多くのシェアを獲得するかは注目すべきトピックだと考えています。EVへのシフトは「自動車」という概念そのものを大きく変えるポテンシャルを有しています。なぜならそれが、ソフトウェアの更新など、従来の車にはない要素があるからです。

 Metawaveが貢献する自動運転も、EV同様「車のソフトウェア化」の延長線上の未来にあると言っていいでしょう。現在の車体のハードウェアの技術ではまだ完全自動運転車の実現には遠い部分があります。しかし、徐々に量産体制が整ってきて、エンドユーザーである消費者にも求められるような自動運転車の製造が可能になってくると考えています。

Image:Metawave

2023年は本格的な製造体制を築く年に

――御社はこれまで出資や転換社債などを含め約6000万ドルの資金調達に成功しています。資金の使い道を教えてください。

 調達した資金を使って、車載ミリ波レーダーに搭載するチップの本格的な製造体制の構築を進めていきます。また、チップそのものの技術改良にも資金を投入していきます。

――御社はすでに日本の大企業とのパートナーシップを構築していますが、さらに日本市場を深耕するために、新たな企業との関係性を深めていくお考えはありますか?

 当社は多くの日本の自動車メーカーとの取引を行う用意があります。しかし、おそらく最初に当社のチップを取り入れるのは、アメリカ、またはヨーロッパのメーカーになるでしょう。なぜなら、欧米のメーカーの方がEVへより注力していることから「自動車のソフトウェア化」というコンセプトに本腰を入れていて、自動運転への本気度も高いからです。

 たとえばトヨタは、EV車以前はハイブリッド車により重点を置いていました。しかし、日本市場が「自動車のソフトウェア化」に現在よりも注力してきたら、Metawaveとの取引も増えていくことでしょう。

――日本企業とのパートナーシップにおいて、求める形態を教えてください。

 当社は設立5年目の若い会社です。ですので、私たちが彼らにチップを販売する「対顧客」という関係性がベストだと考えています。何よりも、収益性を優先する必要があるからです。そういう意味では、当社に何らかの収益面での還元がある共同開発のようなパートナーシップには関心があります。

――最後に、向こう12カ月間で御社が達成しようとしている目標を教えてください。

 2023年は、当社のチップが自動車業界と航空業界のメーカーに届く年になるでしょう。みんな当社の技術の製品化を待ち望んでいました。当社の長期的な目標は、陸路と空路を、最終消費者にとってより安全なものにすることです。そのために、当社はチップの技術開発を進めています。



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