【500 Startups】コロナ禍、スタートアップ投資はこう変わる

【500 Startups】コロナ禍、スタートアップ投資はこう変わる

Silicon Valley / シリコンバレーコロナショック / Accelerator / 500 Startups
2020/07/29
シリコンバレーに本社を構え、世界で最もアクティブに投資を行っているアクセラレーターの一つである500 Startups。2010年の設立以来、世界のアーリーステージのスタートアップ2400社以上に投資をし、数多くのユニコーンを輩出してきた。また多くの日本企業のLPを抱え、日本でも神戸市と「500 Startups KOBE」を開催するなど、日本企業についても造詣が深い。今回はコロナ禍で、アクセラレーターの運営や投資を適応させる方法や日本企業へのアドバイスを聞いた。

通過率1%、世界的アクセラレーターは起業家の「どこ」を見るか

―500 Startupsは世界で2400社ものアーリーステージのスタートアップに投資しています。伸びるスタートアップかどうかを、どう見極めていますか。

 総合的に判断しています。製品やサービスを差別化する技術があるか。創業者そしてチームにいい人材が揃っているか。顧客、ユーザー獲得、開発など、全ての側面において勢いがあるかなどを見ています。

 中でも、特に重視しているのは実行スピードです。物事を迅速に実行でき、プロセスの改善とテストを繰り返し、素早くローンチできる創業者とチームがいる企業は、非常に大きなアドバンテージがあります。

―実行スピードはどのように確認するのでしょう。

 アクセラレータープログラムの選考を通じて確認します。デューデリジェンス、面接など非常に厳しいプロセスがあり、ファイナリストはプログラムが始まる一週間前に現地オンサイトで行うファイナリストワークショップに参加します。これは一週間のワークショップで、参加企業がどれだけ素早くプロセスを実行し、改善を繰り返すことができるかを見ます。ファイナリストワークショップに参加した企業のうち、半数のみが翌週から始まるアクセラレータープログラムに参加できます。

 こうした選考プロセスを通じて、共同創業者同士でどのように協力し合っているか、どのようにフィードバックを取り入れて反映しているかなどを見て、成果を上げられる創業者を見極めているのです。

―アクセラレーターの応募企業は何社で、実際にプログラムに残るのは何社でしょうか。

 応募は3000社に上り、プログラムごとの参加企業は30〜35社です。通過率は約1%で、通過率3%のハーバードやスタンフォードに入るより難しいと言う人もいますね。  

Tony Wang
500 Startups
Managing Partner
UCバークレー校卒業。1999年、ハーバード大学法科大学院にてJD(Juris Doctor)取得後、国際的法律事務所Latham & Watkinsの上席弁護士を務めた。同事務所がシリコンバレーに設立したテクノロジー・プラクティス部門の初期メンバー。2005年より、Googleにて、アジア太平洋およびラテンアメリカ地域のManaging Counsel and Executive Committeeを務め、2010年からは、TwitterにてVice Presidentとしてグローバルパートナーシップを担当した。2014年より、ヘルスケア・ゲノミクスのテクノロジー系スタートアップColor GenomicsのCOOを務めた後、2019年9月に500 StartupsのManaging Partner就任。
 

ユニコーンを多数輩出した、成長支援の秘密

―御社の投資先から上場企業、ユニコーンが数多く輩出されていますね。

 当社のポートフォリオには、BtoBのSaaSで成功した企業が多くあります。例えば、クラウドベースのメール配信システムのSendGridは上場しましたし、クレジットスコア管理サービスのCredit Karmaは買収額471億ドルで最近イグジットしました。実は、当社はFinTech分野で世界一投資を行うファンドです。FinTechは、日本でも人気がある分野ですね。

 米国外の企業では、創業者がポルトガル出身で、企業価値評価が10億ドルを超えたTalkdeskや、アイルランド発の企業向けチャットツールのIntercomがあります。彼らは、シリコンバレーのアクセラレータープログラムに参加したため、シリコンバレーの企業と見られがちですが、ヨーロッパ発です。他には、オーストラリア発の、グラフィックデザインプラットフォームのCanvaは企業価値評価が30億ドルを超えました。こうした成功事例では、投資のリターンは100倍を超えています。

 他にも、AIや機械学習、IoT、不動産テック、ヘルスケアやデジタルヘルス分野など、消費者や商業向けの製品やサービスを提供する企業も当社のポートフォリオに多く含まれています。

