Webブラウザは、ビジネスワーカーに最も広く使用されているにも関わらず、エンタープライズ向けには設計されていない。そこに目をつけたのがアメリカ・ダラスを拠点とするスタートアップ、 Islandだ。ChromeやEdgeなどでも使用されているオープンソースプロジェクト「Chromium」をベースに、コピー&ペースト、ファイルのダウンロードやスクリーンショット機能を制限できるなど、企業向けに安全な利用をサポートするWebブラウザを構築している。McAfeeやSymantecなど、大手サイバーセキュリティ企業の幹部職を経て同社を共同創業したCEOのMichael Fey氏に、事業概要や長期ビジョンを聞いた。

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サイバーセキュリティのラストマイルコントロールをWebブラウザで実現

――あなたはサイバーセキュリティの大手企業で幹部職を歴任されています。Islandを創業した理由をお教えください。

 サイバーセキュリティの分野では、私はMcAfeeのCTOとゼネラル・マネージャーを務め、その後、Symantecに買収されたBlue Coat SystemsのPresident兼COOになり、その後SymantecのPresident兼COOを務めました。2020年にIslandを設立し、共同創業者兼CEOを務めています。

 現在、最も広く導入されているアプリケーションは、Webブラウザです。しかしこれはコンシューマ向けのアプリケーションです。現在の主要なWebブラウザはChromiumというオープンソースプロジェクトで構築してあるため、私は2020年にChromium上に企業向けのWebブラウザを作れると考えました。そうすることで、より優れたセキュリティと優れたエンドユーザー・エクスペリエンスを実現し、企業のITコストを大幅に削減できると構想したのです。

 これまでの経験を通して、サイバーセキュリティに非常に多くのお金と労力が費やされていることを見てきました。そこで私はこのアイデアで創業し、幸運にも世界的な大企業や多くの中小企業と契約することができました。当社のプロダクトを導入した企業は劇的に費用を削減することができています。

 私たちのWebブラウザは完全なラスト・マイル・コントロールが可能です。データをブラウザから出せるか、出せないか、利用しているそのマシンが安全かどうかを判断して処理できます。生産性を高める自動化の処理も組み込めます。その結果、これまで得られなかったコントロールの層をもたらすことができたのです。

Michael Fey
Co-Founder & CEO
ソフトウェアエンジニアを経て、2007年にMcAfeeに入社。2012年〜2014年の間はCTOを務める。2014年にはサイバーセキュリティ企業のBlue Coat SystemsのPresident兼COOに。2016年にSymantecがBlue Coat Systems買収した後に、2018年までSymantecのPresident兼COOを務めた。2020年にIslandを共同創業し、CEOとなる。

マルチデバイスに対応 ローンチ以降、予想以上の支持が広がる

――Islandが提供するWebブラウザの特徴を教えてください。

 今、さまざまな企業がBYOD(Bring Your Own Device)を取り入れ、個人所有端末での仕事を認めています。私たちのWebブラウザを使うケースですが、たとえば契約社員向けです。契約社員にはノートPCを支給したり、サービスとしてデスクトップを提供したりするのではなく、専用のWebブラウザをダウンロードさせるだけでいいのです。

 当社のブラウザはMacOSやWindows、Linux、Chromebook、Android、iOSで動作します。Webブラウザにすべての権限があり、その中で、Salesforce、Microsoft Office、G Suiteなど、重要なSaaSアプリケーション間でデータを移動させることができます。Webブラウザの外からデータを持ち出そうとする行為や画面キャプチャー、実行可能な拡張機能などの制限や、データのマスキングもできます。収益モデルは、年間サブスクリプションのユーザー数に応じた課金です。

 2022年初めから販売を開始しました。既にFortune 100の大企業から小さな組織まで、ほとんどすべての主要な業種のお客様に導入いただいています。2022年3月にはシリーズBの資金調達をし、その時点での評価額は13億ドル(約1730億円)でした。パートナーを通じて日本のマーケットにもアプローチしようとしているところです。まだ公表できませんが、長年仕事のお付き合いのある日本の大きなディストリビューターと契約について話し合いをしているところです。

Image:Island HP

――13億ドルの評価を得られた理由はどう分析していますか。

 私たちは、非常に大きな組織とのパイプラインを育ててきました。その展開が非常にうまくいっています。私たちは非常に幸運であり、当初抱いていたすべての予測よりも結果が上回っています。そして、私たちの製品は大企業だけでなく、小規模の会社にも役立っています。大企業に加え、セキュリティチームや大規模なITシステムを持つ余裕のない中小企業に対しても、セキュリティ強化と従業員体験のシンプル化をユニークなシナリオで実現したのです。

 Chromiumベースですが、単に再ブランドしたものではありません。この2年間セキュリティ機能と、RPAなどエンドユーザーの生産性向上、Webフィルタリング、暗号化によるデータ保護など、ラストマイルコントロールのR&Dに大規模な投資をして技術を磨いてきました。ですので、競合がすぐに真似できるものではありません。

日本市場では、セキュリティを次のレベルに引き上げたい大企業をターゲットに展開

――日本市場での展開についてはどのように考えていますか。

 日本には洗練されたサイバーセキュリティ市場があり、そこに当社の価値を提供する機会は非常に大きいと考えています。私たちのプロダクトは、日本市場にとても適していると考えています。当社のプロダクトを日本市場で広げて存在感を高めるとともに、(日本での)サポートに必要な追加機能を理解する上で手助けしてくれる販売代理店と、パートナーシップを結ぶことになると思います。

 私は、これまでのキャリアで20年近く日本市場をサポートしてきた経験から、日本市場は独特であり、顧客の要求に耳を傾け、注意を払わなければならないことを知っています。特に、日本の大企業で、セキュリティ体制を次のレベルに引き上げたいと考えている企業を対象にビジネスを展開していきたいと思っています。

――すでに素晴らしいスタートを切っているようですが、長期的なビジョンをお教えください。

 私たちのビジョンは、企業の資産であるか、個人のデバイスであるかにかかわらず、あらゆるデバイスがWebアプリケーションに安全にアクセスできるプラットフォームを提供できるようにすることです。そして、セキュリティのコアをアプリケーションに統合する能力を提供しようと努めています。セキュリティがアプリケーション・スタックに組み込まれることで、顧客のデータや従業員のプライバシーを保護したり、自分たちの環境を保護したりすることができるようになります。

 当社の製品のデモンストレーションを見ていただき、未来のサイバーセキュリティを適用した働き方を知ってもらいたいと思っています。パンデミックによって、オフィスに出向かなくてもよいという習慣が定着しました。私たちのプロダクトのPoCやインストールのサポートは、ビデオ会議などオンラインのリソースで実行できます。日本市場であってもアメリカにいる場合と同じようにサポートできるのです。

 最新のバージョンでは、組織の外からVPNなしで組織の内部に接続しながら、データがブラウザから漏れることがないような機能を作りました。全体の監査ログを作成することができるのです。特定の種類の処理が欲しい場合は、ロボットによる自動処理の用意もあります。ビジネスロジックを組んで、アプリケーションの動作を変えることができます。企業が長年悩んでいた問題を解決し、自社専用のWebブラウザによって、新たな道を切り開くことができるようになるのです。

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