欧州を中心に広がる「チャレンジャーバンク」は、テクノロジーを駆使して新たなサービスや価値観を提供し、金融のあり方そのものをアップデートしてきた。スタートアップ向け融資事業などを手がけるFivot(フィボット 本社:東京都港区)も、まさにチャレンジャーバンクを目指す日本の金融スタートアップだ。同社は、AIの活用を前提にしてあらゆるオペレーションをゼロベースで再設計。これにより、融資審査は「10営業日以内」に結果が分かるスピードを実現しており、資金調達においてスタートアップが求めるスピード感とも相性の良い仕組みとなっている。二本柱で展開するビジネスモデルの詳細や、金融機関との協業の重要性などについて、代表取締役CEOの安部匠悟氏に話を聞いた。

目次
欧州の「チャレンジャーバンク」が刺激に
個人から預かり、スタートアップへ融資する
AI前提の設計思想、銀行との補完関係を期待
銀行業が柔軟になれば、社会はもっと面白くなる

欧州の「チャレンジャーバンク」が刺激に

―創業を志した経緯を教えてください。

 以前は、メリルリンチ日本法人(現BofA証券)の投資銀行部門に所属し、主に海外の金融法人を対象とした業務を担当していました。銀行や保険会社に対するM&Aの助言や引受業務が中心で、具体的には、メガバンクによる海外銀行の買収案件における調査や情報提供、買収後のシナジー分析、統合プロセスに関するアドバイスなどに携わっていました。

 そうした業務を通じて、次第に強く感じるようになったのが、銀行という組織の「硬直性」です。法規制の厳しさは理解しつつも、組織規模が大きいがゆえに、新しい領域にスピード感を持って踏み出したり、必要なリスクを取ったりすることが構造的に難しくなっていると感じていました。その結果、本来金融機関が果たすべき「成長企業を支え、経済の発展を後押しする」という役割と、時代の変化や企業側のニーズとの間に、少しずつズレが生じているのではないかという問題意識が芽生えていきました。

 また、海外の動向を日本に紹介する仕事柄、2016年ごろから欧州、特にイギリスで台頭してきた「チャレンジャーバンク」の動きにも触れるようになりました。テクノロジーを活用し、従来よりも速く、柔軟に金融サービスを提供する新しいプレーヤーが次々と生まれている。その事実を知り、個人的に調べたり、関係者の話を聞いたりする中で理解が深まりました。そして、「日本でも金融のスピードや柔軟性を高めることができれば、企業の挑戦をもっと支えられるはずだ」という思いが、次第に明確になっていきました。

 こうした問題意識と確信を形にするため、2019年10月にフィボットを創業しました。特にレンディングは、ある程度の規模を前提とするビジネスであり、最初から簡単な道ではないことは分かっていました。それでも、テクノロジーを前提にオペレーションやデータ活用を設計し直すことで、資金を必要とする企業に、より早く資金が届く世界を実現したい。その思いが、創業の原点です。

安部 匠悟
代表取締役CEO
メリルリンチ日本証券(現BofA証券)の投資銀行部門にて、主に金融法人グループで銀行・保険会社への助言・引受業務を担当。その後、新しい金融を創るという想いからFivotをを創業。

―創業フェーズではどのような苦労がありましたか。

 融資ビジネスは、ある程度のボリュームに達して初めて収益が立つモデルです。そのため、最初から「規模を作ること」が前提になります。そして規模を作るには、当然ながら融資の原資となる資金を調達しなければ始まりません。

 しかし、起業したばかりの頃は、信用も組織もなく、プロダクトすらない状態でした。そうした段階で、「お金を預けてください」「融資の原資を出してください」とお願いしても、簡単に集まるはずがありません。創業時に最も苦労したのは、まさにこの「どうやって信頼を得て、どう資金を調達するか」という点でした。

 現在ではシリーズBの資金調達まで進んできましたが、私たちのビジネスモデルが本来必要とする規模感から見ると、まだ桁が1つ、あるいは2つ足りないという感覚があります。金融機関のように、最初から社会的な信頼を持っているわけではないスタートアップが、どのように信頼を積み上げ、資金を集め、規模を拡大していくのか。この課題は、創業時から現在に至るまで、一貫して最も大きな壁だと感じています。

―創業当初は、どのような事業領域を検討しましたか。

 創業当初から、現在のビジネスモデルに絞っていたわけではありませんでした。「チャレンジャーバンク」という大きな枠組みの中で、取り得る選択肢を構造的に洗い出していった形です。

