ベルフェイス(本社・東京)は、電話とパソコン、スマートフォンを使って、スムーズなオンライン商談を可能にする営業システム「bellFace」を提供するSaaS企業だ。リモートワークが当たり前になり、デジタルトランスフォーメーション(DX )が叫ばれる今も、オンラインでのコミュニケーションに苦労する人は多い。アプリのダウンロードやサインイン、アカウント登録といった煩雑な手続きは、お年寄りなどデジタルに馴染みの薄い人達にとってハードルになる。こうしたペインポイントを解消するビジネスモデルの源泉となったのは、創業者で代表取締役の中島一明氏が福岡で最初の起業をしたときの電話営業経験からだった。情報漏洩リスクに対する高いセキュリティを確保し、営業のDXを推進するシステムの仕組みや特徴について、中島氏に話を聞いた。

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創業のきっかけはテレアポ営業の経験 オンライン営業で時代を先取り

――まずはじめに、ベルフェイスを創業した経緯を教えてください。

 ベルフェイスは私が創業した2社目になります。初めて起業したのは、地元の福岡にいる時でした。地域の経営者を紹介するという動画メディアの運営を始めました。全国の中小企業を紹介するメディアに成長し、福岡から全国を営業で飛び回るようになりました。しかし、それがあまりにも非効率だったので途中から電話営業に切り替えたのです。すると、2年ほどで5000社に上る社長インタビューを獲得することができました。

 当時はまだ、「営業とは訪問するものだ」という商習慣が根強く、インサイドセールスという言葉も知らなかった時代でした。リモートで営業して案件を獲得する当時の成功体験がベルフェイスを始めたきっかけでした。

 紆余曲折あって1社目を退任した後、30歳くらいの時に単身、福岡から上京しました。人脈やネットワークは福岡にあったので、東京ではゼロからのスタートでした。ベルフェイスを資本金90万円で立ち上げ、レンタルオフィスに事務所を置きました。1年くらいかけて、電話で簡単にオンライン営業できるスタイルのSaaS型ツールを開発したのです。

中島 一明
ベルフェイス
代表取締役
福岡県出身。起業を志し、高校を3カ月で中退。15歳で土木会社に就職し、貯めた資金で世界一周の旅をしながら200枚のビジネスプランを作成。 2007年、21歳で1社目を起業し、各県の中小企業経営者を動画で紹介する広告メディア「社長 .tv」を全国展開。同社を退任したのち、2015年にベルフェイスを設立。

顧客のITリテラシーに関係なくオンライン商談が可能

――電話の延長でオンライン営業できるシステムとは、どういうサービスですか。

 対面の営業の場合、セールス担当者はお客さまの反応をうかがいながら、資料を見せたり、契約書を書いてもらったりしますよね。しかし、電話営業ですと当然、相手の顔が見えないので、反応が分かりません。また資料や契約書を「後から送ります」と言って電話を切ってしまうと、契約を取りこぼしたり、意思疎通がうまくいかなかったりという失敗につながります。これは労力に対して、大きな機会損失です。

 そこで1社目を起業した当時、営業をオンライン化する方法をいろいろと試してきました。しかし、当時はまだSkypeやGoogleしかなく、お客さまにアプリをダウンロードしてもらわなければなりませんでした。しかも、ダウンロードサイトにアクセスしてもらおうと思うと、お客さまにメールアドレスを聞かなくてはなりません。

 ようやく、インストールできてつながる段階になったとしても、ブラウザがChromeじゃないと動かないとか、ネット環境が悪くて使えないとか、とにかく散々でした。世の中に「本当に使いやすいオンライン営業ツールはないんだな」と切実に思ったものです。

 そこで私は、2社目を起業する時、ダウンロードやメールアドレス、ログインが一切不要なオンライン営業ツールを作れないか考えたのです。電話で最初にコンタクトを取って、そこを起点につながるという仕組みです。サービス開始当初は法人営業、BtoBの仕組みが主でしたが、新型コロナをきっかけに、個人向け営業、特に金融系の個人向けリテールで導入実績が伸びています。

 個人向け営業の仕組みを説明します。まず、bellFace導入企業のセールス担当者は、お客さまと通話をしながら、SMSで接続案内ページをお客さまのスマホに送ります。お客さまがそのページに接続すると4桁の接続番号が発行されます。表示された番号をセールス担当者に伝えると、お客さまのスマホ画面とセールス担当者の画面がつながり、スマホ画面上に資料を共有できます。

 スマホにあらかじめ何かをインストールしておく必要は一切ありません。つまり、bellFaceはお客さまのパソコン環境やITリテラシーに関係なく、ブラウザさえあれば完結できる仕組みなのです。

 この仕組みは、お客さまがパソコンやタブレット端末を使っている場合でも同じです。電話でつながった後、セールス担当者は自社のホームページ、またはベルフェイスと検索してホームページに来てもらいクリックしてもらうと、4桁の接続番号が発番されます。それを伝えてもらえればセールス担当者の画面と、お客さまのパソコン画面がつながり、資料を共有しながら説明ができます。

資料共有の「情報セキュリティ」で他社サービスと差別化

――Zoomなどとの大きな違いは何ですか。

 特徴は、資料の共有方法にあります。Zoomの場合、共有する資料はセールス担当者のパソコンに保存しますよね。一方、bellFaceの場合は、専用のクラウドベースに保存する形をとっています。資料ファイルをローカル環境ではなく、クラウド環境に置く理由はセキュリティです。もしもセールス担当者が商談中、機密ファイルをデスクトップに開いていて、たまたまお客さまに見られてしまったらどうなるでしょうか。これは立派な情報漏洩になります。

