アーティストがレーベルに頼らず音楽配信できる時代
――まずUnitedMastersを設立した経緯を教えてください。
起業のアイデアが思いついたのは5年前です。独立系アーティストにとってデジタル化した現代は、レーベルに頼らず自身で権利を所有して音楽を配信することができる絶好のチャンスです。レーベルに所属していると、何かとCDの発売やレコード盤の作成、ラジオ出演など手間がかかります。その上、アーティストの著作権はレーベルに全て委ねられています。
今ではそのようなバリアは消え去り、ソーシャルメディアがMTVを取って代わったことで時代は様変わりしました。Apple MusicやSpotifyのようなプラットフォームが音楽を配信したり、発見したりできる場所として定着しています。もはやレコード会社のような「仲介業者」の存在意義が薄れてしまったのです。
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そこで私は、業界に革命をもたらし、新しいものを作るチャンスだと思いました。独立系アーティストとして活動することには常に負のレッテルが付き纏います。いわば家内工業的な側面があり、みんなと同じチャンスに恵まれないのです。
しかし、今では インディーミュージックというのは音楽業界の中でも最速で成長しているジャンルです。そこで、私は「ポケットサイズのレーベル」を作ったのです。
有力スポンサーを探し、アーティストを商業面でも支援
――他の配信プラットフォームとの差別化のポイントは何でしょう。
他プラットフォームは、どちらかというとツールの側面が強いです。配信は可能ですが、私たちのプラットフォームのように、バックに世界的なブランドとのコラボキャンペーン等を実現できる広告会社がついていません。従来のプラットフォームは商業的な側面がないのです。
私たちは広告代理店を設立し、例えばTikTokや、米国系スポーツ専門チャンネルESPN、ゲーム会社等、様々な企業とのコラボレーションのチャンスを提供しています。このようなパートナーシップがあるおかげで、アーティストは音楽の配信に加えて、ブランドとの協業で認知度向上を図ったり、幅広い視聴者層に訴えることでファンベースを広げることができます。
UnitedMastersがコラボレーションしているブランド
そこから、より大きな契約へと繋がるチャンスがあるのです。毎日6000曲という数が配信される中で、生計を立てる以前に、まずは見つけてもらうということすら不可能に近いのです。しかし自身の音楽の権利を所有していることで、例えば音楽に関連したグッズなどを販売すると収益が入るので、非常に強みとなるのです。
また、私たちのプラットフォームはモバイルファーストで開発している点も他社と異なる点ですね。
たびたび東京を訪問。日本の文化から影響を受けている
――直近のラウンドでアップルなどから5000万ドルを調達しました。使い道はどのように考えていますか。
主に3つあります。1つ目は、技術系人材への投資です。2つ目は、野心的で前途洋々なポテンシャルを秘めたアーティストへ投資し、彼らの成長を支援することです。そして3つ目は、国際展開をリードできる経営幹部の採用です。現在、東京をはじめ、南米など世界の様々な地域への進出を計画しており、グローバルで独立系アーティストを支援してくれる人材を見つけたいと考えています。
――国際展開および日本での展開の可能性について詳しく教えてください。
世界的にはまず南米とアフリカのマーケット進出を目指しています。日本国内では、東京に進出することが目先の目標です。
私も日本を何度も訪れており、東京のストリート文化やヒップホップへの熱意にいつも感動させられました。数年前にもNIGOのショップに出向く機会があり、テリヤキボーイズのメンバーと共に街を観光したのですが、東京は80年代のニューヨークのヒップホップシーンを彷彿とさせました。ファッションや、アクセサリー、そして音楽もです。非常に興奮したのを覚えています。それ以来、私は常に日本の文化、特に音楽に影響を受けてきました。私は東京のファンですし、言語が通じなくても感覚で通ずるものがあるのです。
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ヒップホップが最初に日本に上陸した時、ほとんどの人が歌詞の意味を理解していなかったでしょう。しかしそのジャンルを好きになった若者は心で感じることはできたはずです。なので、私たちが作り上げたものを東京に持ち込んで独立系アーティストの声となり、自身の好きな音楽活動を通じて生計を立てられるよう支援したいと思います。
――最後に日本の読者にメッセージはありますか?
私たちは、発見してもらうことの難しさを知っています。音楽を配信した翌日に有名になるということはなく、日頃から継続して配信し続ける根気強さも必要です。だから私は、なるべく様々な方法でアーティストを支援する機会を提供するために、それを可能にするようなプラットフォームを作りました。
私たちは独立系アーティストの支援に抵抗のない企業や、世界展開しているブランドとの提携に興味があります。ユニークな創作活動でコミュニティを盛り上げようとしているアーティストを支援したい企業がいれば、ぜひパートナーシップを提携したいと思います。