【dotData】カーブアウトを日本企業のR&Dの一つに

【dotData】カーブアウトを日本企業のR&Dの一つに

Silicon Valley / Event Report / Japanese Corporation
2019/10/01
dotData Founder & CEO
藤巻遼平

2018年2月、NECはあえて将来性のある「AI」の研究をカーブアウトさせ、シリコンバレーで新会社を設立した。その会社は、dotData。NECの史上最年少主席研究員となった藤巻氏がトップとなり、AIデータ分析事業をグローバルで展開している。新たな日本企業のR&D事例として注目を集めるdotData、CEOの藤巻氏に話を聞いた。
(モデレーター:Stanford University APARC 櫛田健児氏)
前編はこちら

※本記事は「Silicon Valley - New Japan Summit 2019 Tokyo」のトークセッションの内容をもとに構成しました。

大企業からカーブアウトする難しさ

櫛田:素晴らしい活躍ですね。dotDataの事例を見て刺激を受けたり、大企業からカーブアウトすることを考えたりする人もいるかもしれません。何かアドバイスはありますか。

藤巻:この仕組みがうまくいくためには、出る側と送り出す側の双方に様々な課題があります。出る側からは、その事業を自分自身でやり遂げる覚悟が本気であるのかが一番大事だと思います。カーブアウトしても、給与という面ではよくなるわけではなく、むしろ悪くなるかもしれません。また、日々減っていく資金の中で、リスクの高い勝負をすることになります。仕事も、会社運営から製品、販売、マーケティングまで、様々なことを学んでいく必要があります。簡単にいえば、大企業ではなくスタートアップとしてのマインドセットがあるかですね。

 送り出す側からは、カーブアウトした会社をコントロールしようとしない点が一番大事だと思います。例えば、dotDataの場合、NECは株主、あるいは社外取締役としての発言や情報の請求はできますが、逆に言えばそれだけです。取締役会も、NECが会社の方針を決められる構造にはなっておらず、dotDataは独立した会社として運営が可能になっています。これは、簡単ではなく、NECの場合には社内にある様々な規定が邪魔をしてしまうため、そういった社内規定をdotDataのカーブアウトのために変更してくれました。送り出す側もこれくらい本気の覚悟がないと上手くいかないのではないでしょうか。

櫛田:本社がdotDataに求める利益とは一体何なのでしょうか。

藤巻:カーブアウトが失敗する原因としてほとんどの場合、外部の投資家や独立した会社と、カーブアウト元となった本社が同じ方向を向いていないために起きると言われています。我々がNECから出るときに約束したことは、このプロジェクトは「dotDataの企業価値を最大化すること」を目的とするというものです。つまり、我々が大きく成長することによってNECはそこから大きなキャピタルゲインを得ることができる。逆にいえば、NECの事業の都合というのはdotDataに対する判断基準とはならず、極端に言えば「dotDataの企業価値」が全ての判断基準となると徹底したのです。

藤巻 遼平(ふじまき りょうへい)
dotData
Founder & CEO
2006年に東京大学を卒業後、NECに入社。機械学習とAI技術で多くの開発実績をもつ。2011年、米国シリコンバレーのNEC北米研究所へ移り、NEC史上最年少で主席研究員に就任。2018年2月に、dotData, Inc.をNECからカーブアウトして、シリコンバレーで創業(http://dotdata.com)。人工知能によってデータ分析を自動化するソフトウェアの開発と提供を行う。工学博士。
櫛田 健児 (くしだ けんじ)
1978年生まれ、東京育ち。父親が日本人で母親がアメリカ人の日米ハーフ。2001年6月にスタンフォード大学経済学部東アジア研究学部卒業(学士)、2003年6月にスタンフォード大学東アジア研究部修士課程修了、2010年8月にカリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了。情報産業や政治経済を研究。現在はスタンフォード大学アジア太平洋研究所研究員、「Stanford Silicon Valley - New Japan Project」のプロジェクトリーダーを務める。おもな著書に『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』(朝日新聞出版)、『バイカルチャーと日本人 英語力プラスαを探る』(中公新書ラクレ)、『インターナショナルスクールの世界(入門改訂版)』(アマゾンキンドル電子書籍)がある。http://www.stanford-svnj.org/

最前線に立てることがシリコンバレーの最大の価値

櫛田:藤巻さんの考えるシリコンバレーでビジネスをするとはどういうことでしょうか。良かったこと、難しかったことを教えてください。

藤巻:シリコンバレーへ来て良かった点は、自分たちのやってきたことが世界で一番進んでいると再確認できたことですね。北米のお客様から実際に「これはすごい」と言っていただけて、「自分たちは間違っていなかった」と確信できました。

 難しかった点は、予想通りでしたが、はじめはセールスに苦労しました。日本でカーブアウト前には「NEC」といえば話を聞いてもらえたのが、アメリカで日本人が、しかも創業間もないスタートアップではなかなか相手にしてもらえませんでした。アポイントすら取れない期間も結構ありましたね。最近は北米での知名度も上がってきたので、この問題は解消されつつあり、継続的にセールスサイクルを回すための仕組みも出来つつあります。

