image: Macrovector / Shutterstock
動物の細胞を培養することで人工的に作られる「培養肉」。AIとバイオテクノロジーの融合が加速する中、培養肉産業は新たな転換期を迎えているようだ。規制環境の多様化と技術革新の相互作用が市場構造を再編し、地域間の戦略的差異は鮮明化している。本記事では、イスラエルやシンガポール、米国など先行国の動向を見ていこう。

※TECHBLITZでは、培養肉関連の国内外のスタートアップを独自に調査。記事後半では、中でも注目の5社を紹介します。

培養肉とは:
動物の細胞を体外で組織培養することで作られる代替肉。サステナブルな食料供給や環境保全、動物福祉への課題対処といった観点で期待が高まる一方、割高なコストや食の安全性の評価などが課題として挙げられる。日本でもスタートアップが培養フォアグラなどの開発を進めているほか、日清食品グループと東京大学による共同研究などが行われている。

<目次>
推進?拒絶?各国の規制環境の動向
イタリアは禁止、EUはまだ明確な姿勢示さす
TECHBLITZが選ぶ、培養肉関連スタートアップ5選
 1. Meatable(オランダ)
 2. Uncommon(英国)
 3. TissenBioFarm(大韓民国)
 4. Wildtype(米国)
 5. BlueNalu(米国)

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推進?拒絶?各国の規制環境の動向

イスラエル:"世界初"スタートアップのグローバル戦略
 世界で初めて培養牛肉の製造・販売許可を得たイスラエルのスタートアップ、アレフファーム(Aleph Farms)は、タイ当局に培養牛肉「プティ・ステーキ(Petit Steak)」の認可申請を提出し、2026年半ばの販売開始を目指している。同社はスイスと英国での認可申請を完了し、欧州全域での事業基盤構築を加速させている。英国では食品基準庁(FSA)の審査が最大2年間かかると見込まれ、2027年までの市場参入を計画しています。

シンガポール:生産拠点の拡充
 培養肉の受託製造を手がけるシンガポールのエスコ・アスター(Esco Aster)は、2025年完成予定のチャンギ地区工場で年間500トンの生産能力を確立し、アジア全域への供給体制を強化する方針。シンガポール食品庁(SFA)は培養脂肪の規制ガイドラインを改訂し、細胞培養工程の自動化基準を新設した。

米国:州レベルでの規制分断
ミシシッピ州が2025年7月に培養肉禁止法を施行し、フロリダ、アラバマ両州に続く3州目となった。ただし、連邦レベルでは米食品医薬品局(FDA)がミッション・バーンズ(Mission Barns)の培養脂肪を認可し、米農務省(USDA)との共同監督体制が本格化しています。アップサイド・フーズ(UPSIDE Foods)はフロリダ州の禁止令を憲法違反として訴訟を継続中。

EU:イタリアの政策転換と影響
イタリア下院は2024年11月に培養肉禁止法案を可決したが、EU法との整合性問題からTRIS(技術規制情報システム)通知を撤回。この矛盾した動向はEU域内の規制調和に悪影響を及ぼし、欧州委員会は2025年第2四半期に統一ガイドラインを策定する方針を明らかにしました。

日本:官民連携による制度設計
 細胞農業研究機構(JACA)が上市前相談窓口の設置を提言し、2025年度中の実現を目指している。農林水産省は細胞培養由来成分の表示基準案を策定中で、動物種ごとの細胞株登録制度の導入が検討されている。

image: Aleph Farms

味もコストも"肉薄"?市場構造の変容と投資動向

価格競争力の飛躍的向上
韓国のティッセン・バイオ・ファーム(TissenBioFarm)のコスト削減技術が業界標準となり、2025年Q1の培養肉平均価格は1kgあたり23ドルまで低下。これは2022年比で83%の価格改善を示す結果で、植物性タンパク質との競合が本格化している。

