ソフトウエア開発において「オープンソース」の存在はなくてはならないもので、大手企業が開発するソフトウエアも、オープンソースを基盤に構築していることが多い。一方で、オープンソースは、セキュリティに脆弱性を抱えていることも多く、企業は思わぬリスクに直面することもある。そうした課題を解決するべく、「ソフトウエアのサプライチェーン」を守るプラットフォームを開発するのがSocket(本社:米カリフォルニア州)だ。Socketは事前にコードを解析することで、安全にソフトウエアを開発できる環境をつくっている。同社の創業者でCEOのFeross Aboukhadijeh氏に話を聞いた。

目次
優秀なオープンソースに思わぬ落とし穴
競合他社にはないSocket独自の強みとは
デジタル化遅れる日本に大きな商機も

優秀なオープンソースに思わぬ落とし穴

―Socketはソフトウエアの開発者のためのセキュリティ・プラットフォームを提供しています。なぜ、Socketのようなサービスが必要とされているのですか?

 大企業が開発する優れたソフトウエアも、自社のコードで全て完結しているわけではなく、元を辿れば何万もの「オープンソース」(自由に使用できる)を基盤に構築しています。これは開発スピードやカスタマイズの自由度という理由が大きいのですが、もしオープンソースに脆弱性があれば、サイバー犯罪を許してしまうリスクもあります。Socketは、大企業のソフトウエア・サプライチェーンを守るサービスを開発しているのです。

 そもそも、Socketは、私自身がオープンソースの開発者であったことが創業のきっかけになっています。私が2020年にSocketを創業する前、8年ほど様々な企業でオープンソースを開発していました。特にWebTorrentやStandard JSといったプロジェクトは、ブロックチェーン技術を活用した分散型システム、Pier to Peerであり、未来を感じさせるものでした。

 オープンソースを開発し始めた私は、最初は良いものではなかったのですが、時間が経つにつれ上達し、数年経つと、とても人気のあるオープンソースソフトウエアが私のコードを使うようになりました。そのうち、段々世界の名だたる企業も私のコードをダウンロードするようになりました。今ではそのコードの月間ダウンロード数は10億を超えるほどです。

 もちろん、私にとっては喜ばしいことだったのですが、同時に恐怖も感じました。というのは、もし私がミスを犯したり、セキュリティ上問題があるコードを書いたりしたら、世界中の多くの企業に悪影響を及ぼすことになるからです。オープンソースは蔦のように絡まり合っており、ひとつに侵入されると、被害はそこでとどまらず、それを使った多数のプレイヤーにまで広がります。

 基本的に、サイバー犯罪者は、脆弱性の高いシステムを優先的に狙います。実際、私の親友はオープンソースライブラリにバックドアを仕掛けられ、ユーザーのお金を盗む仕組みを作られたこともあります。私自身、オープンソースに由来するインシデントを数ヶ月に1回は聞いていました。

 私自身が開発者であったこともあり、オープンソースを含めた、ソフトウエア・サプライチェーンをいかにして守れるかを考え、Socketを立ち上げたのです。

―オープンソースにはそれだけ脆弱な部分があるのですね。

 はい。実際、2024年初頭に発見された「XZ Utils」によるバックドア事件*からわかるよう、今やオープンソースの脆弱性は国家安全保障の問題にまでつながってきています。

 今日ではありとあらゆる業界がSocketの利用者であり、AnthropicといったAI企業をはじめ、暗号資産やWeb3を扱う企業、米国の4大銀行のうちの一行、Fortune 100にランクインするような企業も顧客です。

*XZ UtilsはLinuxシステムで広く使われるオープンソースの圧縮ツールで、多くの企業や政府機関が利用している。同事件では中国・ロシアの関与が疑われており、XZ Utilsに意図的なバックドアが仕掛けられていて、リモートからLinuxサーバーに接続し、制御権を奪う可能性があった。

Feross Aboukhadijeh
Founder & CEO
米・スタンフォード大学でComputer Scienceの学士号、修士号を取得。Yahoo(現:Altaba)に買収されたPeeerCDNや、Study Notesなどのスタートアップを創業。2016年以降はBitMidiやBrave Software、WebTorrentなどの企業のOpen Source Developerとして活動する。2020年6月にSocketを創業、CEOに就任。

競合他社にはないSocket独自の強みとは

―具体的に、Socketはどのようにソフトウエア・サプライチェーンを守っているのですか?