 あと、予想外に苦労しているのは人材の採用です。Googleのような大企業と優秀な人材を獲り合っているので、採用はなかなか厳しいです。カーブアウト前には、いけてる技術があり、シリコンバレーで、スタートアップのインセンティブもつけることができ採用はできるだろうと安易に考えていたのですが、いざはじめてみると、名もないスタートアップ企業で、NECのオフィス内を間借りし、メンバーは日本人4名のみと、よく考えると最初にオファーを受けてくれた人たちはよく選んでくれたなと思います。今ではローカルメンバーが大多数となり、本当の意味で現地のスタートアップとなったため、そういった苦労はなくなりました。

櫛田:なるほど。藤巻さんが追求してきたソフトウェアの技術をシリコンバレーに持ってきて真っ向勝負してみたら、やっぱり世界トップレベルだったと分かったわけですね。さらにそれをビジネスに出来ているというのは非常に珍しい体験だと思います。藤巻さんがシリコンバレーに来て、エコシステムに触れる中でどんな発見や気づきがありましたか。

藤巻:シリコンバレーだから特別にすごいとか思うことはあまりないですね。ただ、スピード感もそうですけど、特に競合との激しい競争の最前線に立てるという魅力は大きいです。技術力の拮抗する会社と競争によって切磋琢磨できますし、お客様もそういった競合から日々プレゼンを受けているため非常に詳しい。我々にとってシリコンバレーでやることの意義は、市場の大きさというよりも、最前線で事業と製品を育てるという点が大きいように思います。

カーブアウトは低迷する日本のR&Dを打ち破るひとつの突破口

櫛田:若手ながらビジネスの最前線に立てたことは重要なポイントだと思います。たしかにシリコンバレーに来ても何もなかったと幻滅して終わってしまうケースも多くあります。でも、本当に探せば狙えるチャンスもたくさんあるということを伝えたいですね。ビビりすぎることもなければ、過小評価しすぎる必要もないと。

 藤巻さんのように研究者がカーブアウトできたらすごくいいなと思うんですが、全員が「起業できる」とポジティブに考えられるわけではないと思います。どうしたらそんな風に考えられるようになるのですか。

藤巻:うーん、自分も起業家になろうとか、カーブアウトしたいと思ってやってきたわけではないので・・。ただ、どういう形にしても、「この技術を世の中に出したい」という強い信念はとても大事だと思います。技術を世の中に出すには技術以外のこともたくさん必要で、そこまで含めて自分でやりたいのか。あとは、カーブアウトには出ていく自分たちの立場と、送り出してくれる側の立場があるため、なぜカーブアウトするのかをしっかり話し合うことが重要だと思います。我々のケースでは、「スピードを最大にして企業価値を最大化するために既存事業から切り離した小さな会社でやるのが一番」という結論になりましたが、これはケースバイケースだと思います。カーブアウトというのはあくまで手段の一つなので。

櫛田:なるほど。その時、やりたいこと、出来ることを最善のやり方でやってきたら「最適化した」という感じでしょうか。藤巻さんはカーブアウトしてNECの主席研究員からアントレプレナーになったわけですが、アントレプレナーになってみた感想はいかがですか?

藤巻:私自身は会社運営は「大したことない」と思っています。dotDataは小さい会社ですし、クラウドでほとんど自動化されているので、北米本社にはバックオフィスのスタッフはいまだに一人もいません。

 それよりアントレプレナーになって良かったと思うことがあります。大企業の中にいると研究、開発、ビジネスと研究が市場にでるまでにとても時間がかかる。しかも最後まで携わることができない。けれど、自分たちで会社をやると市場、製品、販売まで切り分けることなく、すべて自分たちのビジョンの元で考えることができる。必要だと思うことはその場で判断し実行に移すことができますし、オーバーヘッドがほとんどないためスピードが圧倒的に速い。何よりも、自分たちがつくるものを市場のお客様に使ってもらうところまで見届けることができます。これはNEC時代にはできなかったこと、味わえなかったことですね。

櫛田:藤巻さんを見ていると「こんなシリコンバレーの活用法もあるんだ」とか、「どういう仕組みでシリコンバレーを活用したらいいか」などとても勇気づけられます。最後になりますが、NECさんと同じようにシリコンバレーを目指す日本の大企業へ、とくにR&D部門へメッセージはありますか。

藤巻:日本の大企業のR&Dの多くはどうやったらスピーディに収益化できるかとても苦労されていると思います。私たちにとったカーブアウトという形は全てのケースに当てはまらないでしょうし、一つのアプローチにすぎません。一方で、いいものだからこそ、外部で最速で育てるというのは、新しいR&Dの形として非常に面白い取り組みだと思っています。もしみなさんが現状のR&Dを打破したいと考えていたら、視野に入れてみると面白いと思います。この仕組みを日本の新しいR&Dの一つの形にしていくためにも、まずは私たちが成功を収められるよう頑張りたいと思います。

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