image: Mascha Tace/ Shutterstock
スリープテック(Sleeptech)は、睡眠の質を向上させるためのテクノロジーを活用した分野で、近年急速に発展を遂げている。温度調節や光制御、音響制御などさまざまなアプローチでこの分野に挑むスタートアップが登場しており、それぞれ独自の方法で「眠り」の課題解決に取り組む。日本の社会課題でもある「睡眠負債」。テクノロジーを活用した課題解決のアプローチを見ていこう。

※TECHBLITZでは、スリープテック関連の国内外のスタートアップを独自に調査。記事後半では、中でも注目の5社を紹介します。

スリープテックとは:
「Sleep(睡眠)」と「Technology(技術)」を掛け合わせた造語で、IoT技術やAIなどのデジタル技術を活用して睡眠の質を科学的に分析し、睡眠改善するための製品やサービスを指す。主なアプローチとして、マットレスやエアコンと連動して最適な睡眠環境をつくる「温度調節」、入眠や起床をサポートする照明システムを利用した「光制御」、睡眠を促進する音楽や、いびき音軽減のためのマスキング音を使用する「音響制御」、睡眠の深さに応じてベッドの確度を自動調整する「体位制御」などがある。

<目次>
スリープテック:睡眠環境の最適化
スリープテック:音響技術の活用
スリープテック:データ分析と可視化
スリープテック:日本企業の取り組み
TECHBLITZが選ぶ、スリープテック関連スタートアップ5選

\スリープテックの海外スタートアップ5選/

スリープテック:睡眠環境の最適化

 スリープテックの現状をアプローチ別に見ていくと、やはり睡眠と切っても切り離せないベッドに関連したテクノロジー。「温度調節」や「体位制御」などのアプローチが用いられており、著名VCからの出資を受けて高い評価額をつけるスタートアップも登場している。

Eight Sleep(エイト・スリープ)

 例えば、Kosla VenturesやFounders Fundから出資を受け、高い評価額を付けているスタートアップのEight Sleepが開発したベッドマットレスは、入眠から覚醒までをトータルでサポート。高価格ながらも人気を博している。

 温度調整機能を備えたマットレスは、就寝時には温度を温かく保つことで入眠をサポートし、起床時刻が近づくと温度を少しずつ下げるとともに、胸元のバイブレーションで自然な目覚めを促す。もちろん、呼吸や心拍数などの生体データを取得することもでき、AIがこれらを継続的に学習することで温度調整を最適化。いずれの機能もマットレスの左右で個別に機能するため、一台でカップルでの利用に対応している点も人気の理由だ。

Bryte(ブライト)

 また、米国では高級ホテル「Park Hyatt New York」が、シリコンバレー発のスタートアップ、Bryteのスマートベッド「Bryte Balance」を導入したスイートルームを提供している。

   この製品は、マットレスに内蔵されたシステムが沈み方を自動調整し、常に快適な圧力が保たれるもの。眠っている間に目が覚めてしまうケースが減り、起床時に感じる回復度合いが高まる効果があるという。

image: Eight Sleep

スリープテック:音響技術の活用

 音を使って睡眠を改善するアプローチも注目されている。

Endel(エンデル)

 ドイツのベルリンに拠点を置くEndelは、個人の状態やシチュエーションに合わせてパーソナライズ化された音響環境を創出する「癒しのための音楽アプリ」を開発している。

 神経科学と概日リズム (体内時計) に関する科学的知見に基づき開発されたアルゴリズムによって、ロケーションや天候、時間帯、心拍数 (スマートウォッチで取得)などの内部条件、外部条件を基にリアルタイムで「リラックス」「スリープ」「リカバリー」など複数の種類の音響を生み出す。

スリープテック:データ分析と可視化

 多くのスリープテックスタートアップは、睡眠データの収集と分析にも焦点を当てている。

Asleep(エイスリープ)

 韓国のAsleepは睡眠時無呼吸症候群の診断アプリを開発。アプリを使って家庭で同症候群の診断ができるアプリで、アプリが診断補助の医療機器として韓国当局から承認を得た珍しい事例。同症候群を診断するためには、専門クリニックなどに長時間滞在する必要があったが、このアプリを利用すれば20分以上の睡眠データがあれば診断が可能になるという。

EarlySense(アーリーセンス)

 イスラエルのEarlySenseは、非接触で心拍や呼吸数、体動や睡眠状態、病状をモニタリングするデータ技術の開発。マットレスの下に設置する非接触型ヘルスモニタリングデバイスを製造、主に病院やケアセンターなどへ提供している。

