当初は軍向けに考案された、車両検査のシステム
イスラエル出身のOren氏は、大学でコンピュータサイエンスを学び、Hewlett Packard Enterpriseなどのテック企業でソフトウェアエンジニアとして勤務。また、金融や法律を学び、スタートアップへの投資にも携わった。R&D畑で過ごしたり、投資家として活動したりするうち、イスラエル国防軍時代にソフトウェアを共に研究していたUVeyeの共同創業者でCEOのAmir Hever氏と再会した。UVeyeのビジネスアイデアを聞き、2016年の創業当初から事業に参画している。
UVeyeのプロダクトの基本的な動作は、高精細なスキャナーによって読み込んだ画像をAIによって分析し、レポートするというものだ。
主に自動車の車両の底面を検査する「Helios」と、底面以外のボディ全体を360度スキャンを利用して検査する「Atlas」、タイヤの品質やホイール検査の「Artemis」の3つのプロダクトによって、車両を検査できる。プロダクトごとでも、3つのプロダクトを組み合わせての利用も可能だ。これらのプロダクトを設置したガレージなどで自動車を通過させてスキャンすることで何千枚もの写真を瞬時に撮影し、AIによる分析結果をオンラインで確認できるようにする仕組みだ。
たとえば、Artemisなら、車両を通過させるだけで利用しているタイヤのブランドや型番に加え、溝の深さや傷をAIが自動検出し、損傷がひどく危険性があればその問題を指摘する。同様にAtlasではブランドや車種、ナンバープレート、傷、へこみを検知し、Heliosなら傷だけでなく、オイル漏れや錆、腐食、部品の欠損なども確認できる。Oren氏は「日本ではあまり起こりませんが、アメリカでは高価な金属を使っている部品を切断して盗まれることもあります」と説明を加えた。
創業者のHever氏の当初のアイデアは、軍隊における車両のセキリュティ用途だった。車両底面のスキャンによって、隠された爆弾や武器、違法なものなどの脅威を見つけるために作ったのだ。Oren氏は「イスラエルに本拠を置く私たちは、自分たちに何が必要かを知っていました」と述べた。それまでは、車両の安全チェックは、鏡を使って底面を目視するなど、人の手で行っていたのだ。
Image:UVeye HP
検査が「わずか数分」で完了 手動検査より高精度に
UVeyeは、このような車体のセキュリティチェックに加え、オイル漏れなども確認できることから、タイヤや車体の点検にも対応する現在の姿に変わっていった。
ビジネスモデルについてOren氏は「SaaSモデルのような形で、車両検査のサービスとして提供しています。ユーザーは、各プロダクトを購入する必要はなく、検査の利用に応じた料金をお支払いいただきます」と説明した。
中古車マーケットプレイスのオークションのための審査はスキャンごと、カーディーラーの検査なら月に3000回まで定額、物流会社のトラックなら車両1台あたりの契約といった、用途に応じた料金設定をしている。
従来の人手による検査は1台あたり30〜50分かかるが、UVeyeのプロダクトによる検査はわずか数分で完了する。Oren氏は「手作業による検査と比較して、時間よりも重要なのが精度です。私たちのシステムは手動検査よりも20%も多く欠陥を発見しています。人はコンディションが悪くなるときがありますが、システムは決して疲れることはないからです」と語った。
検査データはクラウドで管理しているので、車の所有者が、スマートフォンアプリで自分の車の状態を確認することもできる。車の状態を詳細に捉えることによって、下取りに出す際も有利に働く。
ディーラーは詳細なデータで透明性を示し、時間を節約することで接客時間を増やし、信頼を得られる。Oren氏は、顧客の継続率が向上したり、不具合の検出によってタイヤ交換などのメンテナンス売上が伸びたりしている事例を挙げ、物流会社においても安全性の向上と、故障による機会損失に役立っているとした。
検査データと外部データの連携がもたらす可能性に価値あり
UVeyeの効率的なパフォーマンスは多くの企業から認識され、豊田通商、Volvo、Hyundai Motors、GM Venturesなどが資本参加をしており、北米ではVolvoやGMのディーラーでの導入が進んでいる。
今後は検査サービスによって蓄積したデータと外部データの統合による付加価値の提供も検討中だ。Oren氏は「ディーラーの管理システム、保険、政府の規制など、データ連携のために努力しています」と付け加えた。
現在は北米市場に注力している状況だが、Oren氏は、日本も戦略的市場だとし、システムの販売だけでなく設置やメンテナンス、データ活用で協力するパートナーを求めているとした。
「私たちのシステムの可能性は、検査だけでなく、プラットフォームにもあるとはっきりお伝えしたいです。検査のあとに得られるデータから、業務の理解や車両の検査履歴を捉えることができます。メーカーが、1万キロ走った車両、5万キロ走った車両がどうなっているかを見たら、自社製品の品質を理解できるでしょう」(Oren氏)
UVeyeでは、車両の製造ラインで、塗装などの品質を検査するシステムも持っている。製造から販売、メンテナンス、リセールまで、車両のライフサイクルをすべて管理できる検査プラットフォームは、コネクテッドカーには必須のサービスとなるだろう。
EVが普及すれば、充電ステーションが検査ステーションとなる可能性もあり、自動運転が実現すれば、車両自らが検査にいくようになるかもしれない。Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Sharing & Services(シェアリングサービス)、Electric(電動化)のCASE時代において、UVeyeが果たす役割は大きくなるだろう。