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日本とシリコンバレーでの投資活動を経て、現在はイスラエルで三井物産と現地投資家が出資するベンチャーキャピタルMagenta Venture Partnersでスタートアップ投資を行う竹内寛氏。新型コロナウィルス感染症の影響を含めた現在のイスラエルスタートアップ状況、日本企業が進出する際のポイントや注意点、協業のコツまで幅広く語ってもらった。

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竹内 寛 Dave Takeuchi
Magenta Venture Partners
Managing General Partner
三井物産(株)コーポレートディベロップメント本部 企業投資部所属。2004年、同社VC子会社(Mitsui & Co. Venture Partners) 米シリコンバレー拠点立ち上げのため渡米し、現地で米スタートアップ投資業務に従事。2009年に日本帰国後、三井物産の複数部門で自動車・IoT分野の米スタートアップ投資と日本での事業開発に従事。同社経営企画部イノベーション推進室で、全社イノベーション推進体制の企画・推進。2018年10月、Magenta Venture Partners設立、Managing General Partnerに就任。現在イスラエルに駐在し、同国スタートアップへの投資業務に従事。早稲田大学大学院理工学研究科卒(修士)。ソフトウェア工学専門。dave@magenta.vc

スタートアップ大国イスラエル、起業が盛んな3つの理由

 Magenta Venture Partners(以下マジェンタ)は、三井物産とイスラエルの投資家2人の対等合弁形式で設立された、イスラエルに特化したベンチャーキャピタルです。いわゆるCVCでなく、投資収益を目的に運営されています。

 投資対象分野はライフサイエンスを除くハイテク全般、シードからシリーズAぐらいまでのアーリーステージの企業を対象とし、投資先は現在9社。投資後は原則として投資先の社外取締役に就任し、投資先の経営にしっかり関与しています。

Image: Magenta Venture Partners

 イスラエルで起業が盛んな理由は、大きく3つあります。1つ目が、建国78年の若い国で、リスクテイクをよしとする文化。

 2つ目が、周囲を敵対国に囲まれており、数の劣勢を挽回するために技術開発の必要に迫られているという軍事的背景。技術開発に従事した人が、その技術をもとに起業する動きが盛んです。

 3つ目が、大学・団体・政府機関などイノベーションエコシステムの主要プレイヤーの拠点が車で1時間程度の距離に集まっており、シリコンバレーのようなクラスターが形成されているという地理的要因です。

Image: Magenta Venture Partners

 人口900万人の小さな国ですが、スタートアップへの年間投資金額はアメリカ、中国、イギリスに次ぐ世界4位。国民1人あたりで換算すると断トツで世界1位であり、ほかにも「国民1人あたりのスタートアップ数」「労働者1000人あたりの研究者数」「GDP比R&D支出率」「GDP比スタートアップ投資金額」などで世界1位です。

 人材・キャリアの観点では、シリコンバレーが世界からタレントを引き寄せてグローバルな人材プールを擁しているのに対し、イスラエルではイスラエル人ローカル中心に構成されている点が特徴です。

 また、軍の研究機関出身者の存在が大きく、キャリア形成面ではスタートアップやハイテク企業間で転職を繰り返す形式が一般的です。ちなみに、マジェンタの投資先9社のうち7社のCEOは、過去に別のスタートアップでのCEO経験があります。ユニコーン企業を創業して成功した経営者が次の会社を興すケースも多く、我々もそういった企業を狙っています。

 イスラエルのイノベーションエコシステムは、同国特有の事情、たとえば移民国家であることや、国民皆兵制・国防上の必要性、そしてエコシステムの開放性・海外とのつながりなどによって形成されています。日本が学ぶべき点は、多様性の確保や受容性、議論を尽くす姿勢、目的合理的な思考とリスク/リターンのバランス感覚、そしてグローバルな目線などです。

 新型コロナウィルス感染症による影響については、経済全体に占めるハイテク産業の割合が高いため、OECD諸国の平均と比べるとGDPへの影響は比較的軽微なものでした。逆に、リモート販売率の高まりによって地理的不利がある程度克服されたほか、欧米へ拠点を移すことが多かったイスラエルのスタートアップの中で国内に留まる動きが一部ある等、プラスの面も見られます。

 政府は国内のハイテク就労者数率を現在の9.8%から15%ぐらいまで増やそうとしていますが、この政策にコロナが追い風になっている側面もあります。

成熟化・良質化するイスラエルのスタートアップ環境

 世界の流れと同様にスタートアップへの投資金額は年々増えており、イスラエルでもサイバーセキュリティやAIを中心に、幅広い分野で投資がされています。

 ただし、アーリーステージへの投資はそれほど増えておらず、メガラウンドの投資が激増し、全体の投資額を押し上げています。2020年の合計投資額は114億ドルでしたが、今年上半期だけで122億ドルに達し、その大半がメガラウンドなのです。

