(2022年にTravelersが買収。2023年6月追記)
個人データの価値を個人に還元。保険商品を「消費財」に
―まず、Trov創業の経緯を教えてください。
当初はこのようなビジネスになるとは想定していませんでした。個人の所有物に関するデータを所有者自身が有効に活用できていない、そう気づいたことが全ての始まりです。例えば、銀行や販売者は購入履歴など顧客データを有効活用していますが、所有者自身にはデータの価値が還元されていませんでした。
情報の非対称性を解消することに着目し、まずは所有物に関するデータを収集するアプリケーションを作りました。そこから数年かけて、他の消費者向け商品やサービスと同様に保険商品をアンバンドリングし、必要な時に必要なものを対象にオンデマンドで提供する、保険テクノロジープラットフォームを構築しました。
Trovは2012年設立ですが、2015年に保険商品の検討を始め、オーストラリア、英国と米国を対象にサービス提供を始めたのは2016年です。
―TrovはB2Cで保険商品を提供しているのですか。
商品のテスト段階では、消費者向けの商品でした。実際、テストではかなり高評価を得ました。しかし、例えば、腕時計に保険をかける場合、まずTrovアプリに腕時計を登録し、その後はアプリの簡単な操作だけで、保険を「ON」「OFF」できるようになります。家を出る時に保険を「ON」にし、帰宅したら「OFF」にするようなイメージで、加入時間内の損傷や紛失もカバーする商品の価格は、1日31セントを想定していました。ここでは、Trovは保険ブローカーとして保険料の20%を得ます。仮に4日間保険に加入した場合、保険料は約1ドル20セントで当社には24セントしか入りません。顧客獲得に数百ドル費用がかかり、これではユニットエコノミクスが成立しません。
結果的に当社が行ったテストで、Trovの保険テクノロジープラットフォームは、人びとの新しいライフスタイルや働き方、移動手段において、無限に可変するリスクのトリガーに対応していることがはっきりしました。また、価値あるユーザー体験の実現にもなりました。
例えば、「Lime」のシェア電動スクーターは、平均で1ユーザ7分乗車しているので、保険加入が必要な時間は16分程度と考えられます。「Airbnb」の滞在期間は平均3日です。新しいレンタルエコノミーやギグエコノミーに適した保険商品の開発は、従来の保険会社にとって挑戦でもあり、差別化を図るチャンスです。
世の中の変化に対応するTrovの保険テクノロジープラットフォームはこうした企業のニーズに応えるため、現在はB2Bでサービスを提供していますが、その過程の中でB2Cでの提供も可能性が見え始めたところです。
―では、現在のTrovのサービスについて教えてください。
Trovの事業は2種類あります。まず、保険会社および金融機関を対象とした保険テクノロジープラットフォームのホワイトレーベル提供です。当社のプラットフォームでは、プログラミング不要で、コンフィギュレーションによるカスタマイズをすることで、顧客独自の商品が作れます。加えて、保険商品のお見積りから請求までの業務をカバーする管理機能と、リスクアナリティクス機能なども備えるダッシュボードが顧客に重宝されています。
もう一つは、モビリティサービス業者など、保険加入が必須なテクノロジーベースサービスを対象にした保険商品の提供です。例えば、自動車大手のPSAグループがワシントンDCで600台展開しているカーシェアリングサービスに、Trovのプラットフォームが組み込まれています。このケースでは当社は保険ブローカーですが、プラットフォームを使い駐車時と運転時では保険の内容を変え、また運転者がユーザの場合とメンテナンス担当者の場合でも保険の内容を変え提供することで保険料を約30%削減しました。
日本の保険業界も変わり始める時
―日本市場には既に参入されていますね。日本市場での今後の展開について教えてください。
日本では、2019年4月にTrovのプラットフォームを使った保険商品の販売を大手損保会社が始めました。彼らは素晴らしいパートナーです。この商品の動向を見ながら、モビリティのフリート保険などの展開を検討しています。
日本でも、Trovの保険テクノロジープラットフォームを使い、新商品開発に取り組みたい企業など、OEMパートナーを増やしていきたいと考えています。