Image: Sentient Energy
2009年に設立されたSentient Energyは、主に電力会社の送電インフラを管理するためのモニタリングネットワークを提供するスタートアップだ。電力を取り巻く環境が変化する中、安定した電力供給を支援する同社のFounder & PresidentのMichael Bauer氏にインタビューした。

Michael Bauer
Sentient Energy
Founder & President
ミュンヘン工科大学卒業後、スタンフォード経営大学院でMBAを取得。複数の企業でプロダクトマネジメントやマーケティングに携わったのち、2009年にSentient Energyを設立。Presidentに就任。

独自のハードウェアとシステムで、信頼性の高い電力供給に貢献

―御社のビジネスモデルについて教えてください。

 電気自動車や大容量の太陽電池が普及するに伴い、電力会社を取り巻く環境は大きく変化しています。そのような現状に対応するべく、当社では、電力会社の送電網、つまりグリッドを管理するセンサーシステムを提供しています。

―具体的には、どのような製品やサービスを提供しているのですか?

 製品としては、インテリジェントセンサーが内蔵されたデバイスです。当社のセンサーは、頭上の電線から地下に埋められた配電設備まで、多様な状況にあるグリッドに対応しています。トラブルを検知することはもちろん、電流の状況を把握するなど、数々の機能を持ったセンサーを開発しています。

 中でも我々が最も重要視しているのが、グリッドのわずかな異常でも探知する機能です。たとえば、伸びた木の枝が電線にかかっていて、今後、停電を引き起こす可能性がある、といったことです。当社では高度な技術を使ってトラブルの予兆を検知、分析することにより、問題の早期発見や防止を実現し、安全で信頼性の高い電力供給に貢献します。

―どのような市場をターゲットにしているのでしょうか。

 今は北アメリカで事業展開していますが、ターゲットは主に独自のインフラを所有する大手電力会社です。当社はスタートアップであり、まだそこまで規模も大きくありませんから、小さな企業向けに作業するのは難しいのです。北アメリカの大手電力会社10社のうち、今は8社から9社が実質的に当社の顧客になっています。

Image: Sentient Energy

時代の変化に対応するモニタリングシステムで、電力会社の負担を軽減

―御社のソリューションについて、具体的な活用例を教えてください。

 当社サービスの活用例は、大きく3パターンあります。まず、1つ目はトラブル発生時の対応です。北アメリカには約600万マイル(965万6000キロメートル)もの膨大なグリッドが展開されていますから、どこかで問題が発生したとしても、それを特定するのは非常に困難です。でも、我々のセンサーシステムがあれば、即座にトラブルを検知し、早急に復旧作業を行うことが可能です。

 2つ目ですが、グリッド稼働状況のモニタリングです。センサーの測定機能を駆使することでグリッド1つ1つの状況を知ることができるので、変電所をしっかり管理し、オーバーロード(過負荷)を発見、対応することができます。

 そして、3つ目。アメリカ国内、特にカリフォルニア州では太陽光システムやソーラーパネルを所有している顧客も大勢います。そうなると、ソーラーパネルで作った電気を電力会社に送ることもあります。つまり、1日のうちに送電方向が逆転するタイミングがあるということです。昔は電力会社から送電するだけでしたが、今は双方向になっているのです。当社のシステムなら、電気の流れをしっかり把握することができます。電気の向きが逆になることもある、といった現代では、ますます安全で信頼性の高いシステムが求められるのです。

 あとは細かい話になりますが、どの電線がどこにつながれているか、といった詳細情報や樹木の育成具合からトラブルを事前に予測するなど、以前は職員が直接足を運ばなければ得られなかった情報をセンサーによって把握することができるのです。

柔軟なネットワークシステムと堅固なデバイスで電力会社の負担を軽減

―価格モデルについて、教えてもらえますか。

 はじめに、センサーのハードウェアを購入していただけます。センサーにはトラブル検知用の基本ソフトが内蔵されています。それから、顧客のニーズに合わせて、高機能のソフトウェアを有料で追加していきます。スマートフォンに有料アプリを入れていくのと似ていますね。あとは、デバイスで得た情報を管理、分析するためのオペレーティングシステム用のソフトウェアを販売しています。つまり、デバイス本体、ソフトウェア、オペレーション用ソフトの3つが主製品となります。もちろん、保守サービスも提供していますよ。

―他社にはない御社の強みは何ですか?

