ファンズ(本社:東京都渋谷区)は、投資文化が浸透しづらい日本の金融市場に風穴を開けようとしているスタートアップだ。同社が提供するオンラインプラットフォーム「Funds」は、個人が企業に資金を貸し付ける形で投資ができる。業界初となる1円単位での投資が可能で、値動きのない予定利回り型の金融商品が提供されるため気軽に投資が可能。また、貸付ファンドを通じて個人と企業がつながるファンコミュニティ作りも支援する。これまでに上場企業を中心とする400のファンドを募集し、分配遅延・貸し倒れは0件。累計募集額500億円、会員登録数10万人を突破した。同社のCEO、藤田 雄一郎氏に事業の特長と将来展望を聞いた。

目次
日本の資産運用は両極端
ミドルリスク・ミドルリターンの商品を開発
ライセンス取得の壁を乗り越え、5年で募集額500億円突破
「国民的」な資産運用サービスに

日本の資産運用は両極端

―日本の資産運用を巡るどのような点に課題を感じていましたか。

 ファンズの前身であるクラウドポートを創業する前に、約3年間、銀行などを介さずにインターネット経由で貸し手が借り手に直接融資する「ピア・ツー・ピア(P2P)レンディング」サービスを提供する会社に参画していました。その事業に携わってみて感じたのは、個人からお金を集めて企業に貸すというモデルが、直接金融の理想的な形だということ。そして、非常に面白く、大きな可能性を秘めているということでした。

 それと同時に、業界を取り巻く課題や限界も見えてきました。当時の業界は、ハイリスク・ハイリターンの案件を扱っているプラットフォーマーばかりでしたので、そこに一般の人はなかなか入りづらい。一方、ローリスクな資産運用といえば社債や国債で、ほとんどリターンがないという両極端な状況だったのです。そこで、1~3%ぐらいの利回りを手堅く得られるような「ミドルリスク・ミドルリターン」の商品があれば、今まで資産運用に興味がなかった人たちも足を一歩踏み出してくれるのではと考えました。そんな時にスタートアップの経験豊富な共同創業者の柴田に出会い、ファンズの前身のクラウドポートを立ち上げたのです。

藤田 雄一郎
代表取締役 CEO
早稲田大学商学部卒業後、サイバーエージェントに入社。2007年にマーケティング支援事業を行う企業を創業し、2012年上場企業に売却。2013年に大手ソーシャルレンディングサービスの立ち上げに経営メンバーとして参画。2016年11月にクラウドポート(現ファンズ)を創業。

―もともと、金融に関するバックグラウンドをお持ちだったのですか。

 いえ、金融に関するバックグラウンドもなかったのですが、海外でP2Pレンディングが盛り上がっていることを知り、面白そうだと感じていました。当時、一度目の起業とその会社の売却を経て、起業で大事なことは「どんな事業をどのタイミングでやるか」だと実感していたのですが、そんな折、何の偶然か日本でP2Pレンディングのサービス立ち上げを検討している会社から、マーケティングの責任者をやってほしいと声がかかり、すぐに参加を決めたという経緯です。

ミドルリスク・ミドルリターンの商品を開発

―「Funds」の特長やビジネスモデルについて教えてください。

「Funds」は、企業が事業資金調達のために組成したファンドへ、個人が1円単位、手数料無料で投資できる資産運用サービスです。ファンドにはあらかじめ利回りと運用期間が設定されていて、運用期間後に元本と予定された利息が返ってくるため、お客様は投資をしたらあとは待つだけ。株や投資信託のように相場による値動きもないので、毎日株価をチェックしてハラハラしたりすることもありません。イメージとしては、株式投資と債券投資の中間という位置付けです。また、株主優待に代わるFundsへの投資特典として、一部のファンドでは「Funds優待」も提供しています。

 参加企業は三菱UFJ銀行やメルカリをはじめ約8割が上場企業です。さらに、参加に当たっては、当社の審査部門が企業審査・ファンド審査をしっかり行っており、上場企業であってもその審査を通過しない限りFunds上で資金調達を行うことはできません。そのため、Fundsをご利用いただくお客様のリスクは非常に低いと思いますし、実際このサービスを提供し始めてから、分配遅延・貸し倒れは1件もありません。とてもシンプルで分かりやすいサービスなので、投資経験のない方や多忙な方でも安心して資産運用ができると思っています。

