ドローンなどのロボティクス技術とソフトウェアの連携を通じて、社会・産業インフラの設備点検、災害対策などにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)をサポートするセンシンロボティクス(本社:東京)。「労働人口の減少」「インフラの老朽化」「災害の激甚化」という日本の社会課題解決に向け、産業用ドローンやカメラ、スマートデバイス等を活用した業務ソリューションを提供している。代表取締役社長CEOの北村卓也氏が入社した2018年から3年間で売上高ベース900%の成長を記録している同社。高い成長率の背景にある事業内容や同社の強み、今後の展望について、北村氏に聞いた。

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社会課題の解決策としてのロボティクス技術

 センシンロボティクスの設立は2015年。ウェビナー・Web会議などを中心としたビジュアルコミュニケーションサービスの提供を行うブイキューブの代表取締役会長であり、現在はセンシンロボティクスの非常勤取締役を務める間下直晃氏が創業者だ。設立のきっかけは、間下氏が趣味でドローンを飛ばしていたことだった。すでにリアルタイムコミュニケーションや映像配信の仕組みを持っていたブイキューブの技術とドローンというハードウェアを結合させて、俯瞰した映像を使っての価値向上を目指すための新事業として立ち上げ、その後、外部資本を受け入れ、カーブアウトという形で独立した。

 現在、センシンロボティクスは、少子高齢化による労働人口の減少や、高度経済成長期時代に作られ、老朽化している社会及び産業インフラ、自然災害といった日本の構造的な社会課題の解決に挑む。これらの課題に対する有効的な解決策として、デジタル技術やロボティクス技術は実効性が高く、サステイナブルだと同社は考えている。北村氏は「現役世代だけではなくて、子供世代、孫世代にこういう課題を残したくありません。自分たちで課題を解決できる可能性が少しでもあるのならやってみよう。これらの課題をテクノロジーでもって解決したいという人材が集まっている会社なんです」と語る。

北村卓也
センシンロボティクス
代表取締役社長CEO
日本IBMを経て、2008年より日本マイクロソフトでコンサルティングサービスビジネスの立ち上げなどサービス営業担当部長として従事する。2016年からはSAPジャパンでビジネスアナリティクス部門で機械学習を中核としたデータアナリティクス事業を推進。2018年にセンシンロボティクスに営業部長として入社し、2019年8月から現職。

自動化技術が注入された「SENSYN CORE」 プラットフォームの優位性

 センシンロボティクスは、DXを推進する業務自動化クラウドソリューションとして、業務アプリケーション、クラウドプラットフォーム、デバイスの3層のレイヤーに分けて設計されたプロダクトを展開している。一番下のレイヤーは、データ収集のためのロボット・デバイス・センサー群で、国内外のドローンや自動走行ロボットから、スマートフォン、スマートグラス等も駆使する。

「ハードウェアデバイスに関しては、できるだけ自社開発をしないようにしています。私たちはあくまでもソフトウェアのカンパニーなんです。優秀なデバイス群はできるだけ汎用的なものを採用するという風に決めています。一部、それに当てはまらないものはカスタマイズもします」

Image: センシンロボティクス HP

 2つ目のレイヤーは、「SENSYN CORE」と呼ぶデータ分析・ロボット制御クラウドプラットフォームであり、同社のこだわりである自動化技術が導入されている。このプラットフォームには、ロボット経路計画やAIによる画像解析及び統計分析、3Dモデルの作成、リアルタイム映像の配信など、デバイス群を使用する際に必要になる機能群が揃い、同社の強みがここに現れる。

「ドローンも含め、ロボット群は扱うには高度なITリテラシーを伴います。また、法律もどんどん変わるので、それにフォローしなくてはいけません。そういうところをカバーして、吸収するために、我々は自動化技術にこだわり、その自動化技術をこのプラットフォームに注入しています。機能群をモジュール開発して、このプラットフォームにどんどんためていき、強化しています」

