米ベンチャーキャピタル(VC)大手のアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)は2026年10月7日、都内で記者会見を開き、日本オフィスの開設を発表した。日本事業を統括する代表には、日本マイクロソフトや日本ヒューレット・パッカードで社長を務めた吉田仁志氏が就任した。

日本の産業基盤と米国のテクノロジーをどう結びつけるのか。会見に登壇した共同創業者兼ゼネラル・パートナーのベン・ホロウィッツ氏は、防衛やロボティクスでの日米連携に期待を示した。日本を選んだ理由と、起業家を支えるエコシステムづくりの課題を、会見での発言から読み解く。


なぜ日本か?「同盟国」と「世界水準の技術」

a16zは、複数のファンドを通じて1,000億ドルを超える資産を運用する、米国を代表するVCである。AI、バイオ・ヘルスケア、暗号資産、フィンテックなど幅広い分野に投資しており、防衛や製造業など、米国の活力を高めることを目指す企業への投資にも取り組んでいる。

ホロウィッツ氏は2026年5月14日に高市早苗首相と面会。同月、日本に拠点を設ける意向を表明していた。今回の開設は、その計画が約5カ月で形になったものだ。

パートナーとなる国を選ぶうえで重視したのは2点だという。

米国の同盟国であること:「投資先の多くが防衛分野にあるため、その点で足並みがそろうことが非常に重要だった」
世界水準の独自技術を持っていること:日本は歴史的にそれを示してきたうえ、新しい技術を生み出す一歩手前にあると評価

ホロウィッツ氏は日本拠点の目標を「米国の最良の技術を日本に届け、日本の最良の技術を世界に届けること」と表現した。数年後の成功をどう捉えるかという質問にも、この双方向の連携を挙げている。

日米連携の有望分野は防衛とロボティクス

日米連携の有望分野として、ホロウィッツ氏がまず挙げたのが防衛だ。安価なドローンが高価な兵器を破壊できるようになり、「200ドルのドローンを100万ドルのミサイルで撃ち落とすのは、経済的に割に合わない」と指摘。戦闘の自律化も進んでおり、自律型のボートや潜水艇、航空機、ドローンなどに新しい企業が生まれる余地があるとした。

そのうえで、日本が防衛費を大きく増やしていることにも言及し、日米連携の方向性を3つ挙げた。

①米国の防衛スタートアップを日本に連れてくる
②日本企業と組み、それらの企業のサプライチェーンを日本国内に築く
③日本の防衛スタートアップを米国に連れていく

会見では、防衛分野で初期の機会が見えている領域として、海洋の自律化、とりわけ自律型ボートが挙げられた。また、a16zの投資先である米Andurilが、日本国内の供給網だけでドローンを製作したと説明。ロボットやドローンの供給網が中国に依存することを米国の安全保障上のリスクと捉え、同盟国である日本との連携の重要性を強調した。このほか、対ドローン技術やサイバー防衛などにも機会があるとしている。

ロボティクスについては、ホロウィッツ氏は米国のAIによる制御技術と、日本の部品供給網が互いの強みを補い合うとの見方を示した。以下は同氏の説明を整理したものだ。

ホロウィッツ氏は、日本での最初の投資先の一つとしてロボット企業のGenki Roboticsを挙げたが、会見では詳しい事業内容には触れなかった。さらに、日本文化が世界中で愛されていることにも商機があるとし、AI VTuber「しずく」を手がけるShizuku AIへの出資も紹介した。

日米連携の有望分野として「防衛」を挙げるベン・ホロウィッツ氏(右から2人目、TECHBLITZ編集部撮影)

日本代表・吉田仁志氏「単に投資するのではない」

吉田氏は、テクノロジー企業で25年以上にわたり経営幹部を務めてきた人物だ。2015〜2019年に日本ヒューレット・パッカードの社長、2019年10月から日本マイクロソフトの社長を歴任。SAS Institute Japan社長や、伊藤忠グループでの海外事業開発なども経験している。

ホロウィッツ氏は起用の決め手について、日本ではビジネスにおける人間関係が特に重要だとの認識を示し、吉田氏がビジネスと行政の両面に持つ幅広く深い人脈を挙げた。

吉田氏は就任の理由を「自分が社会に出たときよりも、引退するときのほうが良い世界にすることが使命」と語った。「失われた30年」を経た今の日本を、若い人に胸を張って勧められるか。その問いがあったとし、「若い優秀な人たちが力を存分に発揮できる世の中をつくる」ことを自らのミッションに掲げている。

吉田氏がa16zの強みとして挙げたのは、投資先と顧客企業などを結ぶ幅広いネットワークだ。

資金を提供するだけでなく、戦略や業界情報、人脈、パートナーを組み合わせ、企業が成長し、成功するところまで寄り添って支援すると説明した。

アンドリーセン・ホロウィッツのベン・ホロウィッツ氏㊧と、同社の日本代表に就任した吉田氏㊨(TECHBLITZ編集部撮影)

