Lower(本社: 米オハイオ州)は住宅の売買、融資、保険などの金融プラットフォームを提供するフィンテック企業。「住宅の購入費用を節約したい」「ローンの借り換えをしたい」「最適な保険をかけたい」「優れた不動産事業者と出会いたい」といった、住宅所有にまつわる障壁をテクノロジーによって解消している。2018年に創業して着実に実績を重ね、2021年には1億ドルを調達。事業拡大フェーズに入った同社CEOのDan Snyder氏に、事業概要や展望について聞いた。

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アプリを使って住宅購入のあらゆるサービスを提供

 住宅ローンのプラットフォームを提供するLowerは、オハイオ州コロンバスに本社を構え、CEOのSnyder氏もまた、大学から現在まで同地域で事業経験を重ねてきた。Wells FargoやAmerican Bankなどの金融機関で勤務した後、2013年には共同創業者と共に住宅ローンのための金融機関であるHomeside Financialを立ち上げ、2018年にLowerを立ち上げた。

「私は、テック系と金融系、両方のキャリアを歩んできました。そのなかで、顧客が銀行口座を開設し、最終的に住宅ローンを組むための、より簡単な方法があるはずだと考えたのです。当社のアプリをダウンロードすれば、お金を預けて住宅購入資金を貯め、自分の信用状況をモニタリングし、住宅資金調達、家財保険への加入もできます。住宅ローンに関する全てを提供しています。便利で簡単、そして低価格で提供しているので『Lower』なのです」

Dan Snyder
Lower
CEO
オハイオ大学で経済学や財務、マーケティングを専攻し2003年に卒業。Wells Fargosでオハイオ州コロンバス地域の支店長として勤める。2007年にAmerican Bankに移り、マーケティングや人事、リスクマネジメント、事業開発などを担当。2013年にモーゲージバンクに当たるHomeside Financialを共同創業(現在はマネージングパートナー)し、その経験を活かし2018年にLowerを共同創業、CEOに就いた。

 Lowerでは、AIや機械学習といったデジタルテクノロジーの活用によって住宅ローンにまつわるさまざまなサービスを合理的かつ包括的に提供している。iOS、Android対応のアプリでスマートレコメンデーションを展開する。住宅ローンの金利は米国平均よりも低い。不動産売買については全米の不動産事業者と、住宅や家財保険と提携している。テクノロジーによって高い費用対効果を生み、それをサービスに還元し、支持を得ることで、創業以来、毎年前年比2倍の成長を遂げているという。

 2020年〜2021年末の24カ月間で、銀行口座開設件数は500%以上増加したという。パンデミックによって人々が大都市から移動し、住宅の需要が高まっていることも大きなチャンスになっているようだ。

Image: Lower

より多く、早く、安くの選択肢を提供し、住宅購入に関する摩擦をなくす

 Snyder氏は競合について、デジタル住宅ローン融資のBetter.com、エコシステムはソーシャルレンディングを提供するSoFiが近いと説明した。いずれもソフトバンクグループが出資する企業だ。

「SoFiは幅広い領域の金融サービスを提供していますが、私たちは、住宅分野に特化した金融サービスを提供しています。家を買う場合、融資の面であらゆる選択肢を持てることが重要になります。サービスによっては、選択肢が少ないところもあります。ですから、お客様のために、住宅購入にフォーカスしたより多くの選択肢を提供します。他社より早い対応も当社の強みで、クロージングまでに要する期間は通常15日です。ワンストップでより早く、より安くという方針です。ですから私たちは急成長しているのです」

 もう1つの差別化ポイントは、住宅ローンAPIの提供だ。外部の金融機関やフィンテック企業が住宅ローンを提供したいと考えた場合、Lowerのプラットフォームを使ってサービスを提供できるようになっている。これも急成長の源泉となっている。

Image: Lower

1億ドルの資金調達でサービス開発と宣伝、M&Aを促進

 当面は米国市場での事業拡大を狙っているLowerは、日本市場への参入はまだ考えていないとしながら、適切なパートナーは世界中で探しているという。

「日本の革新性や規律性には敬意を持っています。住宅市場についてはまだよく知りません。現在関係のある日本企業もありません。しかし私たちは、適切なパートナーがいれば、いつでもチャンスがあると思います。例えば、日本の銀行やフィンテック企業が住宅ローンのサービス提供に興味を持っていて、私たちの支援を望むなら、弊社が持つAPIなどの技術を使ってビジネスを効率化できるでしょう」

 創業からしばらく自己資金だけで運営していたLowerだが、2021年6月にはシリーズAラウンドでAccelから1億ドル(約115億円)を調達した。この資金をもとに2022年は市場シェアを2倍に拡大することを目標としている。銀行サービスとしては、クレジットカード・デビットカードを提供するなど、補助的なサービスを提供することで、将来住宅を購入する見込み客を早期に獲得していく。不動産の新サービスとしては、不動産事業者ネットワークを活性化し、購入プロセスを効率化していきたいと考えている。

 地元オハイオ州コロンバスのサッカースタジアムの命名権を取得し「Lower.com FIELD」としたのも、これから住宅を購入するミレニアル世代やZ世代の住宅購入者の心をつかむためだ。こうしたサービスの展開・周知だけでなく、買収計画も立てている。自社の文化に合った企業を買収することで、ビジネスを拡大につなげていきたい考えだ。Snyder氏は最後に、長期的なビジョンと、日本に対する思いについて次のように述べた。

「私たちのビジョンは、アメリカの金融会社でナンバーワンになることです。東京は起業家精神あふれた都市であり、常に革新を続けているという感じがします。日本のフィンテック市場は急速に発展をして、今後5年間で10倍になると言われていて、それは起業家として喜ばしいと思っています」

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