「私たちの独自性は3つあります」。Skild AI CEOのディーパック・パタック(Deepak Pathak)氏は、そう切り出した。オムニボディードという発想。誰も追いつけない成果の動画。そして3つ目が、研究のデモで終わらせず、実際に現場へ展開していることだ。
前編では、あらゆるロボットを1つのモデルで動かす「頭脳」に同社が全てを賭ける理由を聞いた。後編で聞くのは、その頭脳がいまどこで動いているのか、そして人手不足が最も深刻な国の一つである日本に、この技術が何をもたらすのかである。ソフトバンク、住友グループ、三井グループ──日本企業との協業は、すでに始まっている。
目次
・デモで終わらせない、「現場展開」という差別化
・次の2年、データの好循環をどう回すか
・「工場を作り変えなくていい」という強み
・究極の使命はAGI
・日本のパートナー・顧客へ
デモで終わらせない、「現場展開」という差別化
―これほど独自性の高いアプローチを、ビジネスとしてどう展開しているのでしょうか。
まず、モデルからお話ししましょう。複数のやり方がありますが、私たちが向かっているのは「Robot as a Service(RaaS)」です。顧客にロボティクスのソリューションを丸ごと提供する形です。
たとえば「工場でGPUを組み立てるロボットが欲しい」「チップを作りたい」「配線を束ねたい」といったタスクがあるとします。ここで選択肢は2つ。1つは「ハードウエアは自社で持っている。ソフトウエアだけ提供してほしい」というケース。この場合、お持ちのハードウエアに私たちの頭脳を載せ、月額や年額で支払っていただくサービスとして提供します。もう1つは「ハードウエアがない」というケース。この場合は私たちがハードウエアを見つけてきて頭脳を載せ、展開したうえでサービスとしてお渡しします。どちらのモデルも機能します。
―頭脳単体を売ることはしないのですか。
現時点ではしていません。技術が非常に先進的で新しく、お客さまの側で学習させる方法をご存じないかもしれないからです。ですから初期段階の今は、私たち自身が微調整して提供しています。ただし目指しているのはRaaSです。すでにさまざまな用途で展開しています。
―似たアプローチを取る競合はいますか。
私たちはかなりユニークだと思います。まず、オムニボディード知能という発想そのものを考えている企業が他にありません。次に、公開してきた成果という点でもユニークです。当社のブログやウェブサイトの動画を見ていただければ、あの水準に近づいている企業はないとわかるはずです。発想でも、成果でも、私たちは先頭にいます。
そして3つ目が、実際に展開していることです。今年の数字は明かせませんが、昨年(2025年)の最後の数カ月だけで、3,000万ドルの売上を記録しました。今年はさらに伸びています。
💰 評価額140億ドル超、シリーズCはソフトバンクがリード
この売上については、同社も公式発表で「2025年のわずか数カ月で、稼働ベースの売上がゼロから約3,000万ドルへ成長し、複数の顧客とともに急拡大している」と説明している。同社は2026年1月、ソフトバンクがリードする14億ドルのシリーズCラウンドを発表。評価額は140億ドル超となった。NVIDIAのVC部門NVentures、Macquarie Capital、ジェフ・ベゾス氏(Bezos Expeditions)が参加し、Lightspeed、Felicis、Coatue、Sequoia Capitalが追加出資。戦略投資家としてLG、Schneider Electric、CommonSpirit、Salesforce Venturesも名を連ねた。2024年7月のシリーズAは3億ドルで、こちらもソフトバンクが出資者に含まれる。
(出典:Skild AI公式ブログ「Announcing Series C」「Announcing our $300M Series A Funding」)
次の2年、データの好循環をどう回すか
―今後1〜2年で達成したいマイルストーンは何ですか。
2つあります。1つは研究面のマイルストーンで、前編でお話しした文脈内適応の考え方を、限られたタスクからあらゆるタスクへ広げ、簡単に使えるようにすることです。
もう1つが「スケーラブルなデータの好循環(scalable data flywheel)」の確立です。展開すればするほど、その現場から頭脳へデータが戻ってくる。ですから私たちは、より多く、より多様なタスクへ展開してデータを取り戻さなければなりません。