Image: Magenta Venture Partners

 メガラウンドの増加は、多くのユニコーン企業を生み出すことにつながっています。今年上半期のユニコーン設立数は、アメリカが139社、イスラエルは24社で世界第2位に。増加ペースも急ピッチであり、2016年は4社、2020年16社、今年は上半期だけで24社と大きく加速しています。

 投資のエグジット環境にも変化があります。イスラエルでのエグジットの大半はM&Aでしたが、昨年からIPOがぐっと増え、今年上半期に逆転。金額や件数も、昨年1年間で16億ドル・20件だったものが、今年上半期だけで84億ドル・48件に。件数ベースでは地元のテルアビブ証取に上場したスモールキャップが中心で、金額ベースでは米国への上場が中心。米国での上場は半数がSPAC(特別買収目的会社)ベースですが、売上が100万ドルに満たない企業に10億ドルの時価総額がつくなど、強い成長期待に支えられていることが分かります。

 なお、投資資金の出所としてはイスラエル国内とアメリカからの投資が突出して多く、日本は7位。もう少し存在感があってもいいかな、とは思います。

Image: Magenta Venture Partners

 そのほかのトレンドとしては、「創業数・廃業数は2014年をピークに減少傾向」「レイター案件が大幅増の一方で、シード案件の伸びが停滞」「多国籍企業の拠点新設が一段落(昨年は4件)」「人材不足による人材争奪戦の激化」「直近3ヶ月のスタートアップM&Aの半数が、イスラエル企業による買収(通常はアメリカ中心に海外企業によるM&A中心)」などが挙げられます。

 イスラエルにも地場のユニコーン企業や上場企業が増えてきており、「起業せずに大手に勤める」という選択肢がエンジニアの間でも増えてきている傾向があります。一方で、政府はシード案件を増やすためのプログラムを考えているところです。

 こうしたことから、イスラエルのスタートアップ状況は総じて成熟化傾向であり、また案件は全体的に良質化が進んできているといえます。

Image: Magenta Venture Partners

スタートアップ協業に際しては、事前準備・意思を固めることが重要

 次に、実際のイスラエルへの進出や事業開発のポイントについて、目的・戦略、能力・資源、価値・強み、の3つに分けて順にお話しします。

 まず目的・戦略です。この仕事を長く続けてきて思うのは、「スタートアップとの取り組みは、経営戦略・事業戦略・R&D戦略・製品企画・マーケティング戦略そのもの」だということ。

Image: Magenta Venture Partners

 従って、イスラエルでの取り組みの成否のカギは、日本側の準備にかかっているといえます。後で変わっても良いので、取り組む案件の分野・規模・ステージ、そして割けるリソースや予算と戦略性をある程度考えたうえで、スタートアップにアプローチするのが有効だと思います。目的や戦略が語れて、初めてスタート地点に立てる感覚があります。実際に、スタートアップとの面談時に相手から「日本企業側としてやりたいこと」の意思を問われ、日本側が説明に苦労する様子は何度も目にしてきました。

 昔から「日本企業は意思決定が遅い」と言われますが、私は必ずしもそうは思いません。もし遅いのであれば、それは日本側の準備不足によるものが多いと思います。「アーリーステージのスタートアップとの付き合いはリスクが高いので、手がけるべきなのか議論がいる」「既存事業と被っている」「事業計画に入っていないのでできない」等、良く聞く問題点ですが、いずれもスタートアップとの取り組み開始前に、事前に整理して考えておけることだと思います。

腹を割った話し合いはヘブライ語。ローカル色はかなり強い

 次に能力・資源です。英語は通じても、腹を割ったコミュニケーションはヘブライ語で行われる等、シリコンバレーよりもローカル色がかなり強いため、現地人材との協業は必須だと思います。

Image: Magenta Venture Partners

 さらに、外国人はビザの関係で5年までしか滞在できませんので、日本人の駐在員はいずれ帰国することになります。イスラエルのローカル人材のネットワークや信頼関係と、日本の組織力とを組み合わせて戦う方法が良いのではと思います。考えるべきは、いかに優秀なイスライエル人を採用し、つなぎ止め、日本の戦略を共有して活躍してもらうかです。

 よく「エコシステムのインナーサークルに入るには」という議論があります。早耳情報や超アーリーステージ案件の獲得を見込んでいるのでしょうが、そうした情報・案件を取ること以上に、その情報を自社が活用できるのか、そしてスタートアップ側から見て合理的な判断として自社を選んでもらえるのか、という点に力を入れる必要があると思います。

 仮にインナーサークルというものが存在し、日本人としてそこに入ったとしても、5年後には帰国となり、次の人がゼロから始めることになります。それよりも、しっかりしたローカル人材を採用し、本社をしっかり巻き込んで組織としての提案力を磨き、国をまたいだプロジェクトマネジメントを機能させる人材を育てて仕組みをつくり、さらにその仕組みを継続させていくことが大事だと考えます。

