SaaSの提案において、顧客が実際の動作を体験できるデモンストレーション(デモ)を見せるのは、商談において重要だ。しかし、高品質なデモを用意するには多くの労力やコストが必要となる場合もある。この課題を解消する仕組みを提供するスタートアップがDemostack(本社・米サンフランシスコ)だ。前職でこの課題に直面したことでビジネスアイデアを着想したという共同創業者でCEOのJonathan Friedman氏に、創業の経緯やサービスの特徴、将来展望を聞いた。

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SaaS企業において、デモンストレーション環境構築の課題に直面

――これまでのキャリアと、Demostack創業の経緯をお教えください。

 私はイスラエル出身で、ほとんどのキャリアを起業家として過ごしてきました。最初のビジネスは14歳のころです。当時、RCコーラがイスラエルにやってきて、これまでのコーラの価格より4分の1も安く売りだされました。心が躍りました。それを30缶ほど買って、友達と一緒に一般的なコーラの価格で販売しました。最初の日はそのままの缶を売ったのですが、買ってくれた人に「冷えてない」と言われました。そこで、翌日には氷を入れたクーラーで冷やして売り、まさにプロダクトマーケットフィット(PMF)を経験しました。「何もないところからお金を生み出すことはすごい」と実感した経験を今でも覚えています。まるで何かを発明したような気分でした。

 その後は、オランダに留学してビジネスを勉強し、金融の修士号を取得しました。その傍でスタートアップも運営していました。さらにいくつかの起業をしたり、企業で勤務したりして、2020年にDemostackを創業しました。前職のTripActions(企業向けの出張旅費・クレジットカード・経費管理をワンストップで提供する企業)で、SaaSの製品のデモを提供するためにすごく苦労をしていたことが創業のきかっけです。

Jonathan Friedman
Demostack
Co-Founder & CEO
イスラエル出身。オランダのRotterdam School of Management, Erasmus Universityで金融を学び、在学中にPrint-Center.nlを共同創業する。その後Studentevents.comやReactfulの創業・経営にも関わる。2019年からTripActionsでプロダクト責任者などとして勤務したのち、2020年にDemostackを共同創業する。

 デモを作るにはデータが必要なのですが、TripActionsで扱っているプロダクトは企業の財務チーム向けのものでしたので、お客様が機密性のあるデータを提供できない場合が多かったのです。立派なプロダクトがあるのに、中身は空っぽのままですと製品の魅力を語ることができません。そこで仕方なく、私たちはクレジットカードを使って本当に決済して、デモンストレーションのためのデータを作りました。もちろん、こんなことは持続可能ではありませんよね。それで、デモンストレーションを簡単に作成できるサービスを作ろうと思ったのです。

本物とそっくりな体験をできるクローンを容易に構築

――Demostackはどんなプロダクトなのでしょうか。また業況はいかがですか。

 私たちの製品は、SaaSなどのデモ環境を数分で立ち上げることができます。Demostackにログインして設定すると、お客様のサービスに見た目がそっくりなクローンを作ることができます。そこにデータを入力・連携するなど編集を加えて、提案ストーリーに基づいたデモを作成して、顧客に共有できます。ビジネスモデルは典型的なSaaSモデルです。デモを提供する相手の数に応じて料金が加算されます。

 多くの企業が異なるデモ環境を簡単に構築し、カスタマイズするなど、デモの提供を効率化して取引を成功させています。インターネット上のデモだけでなく、無線LANのネットワークが使えない物理的なカンファレンス会場でプレゼンテーションできるような機能もあります。

 事業は年間100%の成長率で推移しています。顧客に支持されている理由は、デモによって顧客に「アハ体験」(未知な物事について知覚を通して、瞬間的に認識したり、閃いたりする事を指す心理学上の概念)を提供できるからです。

 例えば、店舗で靴を売るときの「アハ体験」は単純です。ディスプレイに1足置いて、それを顧客がいいなと思ったら、履いてもらえばいいのです。SaaSプロダクトの場合はそんな簡単にはいきません。ディスプレイに飾るように見せるだけでは売れませんし、もっと複雑です。

 私の夢は、いつか日本に行って日本のメーカーの工場を見学することですが、例えば、工場の見学に行っても、実際に動作する機械には触らせてくれませんね。それと同じです。私たちは、商談相手が瞬間的にプロダクトの良さを認識できるよう、この複雑さを解決しているのです。

――デモの分野において、同じようなサービスを提供する競合はいますか。

 この業界は素晴らしいもので、多くの企業がさまざまなスタートアップを立ち上げ、市場に目を向け始めています。しかし競合は私たちのように製品のクローンを作ろうとはしていません。顧客が必要とするデモの忠実さを持たず、実際の製品のようには見せられないのです。私たちは、お客様のプロダクトの「魂」を失わないことを大切にしているため、すべてを再現するクローンを実現できます。

Image: Demostack

あらゆるサービス・組織のデモ構築の課題を解決していきたい

――2022年4月にはシリーズBラウンドで、Tiger Global Managementなどから3400万ドル(約46億円)を調達しています。これから達成したいことについて、具体的な目標はありますか?

 4月に投資を受けたのは、非常に幸運なタイミングだったと思います。私たちは、研究開発部門に大量に投資し、誰にも負けない最高の製品を持っていると自負しています。これからも製品に磨きをかけていきます。いろいろなデモができるスイート製品にしたいと思っているのです。デモ環境のためのクローン作成はスタートで、マーケティングや分析などもできる機能も構築したいと考えています。

 開発だけでなく、販売チームも拡大しています。まだアジアや日本には進出していませんが、インバウンドの案件や見込み客は存在します。私の夢は、日本の市場に参入することです。私は日本の文化が好きで、芸術や食べ物についてのドキュメンタリーをよく見ます。日本の文化はとてもユニークで、何世紀にもわたって独自の発展を遂げ、豊かな歴史を持ち、人の経験に対する考え方が違うので、とても魅力を感じています。ですから、いつか日本にDemostackの支社を作って仕事をしたいと思っています。日本市場にとっても当社は面白い存在となると考えています。

――長期ビジョンについてお教えください。

 あなたが会社の取締役だとして、社内で「自社のCRMシステムを作ろう」と提案するとします。すると、他の取締役は「なんだって?ゼロから作るのか?CRMサービスを利用しないのか」と指摘するでしょう。すでにCRMのサービスは確立されていますので、これを1からつくるというのは正気の沙汰ではないですよね。

 デモにも同じことが言えます。最終的に、あらゆる企業がショーケースのための仕組みを持つようになると考えています。しかし、デモのために自社のエンジニアを使うことはしないはずです。自社のエンジニアは本来のプロダクト開発に注力するべきです。そこがDemostackが提供するサービスの本質なのです。

 私たちは、すべての人のためのデモ環境を作りたいと考えています。Webサイト、セールスコール、アフターセールス、カンファレンスなど、あらゆる場所でデモを目にすることができます。デモ用のフォームを用意して、セールスチームと開発チームの中間に立ち、そこで生じているペインポイントを解決する存在になりたいのです。

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