味、機能性、栄養価は一緒 酵母由来の「卵」
――貴社の提供する製品について詳細を教えてください。
The EVERY Companyは、動物由来ではないプロテインを開発・製造するプラットフォームです。動物由来の素材を一切使わず、味や機能性、栄養価を同等に維持します。私たちは醸造及び発酵技術を活用してこのようなプロテインの製造を可能にしています。世界がアニマルフリーのプロテインへ移行していく動きを加速させることが私たちのミッションです。
――起業のきっかけはなんでしたか?
起業する前、私は米農務省の食品安全検査局(FSIS)政府機関で働いていました。動物性プロテインの製造は、膨大な水、土地、エネルギーを消費します。また、屠殺される動物の多さや密室での飼育などの問題もあり、私はもっと良いやり方がきっとあるはずと信じていました。
また、個人的にも、あらゆる人が自分の価値観に合った食生活を送ってほしいという考えがありました。私は、その問題に大きく動かされ、みんなが好んで食べる動物性食品をテクノロジーを使い、環境に負荷を与えない方法で製造できないか模索し始めました。
もう1人の共同創業者とは、フードテック系のカンファレンスで知り合いました。彼は乳製品を研究する科学者でした。彼と私は、テクノロジーを使って飲食業界を改革したいという同じ信念を持っていました。そこで2人で、最もシンプルで普遍的な食材である卵から始めようと決意し、創業に至ったのがきっかけです。
食べたいものを食べ、環境負荷も減らす
――どうしてこのような製品が必要とされるのでしょうか。見解を教えてください。
1ダース(12個)の卵を作るのに、約2400リットルの水を消費するのをご存知ですか?これは異常です。どうせ食べてしまうのに、そんなに水を使うなんて考えられるでしょうか。卵に関わらず他の畜産業がどれほど破壊的かを目の当たりにし、私は非常に打ちひしがれました。中でも卵はまだ持続可能な方だと言われますが、それでも環境負荷は計り知れません。
森林破壊の最も大きな要因の一つは畜産業です。家畜の飼料となる大豆栽培の農地を得るのに熱帯雨林が破壊されています。つまり、動物性プロテインを得るために、植物性のプロテインを作り消費するという非常に効率の悪いシステムが出来上がっているのです。
同時に私は、人々が何を食べるべきか説教する気はありません。卵は美味しいですし、食べたいと思うことに罪悪感を感じる必要はないと思っています。さまざまな料理で使われる重要な食材でもあります。ですので、どのようにして今の味や機能性を維持しながら、より持続可能なものへと転換を図るかという点が問題になります。
Image: The EVERY Company
AB InBevと戦略的提携で生産拡大へ
――開発の裏側について教えてください。どのような点が課題でしたか?
The EVERY Companyは動物由来ではないプロテイン製造のプラットフォーム企業です。醸造業者は糖に酵母を加えてワインやビールといったお酒をつくります。ベーカリーは酵母を使ってパンを作ります。私たちは酵母と糖でプロテインをつくります。例えば、酵母菌のDNAを少し組み替えて、従来の酵母由来のプロテインではなく、別の特殊なプロテインを製造できるようにしたりできます。自然界にはさまざまな種類の酵母が存在しているので、どのような物が出来上がるか結果は使う酵母によります。
私たちは、DNAを3Dプリントし、コンピュータ技術の基盤である二進法の代わりにDNAを構成するATCG塩基を使います。塩基の並び順によって得る結果は異なりますが、私たちは3Dプリントした塩基の並び順を基に酵母のDNAを組み替えます。そうすると、私たちがいわばプログラミングしたプロテインを酵母が作ってくれるようになります。どのプロテインにも対応可能で、非常に効率的になるよう開発に工夫をしました。
Image: The EVERY Company
難しい点は、技術の開発ではなくこの技術をいかにしてコストを抑え、生産拡大するかという点です。これは私たちの会社のみならずどの代替食企業でも突き当たる問題です。有名なImpossible Foods社や、Beyond Meat社なども、2社の合計でもシェアは精肉業界の1%にも満たないでしょう。この業界は生産量がものをいう業界です。
だからこそ私たちは、大量生産を実現するため、ベルギーに本拠を置く世界的な醸造業者、酒類メーカーであるAB InBevと戦略的提携を行いました。私たちのような製品を開発する企業と酒類メーカーとの提携は、私の知る限り世界初です。AB InBevは、コロナビールやバドライトなど著名なブランドを抱え、世界でも大規模な醸造拠点を持ち各国に展開している国際企業です。このような提携のおかげで、私たちのような企業は酵母を使い、より迅速に、生産を拡大することが可能になります。
「どこでも、誰でも」を世界中に 粉末製品でさまざまな食品へ応用可能
――2014年の創業からここまでの道のりを振り返っていかがでしたか。
私は自分の取り組んでいることや、世界がこのような製品を必要としているということに、非常に強い思い入れがあります。世界を変えるにはテクノロジーが絶対に必要です。これは大変個人的な思いでもありますが、生半可にやっているわけではありません。ただ、嬉しい瞬間は非常に嬉しく、うまくいかない瞬間はどん底に落ちるので高低差が激しく、両極端なことが1日ないし1時間以内のスパンで起きることがあります。創業者であることのストレスは、困難に感じる瞬間はありますし、場合によってはそれが周りにいる人にも伝染します。感情的になるが故に、辛いと思う瞬間は避けられません。
対して、2021年11月に製品をやっとローンチした際は、大きな達成感を感じました。非常に嬉しい瞬間の1つでもありました。約6年間かけて開発したものを市場に展開し、家族や友人、投資家など多くの人々に見守られました。一般の消費者が私たちの製品を手に取り、味わってくれる嬉しさや、反応を見るのは感慨深いものでした。
また、会社自体もリブランディングを経ています。長らく、よりユニバーサルでパワフルなストーリーを語ることのできるブランドを立ち上げたいと思っていたので、どこでも(Everywhere)、誰でも(Everyone)、手軽な価格で利用できるよう、「EVERY」というブランドを作りました。これも振り返ると非常に重要な瞬間だったと思います。
――2021年12月にはシリーズCで1億7500万ドル(約200億円)の資金調達に成功しました。資金の使い道や、今後の目標を教えてください。
私たちは既に2種類の製品をローンチしています(取材時点。2022年3月に非動物由来の卵白「EVERY EggWhite」をローンチし計3種類に)。酵素プラットフォームである非動物由来の「Pepsin」という粉末と、「ClearEgg」という溶解性の高い粉末プロテインです。次の2年間でこれらの生産量を増やしていく予定です。実際に私たちの製品が従来の動物由来の卵の代わりとなる証明をしていきたいと思います。まずは米国から、これらの製品が実際に一般食品に応用されるようにし、随時、他の国でもローンチできるように計画しています。
2022年に限っていうと、より多くのプロダクトアプリケーションを進めていくことが目標です。AB InBevとの提携もあり、今後様々な食品に当社の素材が応用され、米国中で販売されていきます。より広く展開し、売れ行きの分析などを行いながら、大量生産に向けて準備をしていきます。