今回は2020年6月に資金調達を果たした米国スタートアップを6社紹介する。自動運転フォークリフト、Eメールとのデータ統合API、自動運送経路選定ソフトウェア、オンラインイベントプラットフォーム、低金利クレジットカード、データセキュリティ事業を推進する米国スタートアップ6社に、事業詳細と今後の展望について聞いた。


自動運転フォークリフトでサプライチェーンを変えるThird Wave Automation



 トヨタAIベンチャーズも出資するThird Wave Automationは、フォークリフトを機械学習やロボティクスやソフトウェアで自動運転化することで、サプライチェーンやロジスティクスの安全と効率を追求する。

 Founder & CEOのArshan Poursohi氏は、「私はGoogleでロボティクスに携わった後、トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)に移り、フォークリフトについて知りました。自動運転の実用化には少なくともあと10年はかかる中、フォークリフトにはより大きな自動運転開発の機会があると感じました。フォークリフトの自動運転が実現すればサプライチェーンを変えることになります」と語る。

Arshan Poursoh
Third Wave Automation
Founder & CEO
Sun Microsystemsを経て、Oracleに入社。2010年よりGoogleで6年勤務。その後、Toyota Research Instituteにて2年働き、Third Wave Automationを共同設立、CEOに就任。
 
 自動運転フォークリフトは、「shared autonomy」呼ばれる、最新のマシンラーニング、コンピュータービジョン、ロボットによる素材の扱い方法が用いられている。

 Third Wave Automationの自動運転フォークリフトは普段は自律して運転しているが、何かしらのチャレンジにぶつかると、オペレーターにどうすればそれを解決できるのかを質問、それにオペレーターが答えることで、フォークリフト自身が学習していく仕組みだ。

 現在は北米のみで展開しているが、日本進出するうえでは「フォークリフト関連のハードウェア開発を手掛ける企業とパートナーシップを組むことになるだろう」とPoursohi氏は語る。

資金調達額:1900万USドル(2020年8月現在)
6月の資金調達額: 1500万USドル
6月の資金調達先:Toyota AI Ventures, Eclipse Ventures
所在地:Union City, California
URL:https://www.thirdwave.ai/

アプリケーションとEメールやカレンダーとの統合をスムーズにするAPIプラットフォームNylas



 従来、ユーザーのメールやカレンダーデータなどとの統合はセキュリティの面から2年ほど開発にかかる。NylasのAPIはそれを簡単に可能にする。また統合後の行き来するデータも全てインクリプトされており、Nylasのプラットフォーム上でデータへのアクセス管理も簡単に行うことができる。

 Marketing Vice PresidentのMatthew Harper氏は「ユーザーのメールやカレンダーには弁護士との会話やメディカルレコードといったプライベートの情報が多くあります。そこへアクセスし、個人情報には触れずにデータのみを統合し、ビジネスリスクを作らないように開発するのはとても難しいです。われわれのAPIはそれを簡単にします。また開発にかかる2年間という時間と5〜7名の開発者を雇用するコストの削減につながります」と語る。

Matthew Harper
Nylas
Marketing Vice President
Sony Computer Entertainment America LLCにて約6年間勤務。その後複数の企業で勤めたのち、NylasのVP of Marketingに就任。
 
 全世界でEメールの使用量が伸びていた2013年。Co-founder and CTOのChristine Spang氏がメールがデータを多く保有するにも関わらず、そのデータを簡単にディベロッパーが統合できない問題があると知り、Nylasを創業した。

 NylasのコミュニケーションAPIは22か国以上の450社以上に導入され、業種はComcastのようなメディア、Hyundaiのような自動車メーカーなど幅広い。世界の4万社以上のソフトウェアディベロッパーに活用される。

 長期的なビジョンは、ソフトウェアを使う人々がデータエントリーから解放され、より人間らしいクリエイティブな仕事に集中できるようにすること。

 Harper氏は「私はソニー米国でプレイステーションのマーケティングマネージャーを6年勤めた経験があります。米国と日本の市場の違いはよく理解しています。日本のカスタマーの一助となるには、日本市場のエキスパートが必要です。日本市場参入のための戦略的出資者も必要とします」と語る。



