米国を代表するトップクラスのVC、Andreessen Horowitz (アンドリーセン・ホロウィッツ、略称a16z)。設立は2009年だが、短期間のうちに従業員数3人から180人以上に、管理資産3億ドルから100億ドル以上へと急成長を果たした。Facebook、Slack、Airbnb‎、GitHubなど、多くの有名スタートアップへの投資実績を持ち、近年では仮想通貨やライフサイエンスの領域にも積極投資している。なぜa16zは急成長を果たせたのか、また日本市場をどうみているのか。今回は、創業時から事業運営の最高責任者として成長に貢献する、Managing PartnerのScott Kupor氏にインタビューした。

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資本力はVCの強みにならない

―a16zが創業からわずかな期間でトップクラスのVCに成長した、その理由は何でしょうか。

 私たちが成長できた主な理由は、「VCは資本力だけでは差別化を図れなくなる」ということを創業時から認識していたからです。

 これまで資本は希少なリソースだったため、VCは資本力により地位を得ていました。しかし、2000年初頭からネットワークやストレージなどのコストが大幅に下がり、起業に必要なコストは大幅に減りました。さらに、クラウドのサービス開発環境が整ったことで、例えばAmazon Web Servicesを必要な分だけ使い、使った分だけ払うことが可能になり、資本的支出は不要となりました。今では、資本はあり余っているとさえ言えます。

 a16z設立時の基本方針は、起業家にとって魅力的な“何か”を資本以外で用意するということでした。その“何か”とは、販売、マーケティング、経営幹部やエンジニアの採用など、投資先のスタートアップが成長するために必要となる全てを支援する体制です。

 現在、a16zには180人のスタッフがおり、そのうち100人が投資“後”の支援を担当しています。これが明確な差別化となり、a16zが起業家にとって魅力的なVCとなっているのです。

―具体的な御社の体制について聞かせてもらえますか。

 組織体制としてa16zは、VCというより伝統的な企業に近いと言えます。企業に営業部、マーケティング部や研究開発部があるように、a16zにも機能ごとに部門があり、それぞれにマネージャーがいます。そして、各チームには明確な目標があり、目標の達成度を測定し、報酬もこれに結びついています。各チームが目標を達成することで、組織全体の目標を達成する体制を築いています。

 また、Salesforceのようなソフトウェアを活用し、社内外のやり取りや知識を蓄積しています。将来的にこのデータを、リソースと人材の適切なマッチングなどに活用するつもりです。

 組織的なダイナミクスとITシステムを組み合わせることで、全ての活動を包括的かつ効率的に管理できるようにしているのです。

Scott Kupor
Managing Partner
1996年 Stanford Law SchoolにてJD課程修了。クレディスイスファーストボストンでSoftware Coverage Officer、ヒューレット・パッカードでVice President 兼Global SaaS Business Unitの General Managerなど、複数の企業で要職を務めた。2009年Andreessen HorowitzのManaging Partnerに就任。US Berkeley School of Law(2016-2018)およびHaas School of Business(2015-)、Sanford Law School(2018-)にてLecturerとして教鞭を執っている。著書に『Secrets of Sand Hill Road: Venture Capital and How to Get It』がある。
 
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VCは人材ビジネスのようなもの

―近年、a16zはライフサイエンスや仮想通貨といった領域特化型ファンドを立ち上げて投資しています。どのように投資領域を見極めているのですか。

 当社の共同創設者であるMarc Andreessenが10年前に書いた「Software is eating the world(ソフトウェアが世界を飲み込む)」という論説をご存じだと思います。この言葉に含まれる基本的な理論は、ソフトウェアとコンピューターサイエンスを非常に広範囲で水平展開できる技術として使う、ということです。a16zはこれに基づき、その時々の中心的なテーマに投資してきました。

 ライフサイエンス分野への投資は当初予定していませんでした。しかし、コンピューターサイエンスとライフサイエンスが「交差」し「合流」していることに気づき、両方の分野で強みを持つ起業家が見逃せない数に増えたため、ライフサイエンス分野への投資を決めました。

 仮想通貨分野の投資もこれと同じ流れです。2012年にCoinbaseへの投資から始まり、2015年以降に非常に多くのエンジニアがこの分野でスタートアップを立ち上げるのを目の当たりにし、本格的に投資をするようになったのです。

