京都府は、世界が抱える社会課題の解決に挑む起業家たちのスタートアップ・エコシステム拠点形成に取り組んでいる。その京都府と一般社団法人 京都知恵産業創造の森、TECHBLITZは、京都のスタートアップとイノベーション推進を目指す事業会社などとのマッチングを主な目的としたオンラインイベント「スタートアップ・アライアンス・リンク」を2回にわたり開催した。第1回のイベントには、京都の産業の強みのひとつである「メディカル&ヘルステック」分野のスタートアップ9社の代表らが独創的な技術やビジネスモデルを紹介した。登壇企業の事業概要などを紹介する。
<目次>
・1. iPS技術を生かした「Mylc細胞」で世界の創薬を加速
・2. L-グルコース活用でがんの超早期発見、難治性がんの治療を実現
・3. アルパカのVHHビッグデータを活用し医薬品の設計・開発を最適化
・4. アプリ「hug+u」を通して妊婦に優しいコンソーシアムを形成
・5. アプリひとつでメンタルヘルスの予防~治療を
・6. iPS細胞を用いた「肺の体外再構築」技術を創薬、再生医療に応用
・7. 体の重心移動を測定・補正するシステム「CAT-b.c.s.」 リハビリへの応用も期待
・8. 心拍変動解析AIの社会実装で導く発作・重症化の予見
・9. 発明品は3000超。アンドラッガブルな標的への創薬を展開
1. iPS技術を生かした「Mylc細胞」で世界の創薬を加速
所在地 | 京都市西京区御陵大原1-36 京大桂ベンチャープラザ |
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創設年 | 2016年 |
URL | https://www.micantechnologies.com/home-2 |
マイキャン・テクノロジーズは2015年の経済産業省「先端課題解決型ベンチャー等支援事業」選出を経て、2016年に設立した。iPS技術(再生医療技術)で実現した、高精度・高感度の研究用血球様細胞「Mylc」の開発・販売をはじめ、同細胞を用いた医薬系の効能評価や各種試験の受託サービスも展開する。同一遺伝子情報をもつ均質で精度の高い血球細胞を多量・安定的に提供できることが、同社の大きな強みである。また、一切の動物資源を使うことなく、全ての微生物を高感度で検出できる「aMylc-MAT細胞」を日本での認可試験適応に向けて開発中だ。同社によると、世界で800億円市場とみられる発熱物質試験等の安全性評価市場の開拓・参入を目指しており、海外でも認可製品としての展開を見据えている。
Image : マイキャン・テクノロジーズHP
2. L-グルコース活用でがんの超早期発見、難治性がんの治療を実現
所在地 | 京都市上京区河原町通今出川下る梶井町448番地5 クリエイション・コア京都御車 |
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創設年 | 2018年 |
URL | http://orbio.jp/ |
オルバイオは、弘前大学の研究成果に基づく国際特許技術「L-グルコース」による難治性がん(膵臓がん・胆道がん・卵巣がんなど)の早期発見、診断、治療の実現を掲げ、2018年に設立した。「L-グルコースは正常な細胞には取り込まれず、がん細胞には取り込まれる」という特徴を利用し、難治性がんの早期診断に活かすともに、L-グルコースを取り込むがん細胞に作用する副作用の少ない治療薬の開発を行う。L-グルコースは診断薬と治療薬の2つの機能を併せ持つ創薬への応用が期待でき、今後、2023年度に向けて「複数の施設でのヒト臨床の検証と動物を用いた前臨床」などを進める。治療薬事業でも「前臨床:患者腫瘍移植モデルの樹立・動物での検証」などを見据えている。
Image : オルバイオHP
3. アルパカのVHHビッグデータを活用し医薬品の設計・開発を最適化
所在地 | 京都市左京区上高野東山 64-101 |
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創設年 | 2014年 |
URL | https://www.cognano.co.jp/ |
COGNANOは「生物をデジタルリソースとして認識する」をビジョンに掲げ、現在、機能性タンパク質と、アルパカの抗体(VHH抗体)の受注生産・試薬の研究開発を行う。超変異する抗体遺伝子に対し、同社はVHH抗体のビッグデータの読み取り、ライブラリーの作製とそのスクリーニング技術を強みとし、巨大ゲノムデータの質・量に立脚した機械学習に成功した。その技術を活用し、コンピュータ支援型創薬を目指す。現在はアメリカのテック企業との基礎研究も進行中だ。今後の創薬やバイオIoTへの展開を見据え、高感度・迅速な検査システムの構築を進めている。VHHテクノロジーを活用したセンサーデバイスシステムを半年後の製品試作・承認申請、1年半後の大量生産・クラウド体制、その後はサブスクリプションでのビジネス展開を目指す。
Image : COGNANO HP
4. アプリ「hug+u」を通して妊婦に優しいコンソーシアムを形成
所在地 | 京都市左京区吉田橘町32-12 toberu1 |
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創設年 | 2020年 |
URL | https://fami-leaf.com/ |
Famileafは、妊婦向け体調管理アプリ「hug+u(はぐゆー)」の企画・開発・運用を通し、妊娠生活を包括的に支援する。「hug+u」の特色は、①妊婦に特化した体調管理②妊婦の体調情報をパートナーに共有可能③継続的な使用をうながす仕組み(ゲームやクーポンなど)の大きく3つ。病院や大学の専門家らとのコネクションも強く、将来的には健診データとも連携し、匿名化した体調データを用いた研究による早期の合併症検知・効果的な介入につなげる。またデータを企業・行政とも共有し、各種行政施策の展開や、広告などへの活用も図っていく。国内と同時に海外展開にも力を入れ、2023年度はインド・東南アジア向けサービスも本格運用の予定だ。
Image : Famileaf HP