 大きく分けると、「お金を預かる・決済する」ビジネスと、「お金を貸す」ビジネスという二つの軸があります。さらに、それぞれのターゲットを「個人向け」「法人向け」に分けると、組み合わせとしては全部で四つのパターンが考えられます。

 実際、法人向けのプリペイドカードやクレジットカードといった領域も検討しましたし、逆に個人向けの融資を手がける可能性も考えていました。個人向け融資の具体例としては、在留外国人の方を対象にした融資などもテーマに挙がっていました。

 こうした複数の選択肢を検討し、時には小さく実験を重ねる中で、市場環境や自分たちの強みを最も生かせる形として辿り着いたのが、現在のモデルです。すなわち、「個人から資金を預かり、その資金をもとにスタートアップをはじめとする法人に融資する」という形に収れんしていきました。

個人から預かり、スタートアップへ融資する

―現在のフィボットの事業について教えてください。

 フィボットの基本的な事業モデルは、「個人からお金を預かる」と「企業へお金を貸す」を組み合わせた「個人×法人」のパターンです。現在は、大きく二つのプロダクトを軸に事業を展開しています。ひとつは個人向けウォレット事業である「貯まるキャッシュレスアプリ」の「IDARE(イデア)」、もうひとつがスタートアップ向けの融資サービス「Flex Capital」です。

イデアは、ユーザーが現金をチャージし、そのチャージ残高の範囲内で決済できるプリペイドカードの仕組みになっています。利用残高に応じてポイントが付与される点が特徴となっています。

 プリペイドカードの発行者には、「資金決済法」に基づく規制があります。具体的には、未使用残高が1,000万円を超える場合、その未使用残高の2分の1以上に相当する金額を、発行保証金として供託する義務が課されています。言い換えると、残りの2分の1については、一定の範囲で運用が認められているという仕組みです。フィボットでは、この制度を活用し、ポイントの原資を生み出しています。

 具体的には、イデアでお預かりしている資金のうち、最大で50%までを「Flex Capital」の融資原資として運用しています。これにより、イデアの残高が増えるほど、「Flex Capital」として提供できる融資の規模も拡大していく構造になっています。

 この仕組みによって、個人から預かった資金を、スタートアップなどの法人に融資という形で届ける循環が生まれます。イデアと「Flex Capital」は、利用者のターゲットも提供する価値もまったく異なるため、表から見ると別々のサービスに見えますが、裏側では密接に連動した1つのモデルとして設計されています。

 現在、イデアはユーザー数が数万人規模にまで拡大し、預かり残高も数十億円規模に成長しています。一方の「Flex Capital」は、2021年のサービス開始以降、累計の融資実行額で120億円を超え、これまでに300社以上のスタートアップや企業に資金を提供してきました。

image : Fivot IDARE_feature

―国内・海外の競合と比較したときの、「FLEX Capital」の強みは何ですか?

 国内市場を見ると、銀行の一部や、ベンチャーデットを専業とするプレーヤーなど、競合は年々増えています。その中で「Flex Capital」の最大の強みは、融資を提供するまでのスピードと、使い勝手の良さにあります。

 具体的には、審査の申込から10営業日以内に、必ず融資提案を提示できる設計になっています。他社では、審査から提案までに1〜2カ月かかるケースも少なくありません。それと比べると、意思決定のテンポは大きく変わります。スタートアップにとって資金調達のスピードは、そのまま事業推進のスピードに直結するため、この違いは非常に大きいと考えています。

 このスピードを支えているのが、AIや機械学習の活用を前提にしたオペレーション設計です。データの収集方法から審査プロセス、業務オペレーションに至るまで、すべてをゼロベースで再設計し、人が関与するのは最終的な判断に限っています。人の関与を最終判断だけに絞ることで、安定して短期間での提案を可能にしています。

 一方、海外企業との比較についてですが、現時点で日本市場において直接競合するサービスはほとんど存在しません。金融に関わる規制やライセンス、データ取得の仕組み、さらには商習慣まで、国ごとに大きく異なるため、海外のサービスがそのまま日本に参入することは難しいのが実情です。

 その意味では、日本の規制や市場環境を前提に、最初から設計・実装されていること自体が、「Flex Capital」の競争優位性になっていると考えています。

image : Fivot FLEX Capital

AI前提の設計思想、銀行との補完関係を期待

―技術的な提携、拡販のための提携、資本的な提携など、どのような提携を重視していますか。

 最も優先順位が高いのは資本提携です。ただし、ここで言う資本提携は、単に出資を受ける、あるいはM&Aを行うといった狭い意味に限りません。融資ビジネスにおいて本質的に重要なのは、融資の原資をいかに安定的に確保するかという点であり、その観点を含めた、より広い意味での提携を重視しています。

