インドで自動車やバイクなど中古車売買マーケットプレイスを運営するDroomは、デジタルガレージや豊田通商など日本の投資家からも熱い視線を集めるスタートアップだ。自動車ディーラーから中古車情報をデータベースに集め、インド最大級の自動車オンラインプラットフォームを築いた。このプラットフォームは、車の売買だけでなく、車両検査やローン・保険の手配、購入した車両を自宅まで届ける配送サービスまで対応し、車の売買に必要なサービスを、オンライン一つで完結できるようにした。インドのオンライン中古車売買市場で、80%のシェアを持つというDroomの強さの秘訣について、創業者のSandeep Aggarwal氏に話を聞いた。

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インド初、中古車マーケットプレイスを立ち上げ

 創業者のSandeep Aggarwal氏はインドで生まれ育ち、高等教育を受けるために渡米。卒業後、オンライン証券会社Charles Schwabに就職した後、MicrosoftやCitiグループなど複数社でアナリストとして勤務した経歴を持つ。2011年にインドに戻り、オンラインマーケットプレイスのShopCluesを立ち上げた。このShopCluesは、インドのeコマース分野で5番目となるユニコーンとなった。その後Aggarwal氏は2014年にインド初の中古車マーケットプレイスDroomで2度目の起業をする。事業着想のきっかけを次のように述べた。

「インドの中古車市場はアメリカ、中国に次ぐ大きさにもかかわらず、そのビジネスモデルは1世紀前の古いものでした。私は自分の経験を活かして、21世紀型の新しい自動車向け販売プラットフォームを作りたかったのです」(Aggarwal氏)

中古車の評価額を一瞬で、正確に算定

 Droomの特徴は、AIアルゴリズムとパーソナライズされた強力な検索エンジンで、欲しい中古車の価格が一瞬で算出できることだ。たとえば「トヨタ カムリ、2019年モデル、ホワイトカラー、走行距離3万キロ」と入力すれば、750万台にのぼるDroomの中古車データベースから、公正な市場価格が10秒以内にはじき出される。

Image: Droom HP

 過去7年間に5億2,500万人が利用したというこのデータベースは「Orange Book Value」と呼ばれ、インド中の中小零細の自動車ディーラーから寄せられた中古車情報によって支えられている。ここでもう一つ重要なポイントは、Droomが開発したIoTデバイスの存在だ。

 このIoTデバイスは「ECO Smart」と呼ばれ、車のOBDⅡ端子に接続するためのもの。OBDⅡとは、自動車のセンサーや制御ユニットを統合するコンピューター(ECU)だが、不具合の履歴なども記録しているため、これに接続することで、エンジンの調子やタイヤの寿命など2000件もの情報を収集できる。ECO Smartを車に接続すると、クラウドに情報が送信され、車の正確な状態を把握することにつながるというわけだ。このデータがあるおかげで、「Orange Book Value」は自動車ディーラーや保険会社も参考にするほど、公正な取引を行うためのデファクトスタンダードとなっている。

 またDroomは、「eco」と呼ばれるUberドライバーのような自動車整備士ネットワークを築いた。彼らはDroomの社員ではなく、一定の研修を受けて認定を受ければ登録できる、いわばフリーランスの整備士。現在、「eco」に登録する自動車整備士の数は、インド1100都市に、13,500人いるという。このインド全土に広がるネットワークが、Droomの代わりとなって車両検査を担っている。彼らは好きな時に、好きな場所で働くことができる上、車両1台を検査するごとにおよそ3~4ドルの報酬も得られる。

売り手と買い手をつなぎ、手数料で稼ぐ

 Droomの収益モデルは、売買契約が成立した場合に、販売者から契約金額の3%を報酬として受け取るもの。マーケットプレイスに出品する分には、一切、費用はかからない。また、車両検査に必要な自動車整備士や、ローン・保険会社、中古車を運ぶ物流会社といった売買に関わるすべての業者も、契約成立した場合に契約金額の2~3%を徴収される。

 インドの中古車販売会社であるCars24との違いについて、Aggarwal氏は「彼らは実店舗を持ち、独自の在庫を持つスタイルですが、私たちは売りたい人と、買いたい人をつなぐオンラインマーケットプレイスに特化しています。あくまでもテクノロジーによるeコマース企業を目指しています」と説明する。

 インドで発生した新型コロナ変異種のデルタ株が猛威を振るう中、インドの中古車需要は拡大し、オンラインによる売買を後押しした。昨年9億ドルだったDroomの売り上げは、直近7ヶ月の間に、倍の20億ドルに膨れ上がっているという。

 2021年7月、DroomはIPOを目指すため資金調達2億ドルを果たした。日本からもデジタルガレージや豊田通商と、ZIGExNを運営しているJoe Hiraoファミリーオフィスなどの投資家が参加している。米国で特許を取得するDroomの「Orange Value Book」や「eco」のビジネスモデルが世界で普及すれば、自動車市場に大きな変化をもたらすことは確実だろう。米国だけでなく、欧州、アフリカ、東南アジア、オーストラリアなど世界展開も視野に入れる。

 Aggarwal氏は、日本企業とのパートナーシップにも積極的だ。とくに日本に強い基盤を持つ企業や、自動車のエコシステムを理解している企業、日本国内または国境を越えて中古車の売買に力を入れている企業などとの連携を求めているという。

中古車売買のすべてを一つのプラットフォームに統合

 調達資金の使途については、あまり詳しくは述べられないとしながらも、いくつかの点で次のように示唆した。

 「自動車を購入する際に、必ずローンと保険が必要になります。この分野は私たちの主な焦点のひとつです。Orange Book Valueやecoにも、引き続き焦点を当てています。私たちのオンラインプラットフォームは、どこにいても中古車を手に入れられると同時に、配達や、検査、全額エスクロー、書類作成といったすべてが一つで完結できるようなサービスを目指しています。これが私たちの最終目標とするラストマイル・フルフィルメントです」(Aggarwal氏)

 また、新しい機能の開発と、ユーザーインターフェースの改善にも余念がない。今後は、中古車に限らず、対象を新車や電気自動車まで拡げていきたいとする。さらに今後、自動車売買はもっと急速にオンラインに移行するものと見て、BtoC取引だけでなく、CtoC取引にも対応できるよう開発中だ。

 Aggarwal氏は、「2030年には自動車市場の3分の1がオンラインに移行し、2040年には自動車の実店舗がなくなっていると考えています。その時、私たちは世界最大の自動車用Eコマースプラットフォームになりたいと願っています」と将来展望を語った。

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