 借り手側は上場企業で、通常は銀行から借り入れされていますが、大型の設備投資や事業の立ち上げを予定していて、銀行からの借り入れでは足りない場合などにFundsをご利用いただいています。補完金融というポジションですね。

 さらに、貸付型ファンドを通じて個人と企業のつながりができますので、それを通じて個人に向けたプロモーションやIRを展開することができます。投資を始めると、自分が投資した企業に対して親近感を持ち、応援したくなりますので、そういうファン作りやファンマーケティングに関しても、クライアント企業に向けてさまざまな提案や支援を行い、ご評価いただいています。当社のサービスに対し、企業からは成果報酬という形で料金をいただいていますので、貸し手のお客様の手数料無料という仕組みを実現できています。

―競合にはどのような会社がありますか?

 P2Pレンディングを手掛けている会社は国内にも数多くありますが、その多くはハイリスク・ハイリターンのプラットフォームで、何かしらの理由で銀行からの借り入れが難しい企業に高利でお金を貸し、高い利回りで投資する人を呼び込んでいます。個人が安心して投資できるよう、上場企業に特化し、手堅くミドルリターンの資産運用ができるプラットフォームは、今のところFundsだけですね。

image: ファンズ

ライセンス取得の壁を乗り越え、5年で募集額500億円突破

―これまでに企業と組んで手がけたプロジェクトの中から、事例をいくつかご紹介いただけますか?

 ユニークな取り組みとして評価いただいた案件としては、三菱UFJ銀行(MUFG)さんの「Money Canvas限定ファンド」があります。Money Canvasは、幅広い金融商品の中から自分に合ったものを自由に組み合わせて資産形成プランを作れる資産運用プラットフォームで、そのユーザー獲得のために、当社のサービスをご利用いただきました。ユーザーは、Money Canvasに登録することでそのファンドに投資することができます。利回りは1%で、超がつくほど手堅いメガバンクのファンドということで、一瞬で完売しましたね。

 金利1%というのは、MUFGからすれば資金調達コストとしてはかなり高いんですが、それをマーケティングコストとして考えれば合理的だということでファンドを組成され、リピートもいただいています。金融商品というと、一般的にはリスク&リターンだけで利回りが決まりますが、そこにマーケティングの概念を加えることで、通常のリスク&リターンとは違うロジックで利回りを設定できたという点がユニークなポイントではないかと思います。

 もう1つの例は、ミドリムシで有名なヘルスケア事業やバイオ燃料事業を展開されているユーグレナさんで、積極的な投資を続けて急成長されていますが、各地にプラントなどを作っておられるので多額の資金が必要で、銀行だけでなくわれわれのプラットフォームも調達チャネルとしてご活用いただいています。それに加えて、投資してくださった方々をイベントに招待するといった取り組みもさせていただき、ユーザーを獲得するチャネルにもなっているとご好評いただいています。

―貸し手側の顧客はどんな方が多いのでしょう?

 当社のお客様は元々投資をされている方が多く、資産ポートフォリオのコア部分では手堅く積立投資などを行い、サテライトではアグレッシブな投資をされています。その方々は、インフレが進んで銀行に預金するだけでは資産が目減りしていくので、コアに近いところの守りの資産運用として、Fundsをご利用いただいているようです。お客様の年齢層は、30代、40代の方が多いのですが、短い年限で利回りも決まっているので安心して投資できるということで、最近では60代以上の方のご利用も増えてきました。

―どのような形で顧客を獲得されているのですか?