 私たちのビジネスは、人材ビジネスだとも言えます。私たちは、才能ある起業家やエンジニアを注視し、彼らが参入する産業の動向を把握しています。そして先導する彼らの後を追いながら、彼らが参入した領域が投資に値するか見極める。これが私たちのやり方です。ですから、正直に言ってライフサイエンスや仮想通貨の次が何なのか、まだ私たちもわからないのです。

取材記事
Slack / Box / AnyRoad / OfferUp / Teespring / OpenInvest / Toka / CodeCombat / PeerStreet / TrustToken / Drishti / Q Bio / Gigster / Shapeways(2021年にIPO。2023年6月追記) / UnifyID / IFTTT / KoBold Metals / Overtime / Magic Leap / Smartcar / Cresta

スタートアップにとって日本市場は重要。VCも日本からの出資に期待

―日本企業のLPはどれくらいいますか。

 数社いますが、現時点では当社の管理資産の1%以下を占めるのみです。日本ではここ数年で法的な制限が減り、年金機関や保険会社も国外企業に投資できるようになりました。これにより、米国のVCが出資先候補の一つとなり、日本企業の投資活動に変化を感じています。

 当社としても日本企業からの出資に注目しています。そして、今後数年で米国のVCにとって重要な割合を占めていくと期待しています。

―米国のスタートアップにとって日本市場は魅力的ですか。

 法人向けソフトウェア分野において、日本市場は非常に重要です。この分野では、日本市場が企業の収益の7〜10%を占めますから。a16zにも営業、事業開発を支援しているチームがあります。彼らは日本で販売代理店と顧客を開拓するため、投資先のスタートアップとともに日本に行っていますね。

 消費者向け製品やサービス分野では、各国の社会常識や文化の違いが成功に大きく影響します。米国で成功したアプリケーション・ソフトウェアが、日本市場でも成功するとは限りません。こうしたことから、日本市場に進出する消費者向けのアプリケーション・ソフトウェア企業は少ないのが現状です。

起業家はビジョンを語り、人を惹きつける力が必要

―Scottさんが昨年執筆した著書『Secrets of Sand Hill Road: Venture Capital and How to Get It』 についてお聞きします。「VCを惹きつけるにはストーリーテリングが重要」だと書かれていますが、シリコンバレーで資金調達を目指す米国外の起業家に対しても同じことが言えますか。

 まず、ビジョンを語れることが大切です。VCは数十億ドル規模の上場企業に育つ可能性がある会社を求めています。ストーリーテリングの一要素として、何を達成しようとしているのか、最終的にどのくらい大きな規模の企業に育つチャンスがあるかなど、大きなビジョンを伝える力が求められます。

 次に、人を惹きつける力です。シリコンバレーのエコシステムには、非常に激しい競争があります。エンジニアは仕事を選べますし、顧客も選択肢がたくさんあります。その中で選ばれるためには、例えば、実現性が危ぶまれるビジネスであっても、人々が夢中になる要素があること。これが大切です。

 英語圏外の起業家が超えるべき言葉の壁はあるでしょう。しかし、どれだけ上手な英語で話せるか、ということは重要ではありませんね。

―シリコンバレーのエコシステムに加わりたい米国外の起業家に対してアドバイスをお願いします。

 まずは、目標と中核市場を定めることです。米国の巨大で多様な市場は、進出を考えている方々にとって可能性がある魅力的な市場でしょう。しかし、例えばスタートアップが日本とアメリカで事業を同時展開することは、非常に複雑で難しく、多くのVCはこれをリスク要素とみなすでしょう。リスクを減らすためにも、どこにリソースを集中させるか、地理的にどこの市場にフォーカスするか。こうした判断を早期段階で下すべきです。

―日本企業や日本の起業家に向けてメッセージをお願いします。

 私は20年以上前から日本市場を知っていますが、VCと技術イノベーションのグローバル化が起きていると感じています。

 日本の国内市場は大規模です。そして日本国内における、優秀なエンジニアの多さや、市場機会の大きさを考えると、いま私たちが目にしている以上に起業家を育てるチャンスがあると思います。

 日本の起業家やこれから起業家になろうとしている方が、自分の目の前にあるチャンスを掴むことを願っています。

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