※本記事は「CYBERTECH TOKYO 2019」の登壇コンテンツをもとに構成しました。
編集部からのお知らせ:本記事の内容も含め、イスラエルスタートアップやそのエコシステム関連情報をひとつにまとめたレポート「Israel Startup Ecosystem Report」を無償提供しています。こちらからお問い合わせください。
「スケールアップ大国」イスラエル
最初にイスラエルについてご紹介します。イスラエルは、1948年に建国され今年で71年を迎える民主主義国家です。建国によって170カ国からユダヤ民族が移り住み、イスラエルではヘブライ語とアラビア語が使われています。人口は約900万人で、1人あたりGDPは42,000ドル、GDP成長率は約3.3%です。失業率は下がり続けており、現在は3.7%を下回っています。
この、非常に安定し成長を続けるイスラエル経済は、スタートアップにより成り立っています。イスラエルでは、スタートアップの開業数が年1000社を超え、これは、8時間毎に新しいスタートアップが生まれ、1350人あたり1社のスタートアップが存在している計算になります。イスラエルはスタートアップの密度が世界で最も高い国です。そして、様々な分野でイノベーションのグローバルリーダーになっています。
多くの世界的ビジネスリーダーたちが、新しい技術や世界の動きを探るため、そして、自社の事業や開発技術に取り込める次なる破壊的な技術を求めイスラエルを訪れます。彼らにとって、イスラエルは重要なイノベーションハブであり、これまでに多くのイスラエルのスタートアップが世界中の多国籍企業からの投資を受け、また、買収されています。
フラッシュドライブメモリ(USBメモリ)の基礎技術を開発したM-Systems。これもイスラエルの企業です。
世界的ビジネスリーダーに認められた「イスラエルテクノロジー」は様々な分野に及び、その多くは、買収された後もイスラエルに留まりR&Dセンターとして機能します。現在までに約400社の著名な多国籍企業がイスラエルにR&Dセンターを開設しています。例えば、Intelは、イスラエルに生産拠点とR&Dセンターがあり、同社の次世代チップのほとんどがイスラエルで開発・生産されています。
多くの日本企業もイスラエルに拠点を設けています。ソニーや楽天はR&Dセンターをイスラエルに開設し、タケダはイスラエルに拠点を置くバイオテクノロジー・インキュベーターのメンバーです。日本の大手総合商社6社、三井物産、伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、豊田通商そして住友商事がイスラエルに事務所を開設しました。他にも、連絡事務所を設けている日本企業が多くいます。また、同様にイスラエルのスタートアップが、日本に事務所を開設する数も増えています。
Shuttersotck.com/Mirage_studio
イスラエルは、ユニコーン企業も多く生み出しています。例えば、AIを活用した企業向けサイバー攻撃対策プラットフォームを提供するCybereasonは、イスラエル発スタートアップで、SoftBankから投資を受けたユニコーン企業です。イスラエル発のユニコーンや世界的なテクノロジーリーダーは、本日お見せしている資料には載りきれないほど多くあります。さらに、次世代を担うイスラエル発の企業価値5億ドルの企業が続々生まれています。
イスラエルはリスク許容度が非常に大きく、失敗に対しても寛容です。このイスラエルに特有な文化が、スタートアップの発展を後押しし、今やイスラエルは「スタートアップ大国」ではありません。「スケールアップ大国」です。
イスラエルは、国がアクセラレーター的役割を担っている、と言われますが、実際にはイスラエル政府、産業界や教育機関・研究機関に加え、資金源となるVC、そしてイスラエルにいる多国籍企業が共同するダイナミックなビジネスコミュニティが、様々な分野のスタートアップを対象に、その成長を加速させる「仕掛け」を提供しています。
イスラエルと日本のビジネス関係はより強固に
イスラエルと日本のビジネス関係は、2014年を節目に大きく進展しました。イスラエル政府と日本政府の関係は大幅に強化され、両国の首相を筆頭に、経済産業大臣などの政府高官がお互いの国を頻繁に行き来しています。そして、現在は、サイバーセキュリティなど、様々な分野において8つのプロジェクトを実施しています。
例えば、日本の経済産業省(METI)とイスラエル経済省(MOE)が産業分野での協力を支援し強化する協定を締結し、日本・イスラエル共同R&Dプログラムが立ち上がりました。2015年度より、日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と、イスラエル産業技術研究開発センター(MATIMOP)が実施機関となり、政府資金援助の提供などを行う研究開発協力事業を開始し、実施者を一般から募集しています。2020年度にも公募があると思いますので、ご興味があればぜひ参加を検討してください。
