子どもとの議論から、代替品のソリューションに着想
環境問題対策のため、世界的にプラスチック廃棄量の削減がうたわれている。プラスチックは耐久性が高く加工もしやすいため、広く使われている素材。だが、自然分解されず、環境汚染への懸念がある。企業のESGへの取り組みの指標にもなることから、「脱プラスチック」は昨今、重視されている。プラスチックに代わる、環境に負担をかけないパッケージの市場需要は高まっており、そのためのソリューションが求められている。
TIPAのパッケージは、プラスチックのパッケージのような見た目や機能を有しながら、堆肥化でき、食品や衣料品などの包装といった幅広い用途に導入されている。
Nissenbaum氏はイスラエル軍に所属した後、ソフトウェアエンジニアとしてキャリアを積んだ。その後、2003年から2009年の間、イスラエルで最大規模の私立大学Caesarea Center, IDC HerzliyaのCEOを務める。TIPA創業のきっかけは、自身の子どもとの会話にあったとNissenbaum氏は振り返った。
子どもたちがよく利用するペットボトルをはじめ、プラスチックゴミに関する議論をする中で、プラスチック包装のニーズに対して、もっと別のソリューションがあるに違いないと考えを巡らせるようになる。
「ジョギングに出かけ、いろいろと考えていると、最初に頭に浮かんだのは、リンゴでした。リンゴは食べた後に廃棄すると、それだけでバイオ分解されるからです。果物は皮によって包装されているようなものなので、同じようなパッケージができないか考えたのです。当時は、そのための材料や製造法を見つけられると思っていましたが、それほど簡単でないことがわかりました」
調べていくうちに、食品を長期にわたって包装できるプラスチックに代わる素材は存在しないことに気が付いたNissenbaum氏。2010年にTIPAを創業し、研究の結果、生分解(堆肥化)できるポリマーの開発に成功する。ポリマーは燃料から作られるが、TIPAの材料には生物由来や化石由来のものを使っているため、土壌に廃棄すると、リンゴの生ゴミのようにバクテリアによって生分解され、堆肥化できるのだ。
食料品や衣料品のパッケージをヨーロッパや北米、オーストラリアに展開
TIPAでは自社で材料を開発しながら製造にも取り組む。自社では製造のための機器は持たないが、特許で保護されたライセンスのもと、パートナー企業によって製造・流通・販売されるサプライチェーンを構築している。主な用途は、食品や衣料のパッケージだ。プラスチック代替品のニーズの高まる中で事業も年々成長を続けており、2016年ごろからドイツでの製造を始め、ヨーロッパ市場を拡大してきた。そして2021年には北米とオーストラリアにそのネットワークを拡大している。
Image: TIPA
2022年1月には、Millennium Food-TechとMeitav Dash Investmentsが主導する7000万ドル(約85億円)のシリーズCラウンドで資金調達した。Nissenbaum氏はこの資金を市場拡大による成長のためと、技術開発に使用するとしている。
「北米、アジア、ヨーロッパで足場を固めるために、各地にハブを作っています。技術や新しい製品にも投資します。関連する企業を買収する予定もあります。私たちは、企業がプラスチックパッケージを適切なものに変えられるプラットフォームを構築しています」
イスラエルの本社を中心に、イギリス フランス イタリア トルコ、アメリカなど世界各地に展開するTIPAの社員は80人ほど。オーストラリアにも新たにチームを作っている。今後12カ月の間の目標としては、製造販売パートナーのネットワークを広げることと、新商品を展開することだ。
Image: TIPA
すべてのパッケージが土に還る―子どもたちの未来のための変革は始まっている
新商品は、「ハイバリアフィルム」と呼ばれるもので、酸素や水蒸気が出入りすることを防ぐ機能を持つ。コーヒーや肉、スナック菓子など繊細な製品を長期に保存できるものだ。Nissenbaum氏は、独自の技術によって、劇的に保存期間を延ばせると説明する。この新製品によって、プラスチックに代わる生鮮食品のパッケージソリューションを展開していく方針だ。
Image: TIPA
日本市場への参入についてNissenbaum氏に聞くと、日本市場には目を向けていて、いくつかの会社と協議したことがあると明かした。日本市場においても食品やファッションの分野でプラスチック廃棄の問題に取り組みたい企業があれば、参入をしていきたいとコメントした。
TIPAは、これから自社の製品が一般レベルまで広く普及していくことをビジョンとして掲げている。Nissenbaum氏は最後に次のようにコメントした。
「私たちが使っているすべてのパッケージ、この大量のプラスチックがすべて土に変わることを想像してみてください。私のビジョンは、市場をリードし、可能な限り最高のソリューションを提供し、世界の未来のために、子どもたちの未来のために変化を起こすことです。私たちは、消費者から、もっともっと堆肥化可能なパッケージングを使いたいという大きな要望があることを認識しています。改革は始まっているのです」
創業当初、プラスチック容器のことで議論をしていたという当時13歳だったNissenbaum氏の子は現在23歳。母の取り組みをとても誇りに思っているという。