資金調達額: 5902万U Sドル(2020年8月現在)
6月の資金調達額: 2500万USドル
6月の資金調達先:Spark Capital, Slack Fund
所在地:San Francisco, California
URL:https://www.nylas.com/

機械学習で物流を変えスマートシティを実現するWise Systems



 Wise Systemsは、デリバリールートを簡素化するための自動運送経路選定ソフトウェア。機械学習でスケジューリング、監視、ルート調整をリアルタイムで行う。

 Founder & CEOのChazz Sims氏は、「MITのMedia Labでスマートシティそして、公共・民間両方のセクターでデータを効果的に活用できる方法を考えていました。ここで、収集したデータを扱う上で多くのマニュアル作業がありました。これをテクノロジーで解決しようと考え、2014年に創業しました」と語る。

Chazz Sims
Wise Systems
Founder & CEO
Goldman Sachs、MIT Media Labに勤務後、Wise Systemsを共同設立、CEOに就任。
 
 Wise Systemsのソリューションは、運送業務を最適化したり、車両の動きを可視化したりする。現場ドライバーもオペレーションセンターの管理者もリアルタイムで動きを追うことができ、予定の経路を柔軟に変更したりできる。対象となる業種は、食品、飲料、郵便、宅配、フィールドサービスなど多岐に及ぶ。

 効率やカスタマーサービスと同時にサステナビリティを重視し、車両の走行マイル数を13%も減らし、定時配達を約80%も増やすことができた。

「コロナ禍で業務にも支障が出たが、おかげで需要が増えた面もある」とSims氏は語る。直近1年間で売上は3倍も成長した。

 現在は米国内のみで展開しているが、日本市場にも関心を示す。「当社の業務を支えて頂ける強いパートナーが必要です」とSims氏は語る。長期的なビジョンは、物流の自動化を推進するグローバル企業になることだという。

資金調達額: 2358万USドル(2020年8月現在)
6月の資金調達額:1500万USドル
6月の資金調達先:Valo Ventures, Gradient Ventures
所在地:Cambridge, Massachusetts
URL:https://www.wisesystems.com/

英国発のオンラインイベントのプラットフォームHopin



 Hopinは、世界中のどこからでも学習、交流、関係構築ができるオンラインイベントのプラットフォーム。トレーニングワークショップ、リモートワーク、大規模なデジタル会議が可能。参加可能人数は30人以上。

 Founder & CEOのJohnny Boufarhat氏は「私はコーディングのバックグラウンドからテックスタートアップの道に進みました。Hopinは2社目に成功した起業で、2019年に創業しました」と語る。

Johnny Boufarhat
Hopin
Founder & CEO
マンチェスター大学卒業後、Hopinを設立、CEOに就任。
 
 HopinはZoomなど他の会議ツールと比べ、柔軟さや奥深さがあるという。最大の特徴は会場づくりに力を入れていること。Reeception(受付)、Stage and backstage(ステージとバックステージ)、Sessions(セッション)、Networking(ネットワーキング)、Expo(展示会)など多種多様な機能を備え、開催したいイベントの特徴に合わせて設定できる。例えばワークショップを開く場合、投票、動画などの機能を利用できる。参加者のエンゲージメントを高める効果もある。

 現在は英国を中心に展開するが、日本企業にも数社クライアントを持つ。「日本進出には良いパートナーが必要」とBofarhat氏は語る。

 Hopinもコロナ禍で急拡大しているオンライン会議ツールの1つ。目標は「世界中の企業、コミュニティ、組織にとっての完全なプラットフォームになる」とBoufarhat氏は語る。



資金調達額:4684万USドル(2020年8月現在)
6月の資金調達額:4000万USドル
6月の資金調達先:Accel, Salesforce Ventures, Slack Fund
所在地:England, United Kingdom
URL:https://hopin.to/