日本のエコシステムに足りないもの

ホロウィッツ氏は、日本のスタートアップ・エコシステムの課題を「技術」と「文化」の2つの面から説明した。

技術面では、過去20年のソフトウェアの時代に、日本企業が国内市場のニーズに合わせることを重視し、グローバル市場で十分な競争力を発揮しにくかったと指摘した。一方、AIの時代には自然言語がインターフェースになるため、この課題の重要性は薄れるとの見方を示している。

文化面では、優秀な若者が起業やスタートアップへの参加よりも、官公庁や大企業への就職を選んできたことが根本的な課題だったと説明した。

その一方で、近年の調査では若者の起業への関心が大きく高まっていると述べ、この変化が日本を投資対象として評価するうえで最も重要な要因だとしている。

残る課題としては、資本市場や雇用市場がリスクを避け、失敗を許容しにくい点を挙げた。資金の提供と、挑戦を後押しする姿勢によって、難しい事業に取り組む若者を支えたいとしている。

吉田氏も、起業の際に自宅マンションを担保に入れるような例を挙げ、「失敗したときの代償がものすごく大きい」と指摘。課題を「環境」と「マインド」の2つに分け、失敗を学びとして前に進める環境づくりが土台になると話した。

投資先はどう探す?

日本で有望な投資先をどう見つけるのか。記者からの質問に、ホロウィッツ氏はa16zが取り組む3つの方法を紹介した。

ブランド:起業家に知られ、自ら相談したいと思ってもらえる存在になる
AIを使った人材の発掘:大企業や大学にいる、優れた実績を持つ若手の動向をAIシステムで把握。転職や新しい挑戦に関心を持つタイミングを捉え、声をかけて起業を支援する
国内VCとの連携:キャシー松井氏が共同創業したMPower Partnersなどの国内VCと連携する。こうしたVCはa16zより早い段階で少額を投資する傾向があり、有望な投資先企業を紹介してもらう

特に2つ目は、「今は大企業にいる人」も将来の起業家候補として見ていることを示している。

日本で「防衛」を語ることへの違和感にどう向き合うか

質疑応答では、日本では歴史的・文化的に「防衛」という言葉への受け止め方が米国と異なるのではないか、という質問が出た。吉田氏、ホロウィッツ氏に加え、a16zのゼネラル・パートナー兼グローバル・アフェアーズ部門責任者のアン・ニューバーガー氏が回答した。

吉田氏:日本は長く平穏な時期を過ごしてきたため、防衛に違和感を持つ人がいることは理解できるとしたうえで、まずは起業家が挑戦できる環境づくりが土台だと説明。若い世代が世界と接点を持つようになれば感度が高まり、防衛の重要性も認識されていくのではないかと語った

ホロウィッツ氏:第二次世界大戦後、日本が軍事的な侵略の主体となることへの強い抵抗感が生まれたとの認識を示した。一方、若い起業家の間では、中国からの脅威に備える必要性への理解が広がりつつあるとし、「新しい時代に入っている」と述べた

アン・ニューバーガー氏:米国で語られる「力による平和(peace through strength)」の考え方を紹介。北朝鮮のミサイル能力や中国の軍事力拡大、重要鉱物をめぐる動きを挙げ、日本が自らを守る能力を持つことが地域の安定につながると語った

ニューバーガー氏は別の質問でも、自律化や海洋状況把握、宇宙分野で日本は世界をリードしているとの見方を示し、造船からロボティクスまで、日本のスタートアップと既存企業の双方と米国企業を結びつけることに意欲を示した。

テープカットには東京都の小池百合子知事も参加した(TECHBLITZ編集部撮影)

編集部の視点

会見で繰り返し語られたのは、資金の提供に加え、日米の企業や技術を結びつける役割だった。日本の大企業が今回の進出をどう捉えるか、編集部が注目したのは次の3点だ。

①投資とともに、企業をつなぐ役割にも注目

吉田氏がa16zの強みとして挙げたのは、投資に加えて、顧客企業やパートナーを結ぶ幅広いネットワークだった。ホロウィッツ氏も起用理由にビジネスと行政の人脈を挙げている。大手テック企業での経営経験を持つ吉田氏を代表に据えたことから、日本の大企業や行政と投資先をつなぐ役割を重視していることがうかがえる。

②日本企業は「サプライチェーンの相手」として見られている

防衛分野では日本国内の供給網づくり、ロボティクスでは米国のAI制御技術と日本の部品供給網の連携が語られた。会見で紹介されたAndurilのドローン製作例は、その具体像の一つだ。精密部品や素材、造船などに強みを持つ企業にとって、a16zの投資先が新たな顧客やパートナーになる可能性がある。民生と防衛の双方に応用できる技術もあるため、自社の強みをどの用途に展開できるかを整理することが、協業を考える出発点になりそうだ。

③大企業の社員も、将来の起業家候補として見られている

ホロウィッツ氏は、大企業にいる優秀な若手もAIを活用した人材発掘の対象にしていると説明した。大企業の社員が将来の起業家候補として見られていることは、オープンイノベーション担当者にとっても示唆がある。社員が起業を選ぶ場合に、スピンアウトへの出資や協業を通じて関係を維持する仕組みを考えることも、一つの論点になりそうだ。



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