昨今、膨大な文書処理が日常的に発生する法務業界において、業務効率化の切り札としてリーガルテック企業への期待が世界中で高まっている。アンドリーセン・ホロウィッツやセコイア・キャピタルなどが出資する米Harvey(ハービー)を筆頭に、巨額の資金を調達した先行企業が市場の覇権を争う中、後発組ながら圧倒的なスピードで世界の有力法律事務所を取り込んでいるのが、スウェーデン発のLegora(レゴラ)だ。
同社は、2023年春の創業からわずかな期間で、すでに世界50カ国・550以上の法律事務所や企業法務部門に導入され、急速にシェアを拡大している。成長の原動力は、名だたるトップファーム出身の弁護士を「リーガルエンジニア」として社内に抱えていること。リーガルエンジニアが、顧客のAI導入から現場への定着までを徹底的に伴走支援することで、競合との差別化を図っている。
「私たちの使命は弁護士がより多くのことを達成できるよう、最高に使いやすいソフトウエアを提供し、クライアントを『勝者』にすること」。そう語る同社CEO、マックス・ユーネストランド(Max Junestrand)氏に、レゴラの強みやテクノロジーがもたらす司法アクセスの未来について話を聞いた。
目次
・GPT-3.5の衝撃。法務分野での企業を決意
・レゴラ急成長の原動力「リーガルエンジニア」
・「AI技術」と「法務」の専門知見、両輪で生み出す顧客満足度
・テクノロジーの力で弁護士の専門知識をスケール
・日本市場への本格進出に意欲
GPT-3.5の衝撃。法務分野での企業を決意
―経歴と創業のきっかけについて教えてください。
私は学生時代、コンピューターサイエンスと経済学を専攻していました。その後、コンピュータープログラミングの分野でキャリアをスタートし、様々なスタートアップやベンチャーキャピタルでの経験、そしてマッキンゼー(McKinsey & Company)での勤務を経て、2023年の春にレゴラを設立しました。
創業の直接的なきっかけとなったのは、大規模言語モデル(LLM)の最初のオープンバージョンである「GPT-3.5」のリリースです。これを見たとき、LLMが法律の分野において計り知れない応用範囲を持っていると直感しました。
さらに、私の2人の共同創業者は、それまでもAIと法務が交差する領域で多くの時間を費やしてきた専門家でした。そのため、このAI技術が法務の抱える課題を解決できるという「テクノロジーと課題のフィット(Technology to problem fit)」は、私たちにとって非常に明確だったのです。迷うことなく、この領域での起業を決断しました。
レゴラ急成長の原動力「リーガルエンジニア」
―御社のソリューションについて教えてください。
私たちは、弁護士がAI技術を活用して業務課題を解決できるように支援することを目的としたプラットフォームを運営しています。
具体的には、M&Aにおけるデューデリジェンス(買収監査)から、訴訟におけるディスカバリー(証拠開示手続き)、そして企業内の知財・テックチームの契約業務に至るまで、さまざまな専門分野のタスクに対応しています。契約書のドラフト作成、文書のレビュー、法務リサーチといった作業に生成AIを深く組み込むことで業務を大幅に効率化します。さらに、私たちのプラットフォーム上で、外部の法律事務所と企業の社内法務チームがシームレスにコラボレーション(共同作業)できる点も大きな特徴です。
―スウェーデンだけなく、世界各国へ進出されていると聞きました。
はい。当社は2023年春の創業からわずかな期間で、すでにリンクレーターズ(Linklaters)やクリアリー・ゴットリーブ・スティーン・アンド・ハミルトン(Cleary Gottlieb Steen & Hamilton)、バード&バード(Bird & Bird)といった世界的なトップファームをはじめ、世界50カ国以上で550以上の法律事務所や企業の法務部門などに導入されています。
どこの国でも弁護士の業務量は膨大ですが、数あるツールの中から彼らが私たちを選ぶ理由は、私たちが単なるツールの提供者(ベンダー)ではなく、共に歩む「パートナー」だからです。社内にはトップファーム出身の弁護士たちが「リーガルエンジニア」として多数在籍しており、開発チームと連携しながら、顧客ごとのニーズに合わせた導入と定着を直接サポートしています。こうした最高のプロダクトと伴走体制があるからこそ、今、世界中の弁護士たちに求められているのだと考えています。
「AI技術」と「法務」の専門知見、両輪で生み出す顧客満足度
―サービスを利用した顧客の反応はいかがですか?