 私たちのアプローチは、使用するコードが安全なものか「事前に」確認できるものになっています。従来のソリューションは米国政府が提供するNational Vulnerability Databaseに基づき、既知の脆弱性(すでに問題を検知したコード)を発見するものでしたが、Socketは一歩踏み込んで、未知の脆弱性に対する攻撃も防ぐことができます。

 具体的には、「静的コード解析」と呼ばれる、ソフトウエアを実行することなくコードの動作を仮想的に再現し、リスクを分析する手法を採用しています。マルウェアは挿入されていないか、不審な権限が要求されていないか、ライブラリの脆弱性はないかを解析するのです。

 その上で、LLM(大規模言語モデル)を使い、コードの品質やゼロデイ攻撃への対応を強化します。SocketのLLMは、「このコードが実行された場合、どのようなリスクが発生するか」というシナリオを提示し、リスクを潰していくのです。

 最後に、Socketが抱える専門家集団がこれらの解析結果をチェックします。AIが特定したリスクが妥当であるかや、コードの文脈に応じたリスク評価など、人間ならではの包括的リスク対応策を提言できるのです。

image : Socket HP

デジタル化遅れる日本に大きな商機も

 私たちは急成長を遂げています。Socketは現在、7,500もの組織で活用されていますし、GitHub上の30万以上のコードリポジトリを保護しています。2024年は400%の収益成長を記録しましたし、従業員も3倍ほど増えました。

―日本市場に参入する可能性はありますか?

 もちろんです。すでにアジアではシンガポールの顧客がいますし、日本の顧客がいればぜひ参入したいと考えています。

 日本はハイテク国家で、サプライチェーンにおいて、リスクもその分大きいでしょう。日本市場は他国に比べると、クラウドやAIといった分野で少し遅れていると感じます。今後、こうした分野に各業界が移行するにつれて、リスクも増えていくでしょう。Socketが求められる余地も大きいと考えています。

―日本市場への進出を考えた時、どのようなパートナーを求めていますか?

 代理店やチャネルパートナーといった形態がベターでしょうか。セキュリティの分野においては、基本的に顧客企業は代理店を通してソリューションを選びます。日本市場を知り尽くした代理店と話がしてみたいですね。

 他には、金融やAIといった分野の企業との提携にも関心があります。特にAIは単なるデータの集積ではなく、実際にコードを実行していますから、常にセキュリティリスクが発生します。Socketが未然に防げるリスクは多数あるでしょう。



RELATED ARTICLES
意外と「アナログ」だったレーダー技術 NVIDIA元幹部が開発したデジタル画像処理レーダーとは Uhnder
意外と「アナログ」だったレーダー技術 NVIDIA元幹部が開発したデジタル画像処理レーダーとは Uhnder
意外と「アナログ」だったレーダー技術 NVIDIA元幹部が開発したデジタル画像処理レーダーとは Uhnderの詳細を見る
既存の監視カメラをAIでアップグレード、製造・物流現場の安全性を向上 Spot AI
既存の監視カメラをAIでアップグレード、製造・物流現場の安全性を向上 Spot AI
既存の監視カメラをAIでアップグレード、製造・物流現場の安全性を向上 Spot AIの詳細を見る
宇宙の「ラストマイル問題」に取り組む、北海道大学発スタートアップ Letara
宇宙の「ラストマイル問題」に取り組む、北海道大学発スタートアップ Letara
宇宙の「ラストマイル問題」に取り組む、北海道大学発スタートアップ Letaraの詳細を見る
ソフトウェア開発のエンジニアと「共に歩む」AI 市場を席巻するGitHub Copilotがライバル Augment Code
ソフトウェア開発のエンジニアと「共に歩む」AI 市場を席巻するGitHub Copilotがライバル Augment Code
ソフトウェア開発のエンジニアと「共に歩む」AI 市場を席巻するGitHub Copilotがライバル Augment Codeの詳細を見る
自発的に学習する航空業界向けAI開発 精度バツグンの「ダイナミックプライシング」実現するFetcherr
自発的に学習する航空業界向けAI開発 精度バツグンの「ダイナミックプライシング」実現するFetcherr
自発的に学習する航空業界向けAI開発 精度バツグンの「ダイナミックプライシング」実現するFetcherrの詳細を見る
プラセボ治験者を「データ」に置換し臨床試験を短縮 Johnson & Johnsonとも協業するデジタルツインのUnlearn.ai
プラセボ治験者を「データ」に置換し臨床試験を短縮 Johnson & Johnsonとも協業するデジタルツインのUnlearn.ai
プラセボ治験者を「データ」に置換し臨床試験を短縮 Johnson & Johnsonとも協業するデジタルツインのUnlearn.aiの詳細を見る

NEWSLETTER

世界のイノベーション、イベント、
お役立ち情報をお届け
「オープンイノベーション事例集 vol.5」
もプレゼント

Follow

探すのは、
日本のスタートアップだけじゃない
成長産業に特化した調査プラットフォーム
BLITZ Portal

Copyright © 2025 Ishin Co., Ltd. All Rights Reserved.