 さらに、この上に業務アプリケーションである「SENSYN Apps」を提供する。誰もが簡単に使えるデータ活用のためのアプリケーションとして、ユーザーが、パソコンまたはタブレットでワンタッチ、ツータッチで、簡単に処理することを可能にする。ソーラーパネルや石油タンクの点検、鉄塔や送電線の点検、工場屋根点検、計器・配管点検、風車点検といったテーマや課題に合わせたユーザー・インターフェース(UI)を備えたデザインとなっており、アプリケーションに触れるだけで仕事を代替してくれる領域まで高めている。

 センシンロボティクスの強みはプロダクトのみに留まらない。同社は、ソリューションのコアとなる機能・コンセプトを積極的に特許化することで、技術アドバンテージを確保しており、特許出願件数は93件、そのうちコア特許は22件にも上る(2022年7月取材時点)。

 また、業界のトップといわれるような大企業と協業してプロダクトを開発しているのも大きな優位性となっている。中部電力パワーグリッドとは、鉄塔及び送電線そのものを一括で点検する仕組みとして、ドローンを活用した送電設備自動点検技術を開発した。

 コスモ石油千葉製油所とドローンによる監視システムの実装化に向けた実証実験を実施した。コベルコ建機とは、遠隔操作における建設現場の見える化機能の実装に向けた協業、フジタとはトンネル坑内自動巡視ドローンシステムを開発し、360度カメラでVR空間を生成する。

 さらに、国土交通省が進める3D都市モデル整備・活用・オープンデータ化のプラトー(PLATEAU)プロジェクトでも、センシンロボティクスは「3D都市モデルとBIMを活用したモビリティ自律運行システム」のコンソーシアムに参画し、ドローン及び無人搬送車両の自律運行システムの開発と「空と陸」の新たなモビリティサービスの実現を目指している。

「顧客との共創」と「プロダクト」の二枚看板

 北村氏が入社した2018年から2021年の3年間での売上高ベースの成長率は900%を記録する。成長を実現している理由の一つはビジネスモデルを大きく変えたことだという。

「創業時のセンシンロボティクスは、ドローンと映像をリアルタイムで配信する仕組みということを売りにしていましたが、顧客とプロジェクトを起こす共創型のビジネスモデルとそこから派生して作られるプロダクトという二枚看板の事業構造に変えました。共創型でビジネスを作るのも収益になり、ここから作られたプロダクトをサブスクリプション型で売っていくのも収益になっています。この2つの収益モデルを持つ点が、当社が強くなった証だと思います」と北村氏は手ごたえを語る。

 資本提携に関しては、「いつもオープンで、中立性を重んじて仕事をしていきたいと思っています。私たちは、キャッシュという資金だけが欲しいのではなくて、大企業が持つアセットが重要だと考えています」と北村氏は説明する。

 センシンロボティクスは、ENEOSイノベーションパートナーズから出資を受けており、2021年11月にはENEOS川崎事務所の施設内に共同でドローンショーケース兼実証フィールドとして「ENEOSカワサキラボ」を開設した。

 元々石油プラント施設であったENEOSカワサキラボでは、使用を停止したプラントの実設備を活用し、実際の点検環境に近い形でドローンの稼働試験を行うことで実用化に向けた検証を行うことができる。また、都心にも近い神奈川県川崎市のエリアにあることなどからアクセスも良く、来場者に点検デモンストレーションを実際に見学してもらうことで、より具体的な活用イメージを持ってもらうことができるという。センシンロボティクスにとって自社のソリューションの研究を進め、安全性、優位性を確保するためのラボとして最適であった。

「我々のために開放してほしいと1年以上交渉を重ねました。まずはこういったラボで研究を進めて、我々のソリューションを磨きこんで、ここで安全性とか優位性が担保されたものを実際の現場にもっていきます。なおかつそこから見えてきた課題をラボに持ち帰り、フィードバックして磨いていきます」