そのために今、多くの新しい領域に入っています。倉庫、工場、電子機器やチップ・GPUの製造現場。モビリティの自動化として、配送、警備、点検の市場。そして最後に、最も大きいのがデータセンター市場です。今後2年の目標は、ロボットの展開数を増やし、そのデータを頭脳に戻し続けること。継続的なデータの好循環を確立することです。
🤝 ロボットOEMとの提携、倉庫領域の買収
展開の足場づくりは実際に進んでいる。同社は2026年3月、ABB Robotics、Teradyne Robotics傘下のUniversal Robots(UR)およびMobile Industrial Robots(MiR)、そしてNVIDIAとの提携を発表。産業用ロボットを「タスクごとにプログラムする」従来のやり方から、データから直接学ばせる方式へ切り替えることで、大規模展開と史上最大級のデータフライホイールの構築を狙うとしている。翌4月には、Zebra Technologiesのロボティクス部門(旧Fetch Robotics)を買収し、倉庫領域への展開を強化した。
(出典:Skild AI公式ブログ)
「工場を作り変えなくていい」という強み
―いま挙がった領域は、いずれも日本にとって重要なものばかりです。日本市場への展開や、協業の可能性を聞かせてください。
すでにソフトバンクと協業しています。それ以外にも、日本の複数の企業とすでに取り組んでいます。住友、三井などです。まだ名前を出せない企業もいくつかあります。
日本はロボティクスにとって大きな市場の一つだと考えています。労働力の問題が現実のものだからです。人手不足はすでに起きていて、今後5年でさらに加速するでしょう。私たちが作っている技術と、そのスピードであれば、工場の仕事のあり方を本当に変えられます。従来型ではなく、AI駆動です。コストは低く、適応性は高い。
そして最も大きいのは、この技術を導入するために工場を作り変える必要がないという点です。人間が働いている既存の工場に、そのまま入っていけます。
―既存の設備をそのまま使える、と。
その通りです。設備を変える必要はありません。ロボットが人間サイズだからです。
究極の使命はAGI
―より長期のビジョンはどうでしょうか。5年、10年先をどう描いていますか。
長期のビジョンは、実は博士課程の頃の問いに戻ります。知能を理解することです。
現実世界における物理的推論を理解し、手で高度に器用な作業ができ、どこへでも移動でき、基本的な問題を解ける頭脳。それを作れたなら、その頭脳こそが私たちをAGIへ導くものになる。私はそう信じています。
―Wikipediaを学習するだけでは、そこへは行けないと。
Wikipediaの記事を学習するだけでAGIが実現するとは思いません。私たちが作っているオムニボディードな頭脳──高度に器用な作業をこなし、汎化し、転移し、問題を解ける頭脳──が、AGIに到達するための根本的な基盤になります。それが究極の使命です。
日本のパートナー・顧客へ
―最後に、日本の潜在的なパートナーや顧客へメッセージをお願いします。
まず、私たちが出してきた成果をすべて見てください。度肝を抜かれるはずです。まったく異質な技術ですから。
そのうえで、もしあなたの現場に物理的な労働のニーズがあるなら、5年後、10年後を見据えて考える必要があります。今後5年はどうなるか。24時間365日働く人材を、必要なだけ雇い続けられるか。人間がミスを繰り返し、スループットが上がらない作業はないか。危険で、人間には向かず、慢性的な負担になる作業はないか。
そうした課題に対してこの技術を導入したいと考えるなら──正直に言えば、これはまだ非常に萌芽的な技術です。とても早い段階にあり、完全には整っていません。しかし、完全に整ったときには、もう遅すぎるのです。
言語モデルを考えてみてください。登場してからすでに4年以上経ちます。それでも企業は完全には使いこなせていない。しかも言語ははるかに簡単な問題で、設定も小さい。その言語ですらまだ終わっていないのに、ロボティクスは物理空間と物理的なモノを必要とします。だから、早く始めなければならない。5年後ではなく、今から考え始めるべきです。そうしなければ、競合が先に考え、先に行ってしまいます。
―日本は超高齢社会です。まさに、この種の技術が必要とされています。
韓国にも同じ問題が来ています。だから私たちは、韓国企業とも非常に強く取り組んでいます。どの国もそちらへ向かっている。米国もそうです。