―アーリーステージにある企業を成長させるために、御社はどういった支援をしていますか。

 主に経営面と資金調達面の支援です。私たちは様々な分野の企業を投資対象にしていますが、どの企業も同じアーリーステージにあるため、抱えている問題や解決のために必要な支援は類似しています。

 アクセラレータープログラムは創業者を対象とした“ブートキャンプ”です。シードステージにある企業が、今後6〜9ヶ月の間に直面する問題を解決するための支援をしているのです。

 そしてアーリーステージを乗り越え、事業の拡大に成功し、シリーズBまたはCの資金調達を行う段階になったら、ミドル・レイターステージに投資する投資家にリードしてもらいます。

デモデイを急遽オンライン化、投資家の参加倍増

―新型コロナウイルスの影響で、アーリーステージにある企業は資金調達に苦労しているのではないでしょうか。御社はどういった支援をしていますか。

 今は非常に特殊な時期ですね。私たちはコーチング、メンターシップ、コンテンツ、Webセミナーなどを通じて、最新情報をスタートアップに提供するようにしています。例えば、資金調達環境、困難な時期におけるリーダーシップ、現金を維持するための具体的な方法についてなどです。特に、キャッシュバーン(資金燃焼)の管理には気をつけるべきです。

 私たちが従来開催してきた対面式のデモデイには、500〜800人の投資家が集まっていました。しかし直近のデモデイは、新型コロナウイルスの影響により、急遽オンラインでライブストリーミング配信することにしました。約4週間かけて、全てのフォーマットを変更しましたが、実際に行うまではうまくいくのかわかりませんでした。


 しかし、当初参加者は800人程度予定だったところ、2倍を超える1700人以上の投資家が参加してくれました。またデモ後に行われたフォローアップ会議でも、投資家からの関心は非常に高く、創業者たちにとって効果的なイベントになりました。

 投資家はもちろん、報道機関や戦略的パートナー、顧客など、様々な方面から注目を集める。これが当社のプラットフォームの力であり、創業者に提供しているリソースの1つと言えます。特に今、全てがデジタル化している中で、本当に役立つ具体的な支援になっています。

―コロナ禍、オンライン開催でも、多くの投資家がデモデイに注目した理由は何でしょうか。

 過去10年間の実績がまず1つの理由でしょう。当社の投資先のユニコーンの数は18社で、世界一だと自負しています。それ以外に、私たちがケンタウロスと呼んでいる、時価総額1億ドル以上の企業で、まだユニコーンにはなっていない投資先企業が80社以上います。これらの実績がコロナ禍でも当社の信頼につながっているのです。

投資家が考える、コロナ禍で伸びる業界

―新型コロナウイルスの影響下にある現状において、成長が見込める業界はどこだと思いますか。

 過去1ヶ月で多くの変化がありました。従来は規制が厳しく、承認を得るまで非常に長い時間がかかっていた業界、例えばヘルスケア業界で変化が顕著です。新型コロナウイルスの感染リスクや、需要の急増による医療リソースの不足などから、突然、遠隔医療がスタンダードになりました。

 デジタルヘルスや遠隔医療分野のスタートアップは何年も前から存在していますが、遠隔医療では健康保険の適用が難しいなど、技術とは別の大きなハードルがあり、それを超えるために何年もかかっていました。しかし、メディケア・メディケイドサービスセンターが、遠隔医療サービスの範囲の拡大を発表したことで、突然道が開けたのです。今後、この業界で新しいスタートアップが生まれてくると思います。

 医師免許も、今までは州ごとに交付されていたので、遠隔医療でも、他州の医師に診てもらうことはできませんでした。しかし、新型コロナウイルスの影響で、医師不足になり、遠隔医療で他の州の医師に診てもらうことが可能になりました。

 新型コロナウイルスが終息した後、こうした制度の変更がどうなるのかはまだわかりません。「通常」に戻るかもしれませんが、現状これだけの変化を強制する要因になっています。現在のコロナ禍の状況は、イノベーションや投資の機会を開いていると言えます。

―500 Startupsにて投資家を対象にアンケート調査を行っています。どんな調査結果が出たのでしょう。

 投資家の皆さんに「新型コロナウイルスによってどのように影響を受けているか」「注目している業界や分野が変わったか」、そして「関心が高まった業界はどこか」と聞きました。

