人の手に依存している血液や尿のサンプル検査を「自動化」する機器を開発するSigTuple Technologies(シグタプル・テクノロジー、本社:インド・バンガロール)。白血病やデング熱の検査にはサンプルが必要だが、専門の顕微鏡の操作はプロセスの約95%を人の手に頼っている。さらに、インドでは地方の病院に顕微鏡を扱える病理医がいないことも多いという課題もある。シグタプルの製品を使えば、遠隔地からの病理医による検査が可能になる。共同創業者でCEOのTathagato Rai Dastidar氏に話を聞いた。

目次
インド郊外の患者を遠隔から診断できる
「インドの人口の多さ」が病理データの豊富さに
日本市場はぴったりのマーケット

インド郊外の患者を遠隔から診断できる

―シグタプルはどのような問題を解決する企業なのでしょうか。

 当社が解決する問題を端的に説明すると、「ロボット工学とAIの技術を活用し、血液・尿サンプル検査を自動化する」ことになります。

 主な製品は、血液・尿・細胞サンプルの自動顕微鏡検査を実現する「SigTuple-AI100」です。同製品は、ロボットアームやカメラといったハードウエアとサンプル画像を自動的に分析するソフトウエアが搭載されています。これを使えば、医師は世界のどこにいても、サンプルをブラウザ上で確認・分析できるのです。米食品医薬品局(FDA)の承認も得ています。

 なぜ、同製品が画期的だと言えるのでしょうか。その答えは、血液や尿、細胞のサンプル検査のプロセスの95%程度が人の手に頼ったものだったからです。

 医師がサンプルを直接確認するしかない場合、(医師は)研究室に常駐する必要がありますし、担当者による精度のばらつきや疲労による精度低下も避けられません。結果的に検査に時間がかかってしまうほか、クオリティも安定しないのです。当社の製品を使えば、サンプル検査の時間を大幅に短縮でき、安定して高精度の検査を行うことが可能になります。

 例えば、われわれの顧客の大半を占めるインドにおいては、SigTuple-AI100を導入する病院の大半が主要都市の中心部以外にあります。これらのエリアにおいては、専門家が常駐していません。そうした田舎の病院でもわれわれの機器を使えば、中央にいる病理医の遠隔診断によって検査ができるようになるのです。

image : SigTuple Technologies 「SigTuple-AI100」

―具体的に、どのような病気の検査をするのでしょう。

 たくさんの症例の検査に応用できます。あらゆる血液がん、白血病、貧血、血小板障害をはじめ、デング熱などのウイルス感染も調べられます。要は、専門家が顕微鏡の助けを借りてできることはなんでもできるのです。

 特に、インドでは、血小板障害につながるウイルス性疾患の早急な検査体制の構築が求められています。われわれが果たすべき責任は大きいのです。

Tathagato Rai Dastidar
Co-Founder & CEO
インド工科大学(IIT)カラグプール校でコンピュータサイエンス&エンジニアリングの博士号を取得後、National Semiconductorでソフトウエアエンジニアとして勤務。その後、Yahooでの勤務や起業経験、American Expressでビッグデータを担当する。Tribune Digital Venturesでシニアディレクターを務めた後、SigTuple Technologiesを共同創業。

「インドの人口の多さ」が病理データの豊富さに

―競合他社とは、どのような点において差別化を図っていますか。

 われわれは、FDAによって承認を受けた自動顕微鏡システム開発者の3社の中の1社です。競合他社との最大の差別化要因は、私たちの製品が高品質で安いことでしょう。なぜ価格を下げられるかというと、インドで製造するメリットがあります。

 それ以外にも、独自に開発したアルゴリズムの影響力がハードウエアよりも大きいこともあげられます。他社は基本的にハードに力を入れています。

 このアルゴリズムにはインドという世界最大の人口を抱える国の膨大なデータを学習させており、先進国よりも病理データの量が豊富です。こうした面がわれわれの差別化要因だと言えます。

―これまでの成長を示す数字を教えてください。

 商業化から2年半で、着実に設置台数が増えています。現在ではインドをはじめ、東南アジアや北アフリカ諸国で180以上導入されています。

―インド工科大学でコンピュータサイエンス&エンジニアリングの博士号を取得後、さまざまなIT企業での勤務を経て、起業に至りました。アイデアを思いついたきっかけは?

 前職でAIの分野で多くの経験を積んできました。起業を検討する際に、「生活によい影響を与えるような企業を作りたい」と考えていたのです。

 真っ先に目をつけたのはヘルスケアという分野。ヘルスケアでは多くのデータが生成されていますが、そのほとんどが未使用のまま眠っているからです。中でも、医療という分野に関しては興味がありました。というのも、インドではほとんどの人が人生の何かしらのタイミングで医療に関して嫌な経験をしているからです。私自身、間違った病気の診断のせいで親しかった人を亡くしたこともあります。今後、AI技術が成熟し、実用的になっていくことでデータを使えば誤診がなくせるのではないかと思ったのです。

 ただ、医療領域は大海のようなもので、最初はどこから手をつけていいのかわかりませんでした。幸運なことに、私たちの下に数人の先見の明がある病理医が来てくれて、彼らが自らの臨床検査室でサンプル検査に関する問題を打ち明けてくれたのです。

image : SigTuple Technologies HP

日本市場はぴったりのマーケット

―日本市場進出は考えていますか?

 日本市場はわれわれにぴったりなマーケットだと思います。実際に現在、日本ではテストが進行していて、廉価で高品質なシグタプルの製品は受け入れられるだろうとの分析を調査会社から得ています。

 現在は、日本における適切な販売パートナーを探しているところです。われわれはインド市場においてHORIBA Medical(HORIBA ABX)とパートナーを組んでいます。日本でも、現地事情に精通したパートナーと協議をしてみたいですね。

―日本では急速に高齢化が進んでいて、社会保障費の削減は1つの政治的アジェンダになっています。

 その点も重要ですね。実際、日本においては1人当たりの検査数はどこの国よりも多いのです。自動化は待ったなしの状況だと言えるでしょう。また今後、高齢化が進むにつれて、医療に対するニーズは増えていく一方です。

 さらに日本は医療の質に対する意識も高いため、シグタプルが目指しているビジョンと合致するでしょう。

―具体的に、どのような分野でビジネスを行うパートナーと提携を組みたいと考えていますか。

 すでに医療機器を販売している企業をはじめ、代理店やこれから医療機器分野に参入しようとする大企業に注目しています。パートナーシップの形態については、特にこだわりはありません。

―最後に、向こう1年間で達成したい目標を教えてください。

 新製品の投入と、北米・欧州・日本への参入です。そしてこれらの市場で必要な規制上の認証も取得することです。欧州や日本での規制に関しては、FDAの認可が下りていてすでに規制当局が管理しているデータや臨床データが存在しますから。それほど長い時間がかかるとは考えていません。



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