消費者受容性の地域差  日清食品の大規模調査(n=2,000)では、日本市場での受容率が29%から41%に上昇し、「食感の自然さ」が最大の購買障礙となっている。欧州ではイタリアの禁止政策が消費者の懐疑心を増幅する一方、オランダでは畜産農家の42%が細胞農業への参入意向を示すなど、産業構造の転換が進行中だ。

投資家の戦略的再編
 英国のスタートアップ、アグロノミクス(Agronomics)が細胞農業ファンドを10億ドルに拡大し、アジア太平洋地域への重点投資を宣言。カーギル(Cargill)と水産加工・販売のタイ・ユニオン(Thai Union)が共同で3億ドルの細胞農業イノベーション基金を設立し、培地成分のオープンソース化を推進しています。2025年Q1の業界全体の投資額は4億2,000万ドルで、前年同期比17%増加しています。

新興プレイヤーの台頭
 中国のCellXがウサギ細胞由来の高級食材「Jade Rabbit」を発表し、シンガポールで2025年Q3の販売認可を申請。ブラジルのBioTech Foodsは遺伝子編集なしで筋繊維密度を3倍に高める培養技術を開発し、JBSとの合弁で欧州進出を計画している。

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TECHBLITZが選ぶ、培養肉関連スタートアップ5選

 2013年に世界で初めて培養肉ハンバーガーを開発したオランダのMosa Meatや、シンガポールで世界初の培養鶏肉の販売承認を得たEat Just(GOOD Meatの親会社)のように、一定の知名度を得ているスタートアップも出てきているが、それ以外にも培養豚肉や培養魚肉を手掛けるユニークなスタートアップが数多く存在する。TECHBLITZ編集部が選ぶ、培養肉関連のスタートアップ5社はこちら。

1. Meatable

Meatable
iPS細胞を活用して培養肉を大量生産する技術
設立年 2018年
所在地 オランダ デルフト
 Meatableは、iPS細胞を使い、動物を傷つけずに培養肉を生産する技術。同技術で作る培養豚肉のソーセージと餃子を、2024年からシンガポールのレストランや小売店で展開する予定。米国での販売の準備も進めている。
image: Meatable

2. Uncommon

Uncommon
iPS細胞技術を活用して作る培養豚肉
設立年 2017年
所在地 英国 ケンブリッジ
 Uncommonは、遺伝子操作を行わずに生産できる培養豚肉。遺伝子工学を使わないため、遺伝子組み換え食品の規制が厳しい国でも展開できることが期待される。2023年6月にOpenAIのSam Altmanが参加する約$30Mの資金調達を実施。欧州やシンガポールでの展開を進める意向。
image: Uncommon

3. TissenBioFarm

TissenBioFarm
培養肉の塊を3Dプリントで生産
設立年 2021年
所在地 大韓民国 (韓国) ポハン
 TissenBioFarmは、培養肉の大量生産を可能とするバイオ3Dプリンティング技術。同培養肉の生産には、同研究室で進められている、移植用の人工臓器の開発技術を応用。韓国のK-Startup Grand Prizeの産業大賞や、Global Innovator Festaの大邱広域市長賞などを受賞。
image: TissenBioFarm

4. Wildtype

Wildtype
培養魚肉で地球にやさしいサーモン代替品
設立年 2016年
所在地 米国 カリフォルニア州 サンフランシスコ
 Wildtypeは、米国内でエビの次に消費量が多いと言われる魚介類であるサーモンの細胞培養に成功。これまでにSK HoldingsやTemasek Holdingsなどから出資を受けている。同社の技術はサーモンに限らず、あらゆる魚や肉の培養製造に応用可能。
image: Wildtype

5. BlueNalu

BlueNalu
マグロなどの持続可能な培養魚肉
設立年 2017年
所在地 米国 カリフォルニア州 サンディエゴ
 BlueNaluは、マグロなど持続可能な養殖が困難な種類の魚の代替品となる培養魚肉を開発。三菱商事や住友商事と協力関係にあるほか、培養トロを共同開発するために「スシロー」や「京樽」を展開するFOOD & LIFE COMPANIESとも提携。
image: BlueNalu

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