 例えば、金融機関から融資原資の提供を受ける、あるいはバックファイナンスの仕組みを構築することで、資金供給能力そのものを拡張していく。そうした形の提携が、現時点では最優先だと考えています。

 提携相手として想定しているのは、主に金融機関です。既存の金融機関には、まだ技術活用が十分に進んでいない領域もあります。一方で、私たちは法人融資やベンチャー企業に関するデータを蓄積しており、両者の強みを組み合わせることで、相互補完的な協業が可能になると考えています。

 特に銀行では、部分的にAIを導入しているケースは多いものの、業務プロセス全体を通じてAIを前提に再設計するという点では、組織構造上、どうしても難しい部分があります。

 その点、私たちはまだ規模こそ小さいものの、AIの活用を前提に、オペレーションやデータの取り扱いをゼロから設計してきました。同じ「AI活用」という言葉でも、データの集め方や扱い方は根本的に異なります。銀行が持つ潤沢な資金力と、私たちが持つ技術やノウハウを掛け合わせることができれば、単独では到達しづらいスピードと規模で、より良い融資体験を市場に提供できるはずだと考えています。

―中長期的な目標について聞かせてください。

 まず、2〜3年程度の中期的なスパンでは、私たちが持つ技術力を生かし、スタートアップに加えて中小企業までターゲットを広げていく考えです。より多くの企業に対して、迅速で効率的な融資を提供できるよう、規模の拡大に集中して取り組んでいきます。

 その先の長期的な目標は、本格的なチャレンジャーバンクとして成長し、(認可を得た)銀行になることです。銀行免許を取得すれば、規制やルールは今以上に厳しくなりますが、その分、扱える領域や事業の幅は大きく広がります。だからこそ、長期的な成長を見据えるうえでも、金融機関との提携は極めて重要な要素だと考えています。

―金融機関との提携の難しさはどこにあるのでしょうか?

 まず1つ目は、意思決定と推進のスピードです。銀行は組織規模が非常に大きく、たとえPoC(概念実証)のような実験的な取り組みであっても、稟議や承認プロセスを経る必要があります。現場の担当者が「面白い」「やりたい」と感じただけでは前に進まず、重層的な意思決定を経るため、どうしても時間がかかります。

 2つ目は、文化や意思決定の論理の違いです。銀行の中にいる方々すべてが、技術やスタートアップに明るいわけではありませんし、必ずしも前向きとは限りません。スタートアップにはスタートアップなりのスピード感や判断軸がある一方で、銀行には銀行側の論理や事情があります。その違いを理解したうえで、「どうすれば前に進めるのか」という折り合いをつけることが、現実には難しい場面が多くあります。

 3つ目が、セキュリティ要件の扱いです。預金者の資産や機密情報を扱う銀行にとって、セキュリティ要件が非常に厳しいのは当然のことです。ただ、その基準をスタートアップ側にそのままフルで求められると、負担は極めて大きくなります。実験的なPoCと、全社で本番稼働している基幹システムとで、同じ水準の要件が本当に必要なのか。どこまでを、どのレベルで満たすのかという設計は、常に論点になりやすく、結果として時間がかかってしまうことが多いと感じています。

 こうした提携の難しさは、単に「銀行は動きが遅い」という一言で片付けられるものではありません。組織構造に起因するスピードの問題、文化や意思決定の前提の違い、そしてセキュリティ要求の高さ。これら複数の要素が同時に絡み合っている点に、本質的な難しさがあると考えています。

銀行業が柔軟になれば、社会はもっと面白くなる

―事業を通じて、どのようなインパクトを社会に与えたいと考えていますか。

 銀行業の免許を取得し、目指しているチャレンジャーバンクとしての姿を実現できたとき、社会に与えられる最大のインパクトは、資金供給に伴う“摩擦”を減らし、物事が進むスピードそのものを引き上げることだと考えています。

 特にスタートアップのような成長企業が、必要なタイミングで、必要な資金を、より効率的に、摩擦なく調達できる状態を作ることが重要です。そうした環境が整えば、企業は本来の事業価値で正しく評価され、資金がより速く、健全に回る世界に近づいていくはずです。

 その結果、社会全体における意思決定や挑戦の回転も速くなります。今よりも2倍、3倍のスピードで新しい価値が生まれる。その土台を、金融の側面から支えることが、私たちが社会に提供したいインパクトです。

 銀行業そのものが、もっと柔軟で、スピーディーに進化できれば、社会は今よりもずっと面白くなるし、成長の仕方そのものも大きく変わっていく。そうした変化を、金融の現場から実現していきたいと考えています。

image : Fivot HP



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