 一番はヘルスケア、二番目はリモートワークソリューション。遠隔医療はこの両方に該当します。そして、三番目は流通でした。新型コロナウイルス前は、これらの分野は動きが遅い業界でした。

―反対に、どういった産業が打撃を受けるでしょうか。

 明らかに打撃を受けているのは、旅行業、ホスピタリティ産業、イベント産業と飲食業です。しかし、例えば飲食業では、オフィスワーカーを対象にしていた飲食業は打撃を受けていますが、家庭へのデリバリー業は利用が増えていますので、どの市場を対象にしているかで状況は違います。

 新型コロナウイルスが終息し、「普通」の生活に戻った時に、何が「普通」になっているのか、興味深いですね。以前通りの「普通」かもしれませんし、変化が起きた状態が「普通」になっているかもしれません。

コロナ禍、アーリーステージのスタートアップが優位に立つ

―500 Startupsには多くの日本企業のLPがいますね。海外スタートアップが日本企業とのコラボレーションするメリットと課題について聞かせてください。

 メリットとしては、日本企業は非常に協力的でリソースも豊富ですし、長期的な活動に焦点を置いています。非常に強力で長期的な関係を築けるパートナーだということ、これはテクノロジーのイノベーションにおいて非常に重要なことです。

 一方、スタートアップとのコラボレーションはタイミングも重要です。私たちが見てきた日本企業の多くは、レイターステージのスタートアップとPoC(実証実験)やパイロットプロジェクトを行うことを希望していました。しかし、レイターステージのスタートアップの多くはすでに十分の実績を上げているので、日本企業とPoCを行う必要も、パイロットプロジェクトに参加する必要もありません。中には、ディスラクション(妨げ)に感じるスタートアップもいるでしょう。

 PoCやパイロットはアーリーステージにあるスタートアップでも行うことが可能です。多くの時間や資金を、レイターステージのスタートアップとの1回のPoCにつぎ込むのではなく、失敗することも許容しながら、安く早く対応できるアーリーステージにあるスタートアップと、例えば10回行うことも考えてはどうでしょうか。10回の内、数回でもうまくいけば大きな価値があると思います。

―日本企業はリスクを避けたがる、ということかもしれません。

 現在のように、コロナ禍で物事が非常に早く変化している状況では、アーリーステージにあるスタートアップが優位に立てます。ビジネスモデルの変更など、変化に柔軟に対応できるからです。

 例えば、当社のポートフォリオにある企業で、プライマリ・ケアと緊急治療センターを運営しているCarbon Healthは、カリフォルニアにある診療所の中で最も早く新型コロナウイルスの検査に対応しました。初期段階にあるスタートアップは、非常時に迅速に対応できる能力が高いのです。

 日本の大企業でも、チームを小規模に保つなどの方法で、迅速な対応が可能かもしれませんね。例えば、Amazonのピザ2枚ルールです。Amazonでは、ピザ2枚でちょうどよい人数にチームメンバーを抑えるルールがあります。

神戸市とのコラボレーションで、まだ見ぬ才能を発掘

―500 Startupsは日本で神戸市とアクセラレータープログラムを展開しています。ねらいは何でしょうか。

 私たちは、世界中の行政機関と連携しています。神戸市との連携もこうした取り組みの1つです。

 以前はシリコンバレーでは、テクノロジーの開発には資金が必要で、資金こそがスタートアップの制約だと考えられていました。しかし実際は資金だけでなく、企業とのパートナーシップや政策や政府との関わりも重要です。スタートアップのイノベーションは雇用を創出します。当社は多くの行政機関と協力し、イノベーションやテクノロジーの活用とアントレプレナーシップを実現する方法を提案してきました。

 神戸市とは2016年に連携をスタートさせ、これまでに日本、米国、南アフリカ、マレーシアなどの国から、70以上のスタートアップがプログラムに参加しました。そして、興味深いことに、約38%のスタートアップに、最低1人の女性創業者がいます。つまり、以前は投資対象になっていなかったかもしれない、「才能」にも接触できているということです。これは、素晴らしいことです。

編集部からのお知らせ:新型コロナ禍で注目される米国スタートアップ106社の概要をまとめたレポートを無償提供しています。こちらからお問い合わせください。

特集:シリコンバレーコロナショック

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