マグカップやスマホカバーを自分好みにカスタマイズする──。こうした需要がインドで伸びている。Zoomin(本社:インド・ムンバイ)は自社で工場を持ち、宅配まで担当する印刷系サービスを提供する企業だ。ユーザーはZoominのウェブサイトから好みの商品を選び、写真などをアップロードして思い通りの商品にカスタマイズできる。ZoominのCEOを務めるSachin Katira氏に話を聞いた。

目次
インドでZoominの利用が人気の理由とは
インドの地方在住若者の「憧れに」
Webから印刷まで繋げられる企業は意外と少ない

インドでZoominの利用が人気の理由とは

―Zoominはどのようなサービスを提供しているのですか。

 Zoominは、インドで最大手の消費者向け写真プリントプラットフォームを運営しています。具体的には、マグカップやカレンダー、アクセサリー、スマホカバーといった日用品に恋人の写真を差し込んだり、Zoominが用意するさまざまな色や柄を選んでオリジナルのデザインで装飾したりといった風にです。デザインする前段階のカップやカレンダーそのものもZoominが用意しています。

 Zoominはデザインツールを独自で開発し、サードパーティーのものは一切使っていません。このツールは、レイアウトやステッカー、色や模様など多彩なデザインを搭載しており、自分ならではのこだわりを反映できます。もちろん、写真をアップロードすることも可能です。5〜10分程度でカスタマイズできる簡単さが、当社のサービスに売りでもあります。

 Zoomin上で、こうしたカスタマイズを行い、注文してお金を払えば、インドのどこでもあなたの家の玄関先までお届けします。注文から商品到着までの所要時間は最短2日、長くても1週間強です。

 インドでは若い人の間で、持ち物を自分の写真などで装飾するニーズが旺盛なのです。ところが、Zoominが登場するまで同様のサービスは非常に高価でした。一方、Zoominは300インドルピーから3,000インドルピー(約550円から5,500円)でサービスを提供しています。当社がオンデマンド印刷の製造拠点を有していることと、独自の在庫・物流システムを築いているからこそコストを抑えられるのです。特に、製造能力と物流体制はこれまでかなり投資してきました。なにしろ商品は自社生産が100%であり、インドに1万8,000ほどある郵便番号を全て網羅していますから。

 インドは巨大な国ですが、Zoominは生産から配達まで、全て自社で完結できるのも強みです。こうした強みもあり、Zoominは2018年以降の売上高は毎年、前年比約25%増の成長率を記録しています。

Sachin Katira
CEO
K J Somaiya College of Science & Commerce MumbaiでCommerceの学士号を取得。SutherlandでTransition & Operations Managerを務めた後、2009年にZoominに入社。2016年には買収した米国のParabo Pressでオペレーション責任者を務めた。2018年にZoominのCEOに就任。現職。

インドの地方在住若者の「憧れに」

―Zoominを利用するユーザーにはどんな特徴があるのでしょう。

 当社のメインターゲットは、18歳くらいの若者から45歳くらいまでのミドル層で、特に子育て世帯です。子どもや配偶者など、大切な人たちとの思い出を記録するために利用する人が多いですね。

 創業当初、メインユーザーはムンバイやデリーといったTier1の主要都市に限られていました。しかし、今では近年急速に経済発展を遂げている中部インドールや南部コインバトールといったTier2都市、農業や手工業などが主要産業であるものの、鉄道や道路網が整備されはじめているTier3都市、まだ伝統的な生活を送っている住民が住むTier4都市でも利用が広がっています。こうした都市に住む若者の間でインターネットの利用が進み、高品質でパーソナルにカスタマイズされた製品を求めるようになってきているからです。

 加えて、これらの都市では以前までは現金取引が多かったのですが、近年はスマホを通した金融サービスが広がっています。地方の若者も、スマホを持ちはじめたことで都市部の若者が利用するZoominに憧れを抱くようになったのです。

 また、フォトアルバムも成長著しい商品です。インドではこれまで、フォトアルバムといえば結婚式の写真がメインでしたが、現在は誕生日や子供の成長記録など用途が広がっています。特に、Zoominが提供するモバイルアプリ内で、フォトアルバムをいつでも確認できるようになったことも、成長に寄与したと分析しています。

―日本では同様のサービスが一般的ではないのですが、なぜインドの若者は「自分好みに装飾した日用品」を持ちたいと考えているのでしょうか。

 自分が使う日用品に対して、感情的な結びつきを持ちたいと考えているからです。例え、ジムにいつも持っていくドリンクボトルだとしても、既製品より自分がこだわって決めたデザインが反映されていたり、家族の写真が装飾されたりしたものの方が愛着が沸くでしょう。

―Zoominは、どのような経緯で創業されたのでしょう。

 元々、在外インド人が、プリントした写真を(インド国内にいる)子どもたちに送るためにスタートしたプラットフォームです。子どもたちは、離れて暮らす父親の写真を見たいものですから。

 そこから「若い人たちにもモノに写真などを装飾したいというニーズがありそうだ」と判断し、顧客基盤を広げていきました。

image : Zoomin HP

Webから印刷まで繋げられる企業は意外と少ない

―日本市場をどのように見ていますか。また、日本に進出する可能性は?

 現在はインドのみで展開していますが、世界進出を考えていますし、日本も前向きに検討しています。日本の印刷ビジネスにおいては、ハードウエア、つまり印刷機の技術は優れたものがありますが、それをアプリやWebサイトを通して製品として流通させる企業は多くはないと感じます。

 また、フォトアルバムを通して自分や家族の大切な瞬間をプリントしたいと考えている人は多くいますが、そのためには最寄りの小売店まで足を運ばなければなりません。Zoominは、ハードの設備も持ちながらも、Webサイトやアプリを通したソフトのサービスも充実しています。日本においては特にソフトの分野で貢献できるのではないかと考えています。

 当社が展開するオンデマンドの印刷サービスの市場規模は、世界全体で70億ドルに上ると言われています。ですが、ウェブサービスの展開から製造、宅配まで、サプライチェーンは未発達な部分が多いのです。そう考えると、インド国内で全てのプロセスを自社で完結させている当社の強みをご理解いただけるのではないでしょうか。Zoominとしてはビジネスの多角化のために、今後はデザイナーやアーティスト、消費者向けブランドなどとのパートナーシップ強化も考えています。

―日本でパートナーシップを組む場合、どのような業態が理想でしょうか。

 オンデマンド印刷に関連する業態の企業が良いと考えています。私たちは日本市場の理解がまだ深くないので、現地パートナーも必要です。パートナーシップの形態として理想なのはジョイントベンチャーですね。なぜなら、この分野に非常な熱心なパートナーでなければ、ビジネスの成功は難しいからです。共に投資をしながら、日本市場を深耕していきたいですね。



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