 クライアント企業については、営業担当者が先方に出向いて提案などをさせていただいていますが、貸し手側のお客様の方は、InstagramやYouTubeなどSNSを見て登録してくださっている方が多いですね。それで、実際にFundsを使って投資されたお子さんが、親御さんにもFundsを紹介してくれるという流れができて、60代以上のお客様も増えています。「自分の親にも自信を持って勧められるサービス」を提供できているのは、我々にとっても嬉しい限りですね。

image: ファンズ

―サービス開始以来の業績の推移をお聞かせください。

 募集額で言えば、2019年1月にサービスを提供し始めてから100億円に達するのに2年近くかかりましたが、そこから募集額が3倍以上に増えていて、2023年12月時点で500億円を突破しました。クライアント企業のバリエーションも増えてきましたし、この5年間、分配遅延・貸し倒れ件数が0件という実績をご覧になって、多くのお客様がFundsに興味を持ってくれているのだと思います。

―まさにうなぎ上りという感じですが、ここに至るまでにどんなご苦労がありましたか?

 一番苦労したのは、ライセンスの取得ですね。当社の業務には、「第二種金融商品取引業」というライセンスが必要なんですが、それを取得するためには関東財務局の審査をパスしなければなりません。その審査では、どんな商品を作ってどのように販売するのかに始まり、過去に金融業に従事したことのあるコンプライアンス責任者がいるかどうか、情報管理はどうするかなど、さまざまなチェックが入ります。

 われわれは、2016年に会社を設立したものの、体制的にはまだ不備な部分も多く、それを一つひとつ整備しながらチェックをクリアしていったのですが、財務局との1回1回のやりとりのインターバルが1ヶ月ぐらいかかるんです。まだサービスを開始していないわけですから、その体制整備のためのお金を工面するのも大変でしたし、社員の間でも「本当にライセンスが取れるのか」という不安が芽生え始めるし。何とかライセンスを取得し、2019年にサービスを開始することができましたが、思い出すのも辛いぐらいの「地獄の3年間」でした。

「国民的」な資産運用サービスに

―今後の事業展開や長期ビジョンについてお聞かせください。

 現在、Fundsの募集額は月20億円~30億円といったところですが、これを直近2、3年で月70億円~80億円に伸ばしたいというのが、短期的な目標です。これまでは上場しているスタートアップなどへの投資ファンドは手がけてきましたが、自分の経験からしても、一番お金が必要なのは上場前の会社です。そこで、プロの投資家を対象としたレイタ―ステージのスタートアップへのファンドも準備しています。

 現在、日本の家計には1000兆円に上る預貯金がありますが、それが有効活用されているかと言えば、必ずしもそうではない。その1%でもスタートアップに提供することができれば、会社の成長を後押しすることができます。その中から、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoftの頭文字を取った呼び名)のような企業が生まれてくるかもしれません。日本にそういう企業が誕生すれば、経済全体が活性化するのではないでしょうか。

 われわれは「国民的な資産運用サービスを創る」というビジョンを掲げていますが、「国民的」というのは、老若男女誰もが知っているという意味です。国内にはメルカリやLINEなどみんなが使っているサービスがありますが、資産運用に関してはそのようなサービスがまだありません。当社はそういうポジションを目指し、向こう10年ぐらいで数兆円の投資規模を持つプラットフォームになり、日本経済の発展に寄与したいと思っています。

―ビジョンの実現に向けて、外部企業とはどんなパートナーシップが考えられますか。

 マーケティングやファン作りの部分で連携できる部分はいろいろあると思います。説明コストが高い商品などのプロジェクト資金をFundsで調達いただいて、投資された方に商品サンプルを使っていただき、発売前から応援団になってもらうとか、あるいは福利厚生の一環として、自社の社員向けのファンドを出して、エンゲージメントを高めるという方法もあるかもしれません。また、最近は顧客データをたくさんお持ちの企業が、資産運用サービスを展開されるケースも増えていますので、例えばカード会社などとわれわれが組んで、ミドルリターンの手堅い金融商品を組成すれば、ユーザーを拡大していくことができるでしょう。

―御社の事業にご興味をお持ちの皆さんに、改めてメッセージをお願いします。

「お金は経済活動の血液」とも言われますが、その血液の流れを良くすることによって、日本経済の健康状態も良くなっていきます。Fundsはそれを可能にするプラットフォームだと思っていますが、当社はまだまだ未熟で小さなスタートアップですので、多くの企業の力を借りながら新しい市場を作り、さらに成長していかなければなりません。現在、さまざまなプロジェクトの準備を進めていますので、ぜひご参画いただき、豊かな未来を一緒に実現していきましょう。



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