スマートフォンや家電、自動車のダッシュボードなど、さまざまなユーザー接点がデジタル化されている。最適なユーザー体験を提供するために、ユーザーの行動を計測、分析、テストすることが重要となっている。そんなデジタル体験を改善するためのプラットフォームをSaaSモデルで提供するのがUserZoomだ。多くの企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)をどうサポートしているのか、共同創業者でありCo-CEOのAlfonso de la Nuez氏に話を聞いた。

(2023年にUserTestingが買収。2023年6月追記)

対面式のユーザーテストの提供から、オンラインでの自動化ツールへ

 UserZoomは、Google、Microsoft、PayPal、Salesforceをはじめ、多くの大企業が利用する「XIM」(Experience Insights Management)と呼ばれるプラットフォームを提供している。

 XIMとは、ウェブ、電話、スマートウォッチ、対話型音声サービスなど、あらゆるデジタル体験を評価し、いつ、どこに、問題点があるのかを特定する、UX(ユーザー体験)の評価ツールだ。計測や分析ツールに加えて、デザインや製品のインタラクションを評価する人(テスター)を募集してテストすることも可能。

 デジタルマーケティングやWebサイトデザイン、ユーザビリティテスト、UXリサーチの職務を経験したNuez氏は、UXやユーザビリティの向上を支援するコンサルティング会社を2001年にスペインで創業した。当時は対面式の物理的なユーザービリティテストがメインだった。

Alfonso de la Nuez
User Zoom
Co-Founder & CEO
1991年〜1996年サンノゼ州立大学に在学し、国際ビジネスの学士号を取得。スポーツ奨学金を得てDiv.I Varsity Basketballでも活躍。卒業後はDell Technologies社、Icon Medialab社(現DigitasLBi社)などに勤務後、2001年にユーザーエクスペリエンス向上を支援するコンサルティング会社を設立。2007年に、そのリサーチ手法をデジタルに応用したプラットフォームのUserZoomを設立した。現在、米国と欧州に拠点を持ち、本社はカリフォルニア州に置く。

 その後、Nuez氏はソフトウェアやインターネットを使ってユーザビリティ評価プロセスを自動化し、リモートでもテストできるプラットフォーム構築を構想し、2007年にUserZoomを創業する。2009年には拠点をアメリカに移し、主に大企業のデジタル製品の評価をサポートしてきた。

ユーザーの声がプロダクトに最適なUXを与える

 UserZoomの主なユーザーは、デジタルサービスやアプリケーションの開発チームだ。UserZoomの利用によって、欲しい属性の参加者パネルを選んで、テストを実施し、そのフィードバックを開発に活かすサイクルを回すことができる。その特徴をNuez氏は次のように説明した。

「この製品のユニークなところは、私たちが振る舞い(態度データ)と呼んでいるもの、つまりプロダクトを好きか嫌いかといった意見や、どういうアクションにつながったかという行動データを収集できる点です。よくあるA/Bテストだけでなく、画面上のどこをクリックしたか、どのくらい時間をかけたか、何回クリックしたかといったデータを収集できます。また、画面操作の録画やビデオや音声によってエンドユーザーの声を集めることができます」(Nuez氏)

 さらに、定性調査を行いたい場合は、ビデオ会議システムのような機能を使って、大規模なインタビュー調査も実施できる。得られたユーザー体験や品質に関する詳細な情報を分析できるダッシュボードも用意。オプションとして、管理サービスも提供しており、プラットフォームを最大限に活用できるような手厚いサービスが特徴だ。

Image: UserZoom HP



Image: UserZoom HP

 競合についてNuez氏に聞くと「UserTestingは競合と言えるかもしれませんが、彼らは定性調査とビデオによるフィードバックに重点を置いているようです。私たちの場合は定性・定量の両調査ともに幅広いソリューションを提供していることが強みです」と述べた。

 UserZoomの顧客は大企業が中心で、Fortune 500のトップ100社のうち約6割が利用しており、こうした実績も同社の強みとなっている。しかも、最近ではコロナ禍を背景としたデジタルトランスフォーメーションの波が、UserZoomの利用を後押ししている。多くの企業の顧客接点が急速にデジタル化しているため、より良い体験を提供したいと考えるようになっているのだ。その事例としてNuez氏はヘルスケア企業の導入事例を挙げた。

「ある、医師との面会を予約するアプリでは、非常に使い勝手の悪いインターフェースを持っていました。しかし、パンデミックによってアプリを使い慣れていない人も使わざるを得なくなりました。そこで私たちはこのアプリのための評価者を割り当て、調査やテストを実施しました。そして、アプリの開発チームに、ユーザー体験を改善するためのインスピレーションや自信を与えることができたのです」(Nuez氏)

 このほかにも、オンラインのチャネル強化にシフトした、大規模な小売業者のDX支援も開始したという。

2年以内のIPOを目指し、マーケティングとイノベーションに投資

 UserZoom直近の売上は、2019年度比で約55%増の1億ドルに迫る勢い。従業員数はグローバルで350人おり、欧州と米国の拠点で半々を占める。2年以内の株式公開も計画しており、2021年4月にOwl Rock Capitolから調達した1億ドルは、販売とマーケティングに投資する考えだ。すでに進出しているオーストラリアに加えて、今後は中国や日本、シンガポールなど太平洋地域にも進出予定としている。

 日本進出の際に求める提携先として、コンサルティング会社や、同社の製品を提案できるインテグレーターなどを挙げた。また、ユーザー調査に参加してくれるパネルを持つ市場調査会社とも協力したいという。

 そして、さらなる機能拡充にも積極的で、今後はAIの活用を計画している。各種検証・分析の準備や設計をより容易にする自動化を目指しているのだ。

 Nuez氏は、私たちに最も訴えたいこととして、これからのデジタル製品は、デザインやフロントエンドへの投資が必須になるとし、「優れたUXデザインを提供することは、多くのビジネス上のメリットをもたらします。将来的に、すべての企業がデジタル・エクスペリエンスを軸とした経営に変わるでしょう」と、未来像を語った。

 私たちの生活には、Webサイトやスマートフォンアプリだけでなく、自動車や家電など、あらゆる場面でデジタルのユーザー接点が存在するようになった。ユーザー体験が重視される中で一際強い存在感を示すUserZoomの今後の活躍に期待したい。



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