Shuttersotck.com/The World in HDR
他にも、政府、独立行政法人、経済団体等全ての主要プレーヤーが参加するJIIN(Japan Israel Innovation Network)の設立など、様々な取り組みが進んでいます。JIINには経団連、新経団連や日本貿易振興機構(JETRO)も参加しています。
こうした取り組みに後押しされ、二国間貿易では2018年のイスラエルの日本向け輸出が40%増、貿易額にして約11億3,000万ドル(対日輸出)になりました。日本からイスラエルへの投資は大幅に増加し、70億ドルを超えました。2018年の投資数は34件で、2019年の投資件数は上半期のみで2018年を超える35件でした。最終的に2019年の投資件数は、2018年の2倍になるのではないかと期待しています。
私たちは、イスラエルと日本企業のジョイントベンチャーが増えていることを非常に嬉しく感じています。
戦略的にお互いを完成させる関係
2018年までに行われた、日本企業のイスラエル企業への投資事例をいくつかご紹介しましょう。
一つ目は、キヤノンに買収され完全子会社化された、映像要約技術を用いた映像解析ソフトウェア開発および販売を行うBriefCam社の例です。BriefCamは買収後も体制を変えることなく同社の経営陣によるリーダーシップの下に開発を続けながら、キャノンの販売網を活用しています。
二つ目は、イスラエルに生産拠点を持つTDKと、リチウムイオン電池の急速充電技術を得意とするStoreDot社の例です。TDKはStoreDotの急速充電技術を早期に商業化することを目指し、共同開発契約を結び出資を行いました。
三つ目は、田辺三菱製薬によるNeuroDerm社への大規模投資です。NeuroDermは、パーキンソン病の治療薬に関し、新たな製剤研究や医薬品と医療器具を組み合わせる優れた研究開発力を有する医薬品企業です。田辺三菱製薬は、約11億ドルで同社を買収し完全子会社化し、神経疾患研究を行うR&Dセンターをイスラエル国内に開設しました。NeuroDermを中心に、パーキンソン病や、その他神経疾患用の治療薬の開発に取り組んでいます。
今ご紹介した事例は「氷山の一角」でしかありません。日本で特に注目されている、自動車産業におけるコネクテッドカー技術、サイバーセキュリティ技術や医療やヘルスケア技術だけでなく、FinTech、AgriTech、建設分野、ブロックチェーン、水技術、食品技術、IoTやVR・ARなど、イスラエルと日本が連携できる分野は非常に多くあります。
日本とイスラエルが、お互いをビジネスパートナーとして認め合うようになってから、5年しか経っていませんが、真の相乗効果を生み出す時期に来ています。イスラエルはゼロから何かを生み出すことに優れていると言われ、日本は1を100に育てることに優れていると言われています。イスラエルの企業は日本企業に競合せず、お互いを補完し合えます。
Shuttersotck.com/Aritra Deb
真逆の文化を持つ両国だが、絆となる共通点がある
イスラエルがなぜ革新的なのか。それはイスラエルにとって、イノベーションは「Necessity is the mother of invention.(必要は発明の母)」だからだと私は考えています。10年ほど前に天然ガスを発見するまで、イスラエルには天然資源がなく、エネルギー資源を開発する必要がありました。
そして、周辺諸国との関係性から、イスラエルではセキュリティは重要であり必要です。数々の課題を乗り越えるためには技術開発が必須でした。イスラエルは国内市場が小さいため、国外で登記するスタートアップも多く、設立当初から国際市場を目指します。
ある意味「極端」とも言える独自文化を持つイスラエルと、それとは別の意味で「極端」な文化がある日本には、全く接点がないように見えますし、実際にイスラエルと日本の協働において、物事が全て「バラ色」とはいきません。
しかし、イスラエルと日本は実は価値観に共通点があります。二国間のジョイントベンチャーに参加している方々が、「One Family」になっているような感覚がある、と言っていました。イスラエル人は個人より会社を優先し、チームのために尽くします。新しいテクノロジーを創ることに刺激を受け、「ワクワク」のために働くのです。イスラエル企業と共同している日本の方々も、イスラエル人の仕事へのコミットメントは、日本人のものと似ているとおっしゃっていましたが、私たちもそう感じています。
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※(2020/6/19訂正)本文中、事実に即していない記述があり、一部修正させていただきました。