都市は、たくさんの人、ビジネス、交通、店舗を集めることによって生産性を高めてきた。だが、一方で都市は働く人にとって環境的にも精神的にも多くの苦痛を与えるという弊害も生んでいる。シェアオフィスサービスを提供するDesana Network(以下、Desana)は、こうした中央集権的なワークスタイルに異議を唱え、人々が好きな場所で自由に働く選択肢を与えようとしている。近年、リモートワークの普及やグローバル化によって、どこにいても最大限のパフォーマンスを発揮できるようにしたいというニーズの高まりを背景に、世界50ヶ国にシェアオフィスを展開。Desanaが考える、分散型と柔軟性を好む新世代にフィットしたワークスタイルとはどのようなものか、創業者でCEOのMichael Cockburn氏に話を聞いた。

働く場所は自分で、自由に決める

 創業者でCEOのMichael Cockburn氏は、15歳で大工となり、19歳で独立する。視野を広げるために自然エネルギーの業界に入り、建物のエネルギー効率の調査を行うビジネスを始める。自宅で仕事をしていたため、自律的に働けるオフィスの必要性を感じ、Desenaのアイデアを着想する。どこにいても質のいい仕事場を利用できる方法を提供することにしたのだ。

Michael Cockburn
Desana Network
CEO
大工、自然エネルギー会社を経て、建設・不動産の測量ソリューションを提供するコンサルティング会社を立ち上げる。その時の経験から、自由に働く場所を選択できる必要性を強く感じ、2016年、Desena Networkを創業した。

「小さなコンサルタント会社を経営していた時に、自宅で仕事をすることへの不満が、現在のアイデアの種になりました。どこで仕事をするか、自分たちで自律的に選択できるのは素晴らしいことです。より機動的で柔軟性のある働き方ができるというのも魅力的でした」(Cockburn氏)

 Desanaは2016年に創業して以来、50ヶ国、100都市のサードパーティプロバイダーと提携して、会議室やプライベートオフィス、コワーキングスペースを提供できるようになった。日本でも東京と大阪の数十ヶ所で利用可能だ。いつでもどこでも利用できるように、予約はスマートフォンアプリから行う。各地に分散したチームメンバーが、オンデマンドでアクセスできる単一のプラットフォームを用意しているのだ。顧客である企業はどんな場所で何人が利用しても、利用時間に応じた料金をまとめて一括請求で済むというメリットを享受できる。

 世界各地でのプロバイダー開拓のノウハウについてCockburn氏に聞くと、「血と汗と涙の結晶です」と答えた。Desanaは、シェアオフィス事業を展開したいと考える企業に、コンサルティングやオンボーディング用のひな型を提供することでスペースを確保してきた。プロバイダーからは固定費を徴収せず、スペースの利用に応じた利用料支払いをし、彼らを成功に導くプロセスもプラットフォームに用意しているのだ。

使った分だけでいい、コスパの高い料金システム

 収益モデルはプラットフォームの基本料金と、スペースを利用した分のみから得る仕組み。詳しい数値は明かさなかったものの、月間の売上は昨年同時期と比べて10倍以上と飛躍的に業績は伸びているという。ただし、新型コロナウイルス感染症による2020年3月のロックダウンによって、大手銀行や大手スポーツブランドのパイロット利用が中断されてしまうという痛手もあった。その後、トレンドは一気に変化し2020年の夏をすぎると40社以上が利用を開始し、クリスマス前には数万人の従業員が利用するようになった。

 Cockburn氏は、「新型コロナウイルスは、一時的にオフィス需要を抑制しましたが、長期的に見れば機動的なオフィスの必要性と、働く場所の選択肢を与える大切さを、雇用主に気づかせることにつながりました」と、コロナ禍が収束したとしても将来に楽観的だ。若者たちほど中央集権的な働き方よりも、柔軟な分散型スタイルを好むようになっているため、こうした新しい世代に向けたサービスを構築していく考えだ。

 最大の競合は、米国発祥でフレキシブルオフィスのリーディングカンパニーWe Work。We Work が比較的大きなビルを所有するか、あるいは借りたスペースを提供しているのに対して、Desenaはプロバイダーとのネットワーク力を駆使して提供する点が大きな違い。Desanaの方が、より柔軟かつスケーラブルなアプローチでスペースを提供する。

「私たちが最も重視しているのは、競合他社ではなく、ビジネスで働く人々のニーズを満たすために、不動産にもっと柔軟性と自律性を持たせる方法を新しく構築することです。ですから、他のプラットフォームについてはあまり関知せず、基本的にお客さまに焦点を当てています」(Cockburn氏)

 We Workなど競合の収益モデルは、利用人数に応じた月額制メンバーシップを採用しているため、実際の利用日数・時間にかかわらず、料金は固定されてしまう。しかし、Desanaの場合、基本料金はあるものの、従業員が利用した分だけ支払う仕組みのため、利用者数に応じた月額固定の場合と比較して平均70%ものコスト削減につながるとCockburn氏は語った。

ビジョンは世界のワークスタイルを変えること

 新入社員が多い、雇用調整があるなど、人員が流動的な会社ほど、メンバーシップを必要としないDesanaのようなスペースのニーズが高い。主なクライアントはグローバルに展開するエンタープライズ企業や急成長しているスタートアップで、分散型かつ柔軟性を持ちながらベストなパフォーマンスを出したいチームをターゲットとしている。現在、アジア地域でDesanaを利用しているのは米国やオーストラリアなどの企業だ。日本のスペースは、米国のテック系上場企業も利用しているという。

Image: Desena Network

 パンデミック以降、グローバルで人材を求める動きが加速している。Desanaはどこのエリアに新入社員が入社しても集中して利用できる環境を整えていく。2021年6月には、2回目のシードラウンドでBusiness Growth Fundや、 PropTech1 Ventures、Techstart Venturesなどから400万ドルの資金調達をした。

 カスタマーサービスやアカウントマネジメントのスタッフを募集するなど、グローバルチームの構築が目下の目標。2022年中にはシリーズA、Bラウンドの調達を目指す。サービス改善は、引き続き顧客満足度を高めることと、柔軟なスペース確保やプラットフォームの自動化に焦点を当てていく。現在、顧客インタビューを実施したり、プラットフォーム上の行動を調査したりして、どうすれば顧客満足度を高められるか工夫に努めている段階だ。

 最後にCockburn氏は、Desanaの長期ビジョンを次のように語った。

「都市は、人々にとって環境的にも精神的にも、そして経済的にも多くの苦痛を引き起こしています。私たちは、人々がどこで働くかという選択肢や自律性を高めることで、都市のあり方を根本的に見直すことができると考えています。私たちの使命は、世界のワークスタイルを変えることであり、中央集権的なワークスタイルをあらため、世界中どこでも働く可能性を実現することであると考えています」

 これまで「オフィスにいる」ということは、献身の表われとして捉えられてきた。だが、コロナ禍を経て、人々の価値観は確実に変わりつつある。従業員が自分の生活にあわせて仕事ができるように手助けすることを、Desenaは精一杯、努力していきたいとした。



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