5. アプリひとつでメンタルヘルスの予防~治療を
所在地 | 京都市下京区中堂寺南町134 ASTEM棟 7F |
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創設年 | 2019年 |
URL | https://emol.jp/ |
emolは、感情を記録して、人間のカウンセラーの代わりにAIチャットロボと会話することで、ユーザー自身の感情と向き合えるアプリ「emol(エモル)」と、従業員のこころのケアを促進する法人向けメンタル分析・セルフケアサービス「emol for Employee」を提供している。認知行動療法のプログラムをパッケージングした「emol」の総DL数は現在、約30万。ユーザーの約8割が女性(25〜34歳がメインターゲット)で、未病〜治療中という状態の人であり、「社交不安障害」「精神健康状態」の尺度で有意性が認められている。今後は、薬事承認による「認知療法・認知行動療法」の代替を目指すほか、SaMD(治療用emol)開発を進め、健康〜未病~疾患者までを包括的にアプリでサポートする体制を整えていく。
Image : emolHP
6. iPS細胞を用いた「肺の体外再構築」技術を創薬、再生医療に応用
所在地 | 京都市左京区吉田下阿達町46-29 京都大学医薬系総合研究棟405 |
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創設年 | 2020年 |
URL | https://www.hilung.com/ |
HiLung(ハイラング)は、iPS細胞から肺の細胞を作る「肺の体外再構築」技術を使い、創薬や再生医療への応用を目指す。高機能な肺細胞を高効率に量産するコア技術を有しており、これらの細胞は「生」での長距離輸送が可能である。事業・製品・サービスとして、「医薬品候補の肺毒性予測」「呼吸器感染症創薬支援」「吸入物質の肺毒性試験用細胞の開発」「肺体外再構築技術の開発」「慢性肺疾患創薬」などを視野に入れている。2021年には、ヒトiPS細胞由来の前駆細胞をファイバで拡大培養し、マウス肺胞への生着に成功。再生医療に向けた大きな一歩を踏み出した。2022年1月より新型コロナウイルス(オミクロン株等含む)の受託薬効評価サービスも行っている。
Image : HiLung HP
7. 体の重心移動を測定・補正するシステム「CAT-b.c.s.」 リハビリへの応用も期待
所在地 | 京都市右京区太秦藤ケ森町22-48 |
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創設年 | 2013年 |
URL | https://cworks-k.co.jp/ |
Cooperation Worksは、運動(動作)時の動きをスマホ上に表示し、補正装置により体の重心移動、バランスを補正するシステム「CAT-b.c.s.」(固定用ベルト・計測デバイス・補正デバイス・専用アプリで1セット)を開発した。バランス確認ができる類似品は説明ムービーを見ての修正などにとどまる。Cooperation Worksの製品は、「場所を選ばない(小型で軽量・楽な持ち運び)」「フィードバックの的確さ」「修正のしやすさ(振動刺激を出す小型の補正デバイスを着ける)」において、優位性があるという。元々はスポーツ選手から「自主トレーニングに使いたい」とのニーズを受けて開発されたが、現在は理学療法士やスポーツトレーナーからの関心も高まっているほか、リハビリや後天的な障害のある人への展開も期待できる。
Image : Cooperation Works HP
8. 心拍変動解析AIの社会実装で導く発作・重症化の予見
所在地 | 京都市中京区小結棚町431-503 |
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創設年 | 2018年 |
URL | https://www.quadlytics.com/ |
クアドリティクスは、「心拍変動解析AI技術」を活用し、てんかんをはじめ、心不全や脳梗塞などさまざまな病気・発作の症候を予見するシステムの開発を目指す。ウェアラブル心電計による長時間連続の心電計測から、スマホでのリアルタイムな解析という一貫したフローが同社の大きな強みであり、心電データを活用した高精度な心拍変動解析AIは「スマートウォッチなどにはない、自律神経の変化を瞬時に検出する機能を有する」という。「長時間連続データ解析ノウハウ」「対処時間を生む予知型」「持ち歩けるモバイル解析エンジン」により、心拍変動技術の社会実装を可能にしていく。今後は、現在の事業の柱である世界初のてんかん患者向けSaMDを軸に、AMED関連事業などで拡大を目指す。
Image : クアドリティクス HP
9. 発明品は3000超。アンドラッガブルな標的への創薬を展開
所在地 | 京都市左京区川端通仁王門下る2筋目東入新丸太町75番地1-207 |
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創設年 | 2019年 |
Xeno-Interface(ゼノ・インターフェイス)は、製薬業界では次世代薬と位置付けられ、大きな成長が見込まれる「アンドラッガブル(新薬の開発が困難)」な標的に対する創薬事業に取り組む。なかでも、高い効果が期待される中分子に強みをもっており、細胞膜を透過するたんぱく質の二次構造に基づく架橋ペプチドや、二次構造の組み合わせによるミニプロテインを積極的に開発する。2020年に国内特許を取得したβストランド型架橋ペプチドを国際特許出願しており、3000種類以上の人工アミノ酸と架橋ペプチドの発明品を有する。他の研究者による模倣技術開発を科学的にできないようにする仕組みをとっているという。現在は、膵臓がんやALSの治療薬開発にも挑戦しており、今後は事業会社とのライセンスアウト契約や共同研究契約を進めながら、様々な病気に対する創薬プロジェクトの展開を目指す。
Image : Xeno-Interface
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