月ごとに定額を支払う、低金利のクレジットカードUpgrade



 Upgradeは、従来の銀行よりテクノロジーを活用し、ローンやクレジットカードをオンラインで低コストで提供する。

 Co-founder & CEOのRenaud Laplanche氏は「私は2006年にLendingClubというオンラインローンの先駆けスタートアップを立ち上げ、2016年に上場させました。その後すぐに、LendingClubよりさらに広範囲の金融商品や金融サービスを手掛けたいと、Upgradeを立ち上げました」と語る。

Renaud Laplanche
Upgrade
Co-founder & CEO
Oracleで勤務後、2010年にLendingClubを共同設立、CEOに就任。LendingClubのIPO後、Upgradeを共同設立、CEOに就任。  
 
 主力商品はローンと「Upgradeカード」と呼ぶクレジットカード。Upgradeカードは無料で、500ドル~2万ドルの範囲内でローンを組める。VISAとの提携によりVISAが利用できる実店舗・オンライン店舗ならどこでも利用できる。月ごとに決められた定額を払うことで、カードローンを返済していく。「米国の家庭には、従来のクレジットカードでは返済が困難になっている層が多いのが現状です。Upgradeカードは金利を6.9%と他のクレジットカードより低く設定しています」とLaplanche氏は語る。

「今年中には、フルモバイルで無料で利用でき、リワードプログラムのある、Upgrade口座を立ち上げる予定」とLaplanche氏は語る。

「コロナ禍で顧客の中には失業した人も出てきましたが、貯蓄があるお客様が多く遅延率の上昇は見られません。ポートフォリオは良好です」とLaplanche氏は語る。現在は米国内のみで展開するが、目標はグローバル規模のネオバンクになることだという。

資金調達額:2億222万USドル(2020年8月現在)
6月の資金調達額:400万USドル
6月の資金調達先:Silicon Valley Bank, Union Square Ventures
所在地:San Francisco, California
URL:https://www.upgrade.com/

データを透明で容易な方法で保護するOpen Raven



 Open Ravenは、サイバー犯罪を防ぐクラウドネイティブのセキュリティソフトウェアを開発する。データの保存場所を発見してそれを保護し、脆弱性に関する警告を発する。プレビルドコネクターとシンプルな拡張性のあるオープンソースを提供し、データ侵害を防ぐ。

 Co-founder & CEOのDave Cole氏は「私はセキュリティ、なかでもネットワークセキュリティに20年以上携わってきました。人々がVPNから離れてデバイスを各自で保有するようになり、SaaSアプリケーションが一般的になりました。私達は全てのデータを保護対象としますが、今日デバイスの数は膨大になり、もはや全てのデバイスを保護するのは困難になりました。私達は、将来はデータ自体を保護するようになると考えています。そこで、『データを透明で容易な方法で保護しよう』というコンセプトで、2019年に創業しました」と語る。

Dave Cole
Open Raven
Co-founder & CEO
2004年よりSymantecに勤務。その後、CrowdStrikeなどでChief Product Officerを経験。2019年にOpen Ravenを共同設立、CEOに就任。  
 
 導入業種は、金融、製造、テクノロジー、ヘルステックなど。「最初は無料で提供し、品質を深く認めてもらうようにしています」とCole氏は語る。

 当面は認知を広める足がかりとしてCommunity Editionを浸透させる狙い。「フィードバックが集まるほどプラットフォームは良くなります」とCole氏は語る。コロナ禍でクラウドやDXに急激に注目が集まる一方、データ管理が不透明で疎かになるおそれがある。「長期的には追い風となる」とCole氏は考える。

 Cole氏は日本進出にも関心を示す。「日本進出には、十分な計画、良いパートナー、十分な予算が必要」と語る。


資金調達額:1900万USドル(2020年8月現在)
6月の資金調達額:1500万USドル
6月の資金調達先:Kleiner Perkins, Upfront Ventures
所在地:Los Angeles, California
URL:https://www.openraven.com/



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