「その過程自体も『見える化』して、企業の皆さんはもちろん、政府や自治体にも共有し社会的な財産にしてもらうために、ラボ検証をショーケースとして作りました。こういう取り組みを、日本の大企業をはじめ、いろいろなパートナーさんたちとやっていきたいと思っています」

 また、企業、地方自治体、政府との今後の提携に関して、北村氏はこう語る。「私たちは新産業のリーディングカンパニーとして自分たち自身を捉えています。当社の取り組みを可視化して、世の中に問うていくことを使命だと思っています。ですので、毎月必ずプレスリリースは打つように決めています。今後も提携は必ず増えていきます」

ウェブ、AI、ロボティクスに精通した優秀なエンジニア

 さまざまな事業者との共同開発なども含め、先例のない事柄にも挑戦していくセンシンロボティクス。スピード感を持って結果を出していくことにこだわりを持つ。

 スピード感を実現する際のテクノロジーサイドの強みとして、北村氏が入社した2018年から従業員数は現在、3.5倍増となる110人以上となった。ウェブエンジニアに加え、ロボティクス、AIなどの技術に精通した優秀なエキスパートエンジニアのリソースを確保する。

「当社は実はロボットを作れますし、ドローンも作れます。それだけの技術はしっかり持っています。世界中のハードウェアを使おうとしてもしっかり目利きができないと、良し悪しを判断できないですし、それをお客様に訴求できません。その判断ができる材料はやはり、自分たちで開発できる力を持っているからこそです」

「ロボットを動かす結果としてデータが集まってきますが、そのデータを昔は解析のためにAIカンパニーに出していましたが、それを自社で全部行えるようになりました。また、プラットフォームを自社で持っておりますので、導入先に応じたアプリだけ開発すればよくなっているように技術を磨き込んでおり、高速開発ができる点が特徴です」

国内の先行事例を用いて海外展開を仕掛ける

 センシンロボティクスは、2022年度中にいくつか実験的に海外展開を仕掛けていく予定だ。日本国内で成立したプロダクトや先行事例を用いて、同じような課題感を持っている国、地域に対して解決策を提案していく。

「我々の日本で培っている技術や、お客様と一緒に作った解決策というエビデンスを有効活用したいので、エッジがきくような、私たちがやっていることと近しいような領域を持っている海外領域を狙っています。ただ、一概に特定のこの国、というのはあまりありません。当社はドローンやロボットを扱っていますが、国によってはテロ抑止の観点からドローン飛行の規制なども進んでいます。当社は各国の規制やしきたりなどを理解しながら慎重に選んでいます」

 日本のトップカンパニーと作り上げたプロダクトを、海外にも提供していく。それによってより幅広い導入事例を作っていくことを目指す。

 将来的には、どのように事業を進めていくのか。北村氏は将来展望についてこう語る。

「当社は、社名に『ロボティクス』とあるので、ロボットを販売する会社だと見られがちですが、そうではなく、ロボットやドローンは『手段』なんです。現代において、データを使って何を成し遂げる必要があるのか、どんな課題をどう解決すると、社会にどれだけのインパクトがあるのかを、定性・定量で明らかにしていく必要があります。その中でも中核になるのはやはり『データ』であり、データを扱うソフトウェア技術です。ですので、まさに社会課題を解決するソフトウェアカンパニーとして高度に成長していきたいというのが中長期の目標です」

 社名の「センシン」は、「先進」「専心」「潜心」の意味を込めている。英語表記にしたときの「SENSYN」は、「Sense(感知する・理解する)」と「Synchronize(同期させる・共に進む)」の組み合わせで、共創・協働の意味を込めた。顧客の課題、そして大きな社会課題に対して、組織や分野の壁を越えて連携し、ロボティクス技術とソフトウェアの力でソリューションを提供するという決意が込められている。SENSYN ROBOTICSの名が海外でも広く目にする日も近いだろう。

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