スタートアップに提供出来る価値を意識

 最後に価値・強みです。GAFAを筆頭に世界有数の自動車メーカーや金融機関等、イスラエルには400社以上の多国籍企業が進出しています。優れたスタートアップは大手からすぐ声がかかる状況の中、スタートアップから自社を選んで貰える、リソースを割いてもらえる存在になることが重要です。

Image: Magenta Venture Partners

 ただし、アーリーステージの企業は技術開発・製品開発でのリスクも高い。PoCや共同開発などで関係を構築しつつもフルコミットはせずに、製品・開発を完成できるかを冷静に見極めるというリスク管理も並行させることが必要です。

 一方で、イスラエルのスタートアップがグローバル企業側に求めるものは、PoC機会や事業機会の提供といった具体的案件の持ち込みや、製品開発に向けた各種アドバイスと実行支援、特に開発に必要な資金及び開発リソースの提供です。

 イスラエルは非常に小国であり、スタートアップは最初からグローバル市場をターゲットに事業を興します。市場の攻め筋や市場ニーズを踏まえた製品機能の提案は非常に歓迎されますし、対等なパートナーとして長期的なWin-Win関係を意識した対応をスタートアップ側は期待しています。

 イスラエル人は克己心や自立心が強く、投資をしたからといって日本企業側の言うことを聞くとは限りません。「言うことを聞かせよう」ではなく、スタートアップの理念に共感し、スタートアップ側と大企業側の目指す方向や目線を合わせ、共に事業をつくり上げていく姿勢が大事です。

ローカルのパートナーには、業界水準の報酬を設定

 ここからは、事前に頂いた質問に沿ってお話ししていきます。まず、スタートアップの取り組みに対する社内体制についてお話しします。

 案件探索にあたっては、事前に投資や協業の意思決定の方法や、実際の取り組みが可能なスタートアップの領域とステージ等の個別案件の性質を、社内で事前定義することが有効です。すなわち、実際に手がけられる案件(案件のステージや分野、内容)はどういうものかをわかった上で、それに合う会社を探していくということです。また、いったん決めた方針も、取り組み開始後に思い通りに進まないことも多く、柔軟に修正を行える体制も必要だと思います。

 日本側のキャッチャーについては、なるべくメンバーを固定した少人数にし、社内横断的な目線と経営層への報告・相談ルートを確保して連携することが大事です。ただし、彼らはあくまで優秀な事務局であり、実際に案件を形成して取り組んでいくのは事業部門の責任者の方々ですから、事業の推進力を事務局頼みにせず、事業責任者を中心に組織として推進力を確保していくことが必要です。

 次は出資先選定基準・投資意思決定プロセス・メンバーの報酬体系についてです。マジェンタは投資リターンを目的としたVCのため、戦略目的で投資を考える企業とはプロセスが異なると思いますが、ご参考までお知らせします。当社の出資先選定基準は、原則「投資した金額の10倍のリターンを狙える投資案件」としており、投資の意思決定はパートナー4名の全会一致をもって行っています。

 報酬体系は――我々日本人はサラリーマンですが――イスラエル人パートナー2名については、成功報酬ベースの通常のVCパートナーの慣例を踏襲しています。VC業務に限らず、現地で組織を立ち上げてパートナーを探す際は、あらかじめ決まっている予算に見合った人を探すのではなく、まずはやるべきことを決め、それに必要な人材像を定め、現地でそのような人材の雇用に必要な給与水準を調べて待遇を決める、という順で考えることが大事です。

 続いて、スタートアップを評価するうえでのポイントについて。出資目的によって評価ポイントは異なると思いますが、一例として、私たちがVC目線で投資案件を評価する際に時折使っている外形基準を紹介します。

 具体的には、通常の調査、すなわち経営陣の能力や製品、技術、競合、マーケット等を一通り調べることに加えて、客観的に案件のレベル感を推し量ることがあります。例えば以下のような事柄です。

● 市場:少額でも有料顧客がいる製品に注目。市場ニーズがあることの証左
● 実績(ディールの格):経営陣や投資家などの顔ぶれや実績からレベル感を把握。特に狭い社会であるイスラエルでは有効
● 状況証拠:投資家間の競争が激しく入りにくい人気案件ほど、価値が高い傾向
● 第三者目線:他投資家との共同投資として、共同投資家を確保できた場合に投資を行う

 最後に、イスラエルのSDGsの評価とビジネスとの関連性についてです。イスラエルのSDGsランキングは世界38位とあまり高くなく、教育やジェンダー平等、気候変動への対応、海洋資源保護、陸上生態系保護が要改善項目とされています。

 一方で、これら課題解決に有益な各種技術、例えば農業、海水淡水化、太陽光発電など、国の存続に不可欠な資源確保を目的に開発された技術の蓄積があります。こうした技術の価値とSDGs間の関係性を見つけて市場につなげていくことで、イスラエル発の大きなビジネスチャンスが生まれるのではと考えています。

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