 こうした事態を防ぐために、bellFaceではファイルをクラウドに保存する時、管理者権限と閲覧者権限を付与します。マネージャーや部長が許可したファイルだけ、セールス担当者はクラウドのメニュー画面から呼び出して表示できる仕組みです。だから、お客さまが見ている画面には、社内で許可されていない資料は表示されません。こうした仕組みは当社だけのものです。

 この機能はSaaS契約するセールスサイドの企業だけが利用できます。ですからセールスサイドとお客さまサイドが見る画面は全く違うものとなっています。

コロナ禍、リモートワーク普及が逆風に BtoCへピボットし活路見出す

――コロナ禍でZoomやMicrosoft Teamsなど、オンラインツールやリモート営業スタイルの普及が一気に進みました。御社にとって脅威ではありませんでしたか。

 おっしゃる通り、新型コロナ流行前と今ではだいぶ様子が変わりました。Skypeくらいしかなかった頃、2015年に創業した当社のサービスは法人営業ツールとしてだいぶ認められるようになってきていました。従業員が一気に増え、売り上げが5年連続で2倍、3倍へ急成長した時期もありました。

 それが新型コロナの流行が始まって以降、一気にZoomやTeamsの利用が広がってしまいました。URLを送ってオンライン商談するという営業スタイルが主流となりました。これは私たちにとって大きな打撃でした。

――どれほどの打撃を受け、どうやって乗り越えたのですか。

 新型コロナが発生する直前に50億円ほど資金調達し、「さあこれから」という時に市場の風向きが突然、変わってしまったので、当初予定した売り上げを達成することができませんでした。希望退職も募りました。しかし、そうしなければとても持ちこたえられませんでした。

 ですが、先ほど申し上げた情報漏洩リスクに対するセキュリティの高さが、逆境を乗り越えるきっかけとなりました。なぜなら当社のサービスが、金融や保険業界のユーザーに高く評価されるようになったからです。

 オンライン営業が当たり前になった今でも、金融・保険業界の高いセキュリティ要件を満たしながら、スマホで簡単につながる商談ツールはほとんど見当たりません。そのすき間に私たちの電話営業システムがぴったり、はまったのです。

――逆境をバネに、むしろ良い方向へ事業を転換できたわけですね。特定の業種に特化したバーティカル(垂直)型SaaSへシフトしているのですか。

 そうですね。この傾向はますます強まっていくでしょう。コロナ流行前、導入企業の業種はさまざまでしたが、インサイドセールスに熱心なIT系企業が多い傾向がありました。それがコロナ流行後、BtoCとしての需要が伸び、MRR(月次経常収益)ベースでみると、金融関係の顧客は2021年4月時点で18%、2022年3月末時点では35%と倍増しています。この数字はもっと増えると見ています。

 金融や保険業界の個人営業向け導入が増え、BtoCへのピボットに成功しました。ユースケースも中小企業での導入からシフトし、金融系など大企業の導入事例が増えました。これまで1社あたりの契約アカウント数はごく限られていましたが、銀行や保険会社が個人営業にbellFaceを利用していただくようになって、1社あたりの契約アカウント数が一気に増え、高い収益率をもたらしました。

 新型コロナ流行前は、リモートスタイルの営業で私たちが時代を先取りしてきました。しかし、パンデミックでリモート営業が当たり前になり、社会が私たちより2歩も3歩も先へ進んでしまいました。

 この劇的な変化は私たちにとって危機でしたが、もう一段上のステージへ成長させるチャンスになったと感じています。金融・保険業界に特化した、個人営業向けソリューションという新しい分野で、オンリーワンの座を築くことができ、さらにシェアを高めていきたいと思います。

Image: ベルフェイス

契約もオンライン化 金融系特化型ソリューションで営業DXを広げる

――これからの目標やマイルストーンを教えてください。

 Salesforceの「2021年お客様から人気のあったAppExchangeアプリランキング」において、bellFaceが金融・保険業部門1位を獲得しました。つまり、日本国内のSalesforce AppExchange上で提供されている300種類以上のアプリケーションのうち、金融・保険業界で当社のサービスが最も人気が高かったということです。

 またある調査会社の統計によれば、オンライン商談システム市場のベンダー別売上金額シェアで4年連続1位を獲得しています。来期も引き続き、金融業界の個人営業で圧倒的なナンバーワンを確実にするのが目標です。

 もう1つの目標は、「新しいプロダクトカテゴリーを創出すること」です。リモートによる営業スタイルが当たり前になった今、次に求められるのは「契約」のオンライン化です。現状、インターネット上でできることは営業までで、契約はできていません。結果、郵送や訪問、店舗へ来ていただくことが必要になっています。こうした課題を解決するために「リモートコントロール機能」を開発し、特許を取得しました。

 この技術はセールス担当者が共有した画面に、お客さまが直接、操作、入力できるシステムです。画面上で必要事項を入力してもらえれば、インターネット上でリアルタイムな契約が完了できます。

 リモートコントロール機能は、金融系企業のリクエストから開発しました。こうした営業まわりのプロセスでオンライン化したいというニーズは高く、そうした機能をどんどんリリースしていく予定です。営業DXをいち早く実現できるのも、私たちがずっとオンライン営業ツールに専念してきた強みだと考えています。

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