非常に熱狂的な反響をいただいています。私たちの顧客のほとんどは、日々の業務プロセスにAIを組み込むことで、これまで達成できなかった新しいタスクをこなせるようになり、スタッフのスキル向上(アップスキリング)にもつながっていると喜んでいます。
弁護士業務というものは、法律や倫理などと照らし合わせて業務を進める必要があり、解釈によっては正解が1つではないケースもあるため、いわゆる一般企業での業務効率化とは少し違う部分もあります。
当社のソリューションは技術力だけでなく、社会の要となる法律に関する専門知識が蓄積されています。世界の法律業界を変え得るポテンシャルを秘めていると評価され、2025年10月時点で企業価値は18億ドルに達しました。
―ソリューションをアップデートするのにも法律の専門知識は必要不可欠ですよね。
その通りです。どんなに技術が素晴らしくても、その技術を実際の法務現場で正しく活用できなければ全く意味がありません。だからこそ、先ほどお話しした「リーガルエンジニア」たちの存在が活きてきます。彼らが当社の開発チーム、そして顧客の両方と日々緊密にコミュニケーションを取り、現場の細かなニーズやユースケースを的確に吸い上げて課題解決に取り組んでいるのです。
AI技術は3〜6ヶ月という猛スピードで変化し続けています。私たちは常にその可能性の最前線に立ち、最新技術をプロダクトに組み込んでいく使命があります。技術を常に最新にアップデートすることと、法律や倫理を深く理解して現場に落とし込むこと。高い技術力と深い法務の知見、この両輪で進めていく体制こそが、私たちが選ばれ続ける理由です。
Image : Legora HP
テクノロジーの力で弁護士の専門知識をスケール
―数ある法務AIツールの中から、顧客が御社を選ぶ最大の理由は何だと分析していますか?
私は、顧客が当社のソリューションを選ぶ理由を「未来を託せるから」だと分析しています。
AI技術は目まぐるしいスピードで進化を続けています。また、法律も社会の変化や風潮によって変化していくものです。こうした変化の絶えない中で、顧客がレゴラを選んでくれるのは、私たちが「今日における最高のプロダクト」を提供するだけでなく、「明日における最高のプロダクト」も提供し続けると約束しているからではないでしょうか。AIの領域で今後何が起きようとも、私たちが常にイノベーションにコミットし、顧客に貢献し続けると信頼してくれていると感じています。
現在、私たちは法務特化で約300人規模のチームへと成長しました。有能なリーガルエンジニアたちが日々顧客と密にコミュニケーションを取り、AIの導入と定着を直接支援し続けているからこそ、こうした強い信頼関係を築けているのだと考えています。
―御社の事業がもたらす社会的価値はどのようなところにあると思いますか?
歴史的に見て、人々が法的支援や「司法へのアクセス(Access to justice)」を得る機会は、極めて限定的でした。世の中が求めるリーガルサービスの圧倒的な需要に対して、供給側のリソースが全く追いついていないのが現状です。
私の願いは、テクノロジーの助けを借りることで、弁護士たちが自身の専門知識を今よりもはるかに大きく拡張(スケール)できるようになることです。それによって、結果的に社会全体の司法や法的サービスへのアクセスが広がっていくと信じています。
CEOとしての私のビジネス哲学は、シンプルです。まず「クライアントを勝者(Win)にする」こと。そして、弁護士にとって「使っていて喜ばしい(Delightful)、より多くのことを達成できる」ソフトウエアを作ることです。私たちが社会に与えられるインパクトを第一に考え、正しいことに集中し続ければ、良いビジネスは自ずと後からついてくると考えています。
―御社の最終目標は何ですか?
「最終目標」はありません。私はこの仕事を、ここから何十年も続けていくつもりです。私たちは、自分たちのミッションと、サービスを提供する弁護士たちに対して非常に強いコミットメントを持っています。
現在、すでに550以上の法律事務所と仕事をしているとはいえ、まだまだやるべきことが多すぎて「ほんのスタートラインに立ったばかり」だと感じているほどです。毎朝起きるたびに、「今日はいかにして、もっと多くのことができるだろうか」と考えています。AIがもたらす可能性はあまりにも巨大で、私たちの仕事で最も難しいのは「いかに優先順位をつけるか」ということなのです。
日本市場への本格進出に意欲
―日本市場への参入も考えていますか?
もちろんです。ただ、新しい市場に参入する時には、言語への対応はもちろん、その市場特有のユースケースについても深く考え、プロダクトを適応させる必要があります。私たちが重視しているのは、単に製品を買ってもらうことではなく、顧客がAIを使って確実に「成功」を収められるようコミットすることだからです。
日本はとても魅力的な市場であることは間違いありません。まだ日本国内にオフィス開設まではできていませんが、すでにいくつかの日本の法律事務所にも導入いただき、一緒にお仕事をさせていただいています。近い将来には、日本への本格進出を実現させたいです。
今は歴史上、AIが法務分野に本格参入するという最もエキサイティングな時代です。日本の企業や法律事務所の皆様とも、ぜひパートナーとして共に考え、私たちの専門職の未来がどうあるべきかを一緒に築き上げていきたいと強く願っています。当社の事業に関心をお持ちの方は、ぜひお気軽にご連絡いただけると幸いです。