 同社製品の特徴はバイオテクノロジーとセンサー技術を融合している点。「身体の動き」「肺の膨らみ」「心拍」の物理的な振動を電気化し、三つの信号に変換する最適な検知を可能にする仕組み作りに成功。それにより心拍数や呼吸数が一定基準を超えたり、患者の不在が一定時間を越えた場合は、緊急事態を伝えてくれる。

スリープテック:日本企業の取り組み

 日本の大手企業のスリープテックに関する取り組みとして、カプセルホテル運営のナインアワーズと、NTTデータが協業した「ナインアワーズ品川駅スリープラボ」が2024年8月に開業した。

 全70床のすべてのカプセルユニット内に実装しているセンサーから睡眠中のデータを収集・解析を行い、利用者は後日発行される「睡眠レポート」により、心拍数やいびき、無呼吸になった回数・時間といった自身の睡眠状態を知ることができるという。

 睡眠時に器具を装着する必要はなく、カプセルで就寝するだけで気軽に自身の睡眠状態を知ることができる。試験的に導入する体内リズムの可視化をするセンサーでは睡眠時の深部体温の変動から体内リズムを測定することで、生活リズムとのずれを把握することを目指しており、将来的には体内リズムを適切に保つアプリケーションサービスの提供を検討している。

image: NTTデータ

TECHBLITZ編集部が選ぶ、スリープテック関連スタートアップ5選

 TECHBLITZ編集部が選ぶ、スリープテック関連のスタートアップ5社はこちら。

1. Sana Health

Sana Health
痛み緩和と睡眠改善をオンデマンドで実現
設立年 2015年
所在地 米国 コロラド州 ルイスビル
 Sana Healthは、ユーザーをリラックス状態に導き、慢性的な痛みや不眠症の症状を緩和するアイマスク型の医療デバイスを提供。同デバイスは薬に頼らず、光と音による脳への刺激のみで痛みと不眠の症状を緩和できる。
image: Sana Health

2. Sleepiz

Sleepiz
人体に触れずに睡眠状態を計測するデバイス
設立年 2018年
所在地 スイス チューリッヒ
 Sleepizは、体の傍に置くだけで睡眠状態を計るデバイス機器を提供。同製品は、心臓の収縮や呼吸パターンを数日間計測し、それらの疾患の可能性をアルゴリズムで予測。医師の管理画面と連携が可能で、利用者がボタンを押して機器を作動させると、医師は結果を遠隔で受け取れる。数日間で、AIによる長期的な睡眠傾向の予測が可能で、より速く、簡単に病気の予兆を把握できる。
image: Sleepiz

3. Sunrise

Sunrise
顎に装着するパッチ式の小型睡眠計測器
設立年 2015年
所在地 ベルギー ブリュッセル
 Sunriseは、自宅で簡単に睡眠無呼吸症候群の診断ができる検査キットおよび解析アプリを提供。3gのワイヤレス / 顎装着タイプのパッチ式小型睡眠計測センサーを活用し自宅での検査を実現。同製品は、下顎で起きる呼吸筋の収縮の動きを察知し、夜間の睡眠中に上気道の開きを管理する脳シグナルの分析を行う。既に約400名の患者による臨床試験を実施済み。
image: Sunrise

4. Eight Sleep

Eight Sleep
自動温度調整で快眠を促すスマートベッド
設立年 2014年
所在地 米国 ニューヨーク州 ニューヨーク
 Eight Sleepは、温度の自動調整、生体データの追跡とコーチング機能を備えた、快眠を促すスマートマットレスを提供。高品質メモリーフォームのマットレスが睡眠中の体を支えるとともに、マットレスに付属するウォータータンク (Hub) 内の水温を変化させ、温度調整を行う。
image: Eight Sleep

5. Ultrahuman

Ultrahuman
ウェアラブル×スマートホームデバイスで健康を促進
設立年 2019年
所在地 インド バンガロール
 Ultrahumanは、睡眠、運動、疲労回復まで、健康関連指標をモニタリングし、健康維持 / 改善のための推奨を提供するウェアラブルリング「Ring AIR」と、グルコースのモニタリングツール「M1」を提供。2024年1月に開催されたCESで、スマートホームテクノロジーと組み合わせて使用することのできる家庭用の健康モニタリングデバイス「Ultrahuman Home」を発表。
image: Ultrahuman

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