 それは、大きく3つあります。1つは、メッシュネットワークやセルラーネットワークという、北アメリカの電力会社が使用する通信システム全般に対応している、という点です。いずれの電力会社も、自分たちに最適なネットワークを構築し、使用していますから、それを活用するべきです。そして、そこまで対応しているのは我々だけです。セルラーを扱っている企業はたくさんありますが、メッシュまで扱っているところは、そうそうありません。当社ではハードウェアとソフトウェアを駆使して、それを実現しています。

 2つ目は、製品の信頼性が高いことです。地上と地下、いずれのグリッドにも対応するデバイス、というだけでも珍しいですが、当社製品はさらに過酷な環境にも対応しています。たとえば、気温が80度にまで上がる灼熱の地でも、逆に氷点下50度にもなる極寒の地でも、当社の製品は問題なく機能しました。海辺など、塩度の高い地域でも同様なので、安心してお使いいただけます。

 3つ目になりますが、製品のインテリジェンスと分析能力が高いことです。ここまで正確で感度の高いデバイスを提供できるのは我々だけだと自負しています。他社製品は、トラブル検知に限定されたものばかりです。これらの3点から、当社が他社の追随を許さない存在になっているのです。

Image: Sentient Energy

時代のニーズを的確に捉えたPresident、次は日本、そして世界へ

―Bauerさんの起業までの経緯をお聞かせください。

 大学で理論物理学を学び、スタンフォード大学でMBAをとった私は、シリコンバレーでブロードバンドネットワーク関連の仕事などをしていました。10年から15年ほど前、ソーラーパネルが流行りだしたころ、電力関連分野に興味を抱きました。これで電気が変わるぞ、と思ったのです。100年続いた現在のやり方が変わる時が来たのだ、と感じました。当時、電力会社がその変化に対応しきれず、信頼が落ちていました。インフラの要ともいえる、600万マイルもの送電グリッドを管理する能力が不足していたのです。たとえば、運送会社のトラック台数が多すぎて、個々の車を管理できなくなった、という感じですね。

 ただ、そのころになるとテクノロジーが進歩し、彼らの管理能力を補佐する機能も実現可能な時代になっていたのです。当時、消費電力を抑えたプロセッサが登場し始めました。また、電力会社の通信ネットワークも充実してきて、あらゆる地域のグリッドにもアクセスできるようになっていたのです。これらの要素を併せることで、私は電力会社に、より信頼性が高く、安全なグリッド管理能力を提供していけると確信したのです。

 今や、ソーラーパネルや電気自動車などにより、インフラ全体が巨大な発電所と化しています。これを安全に運営するソフトウェアやセンサー、そして機能が必須であることは間違いありません。我々は、これからもそれを追及していきます。

―今は北アメリカを中心に展開されていますが、日本を含め、海外進出も視野に入っているのでしょうか。

 そうですね。今でも香港や中国、ヨーロッパ、南アメリカ、オーストラリア、インドなど多くの国の企業が興味を持ってくれているので、それに応えていきたいと思っています。もちろん、日本の企業からも声をかけていただいていますよ。まずは、日本のマーケット事情に詳しい、現地のパートナーを見つけることが不可欠だと考えています。

 実は、すでに日本の大手電力会社と話が進んでいます。北アメリカを飛び出して、初めての大きな案件です。来年になれば、もう少し詳しい話ができるようになると思います。今後は日本も含め、各国のマーケットや電力供給状況などをリサーチし、製品のカスタマイズをすすめていきたいと思います。



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