現場作業員にハンズフリーで操作可能な産業用ウェアラブルソリューションを提供するRealWear(本社:米ワシントン州)。フラグシップ製品「HMT-1」「HMT-1Z1」、そして2021年12月に発表した「RealWear Navigator 500」といったプロダクトは、遠隔地の専門家とのコミュニケーションやコラボレーション、ビジュアルアシスト、デジタルワークフローの実行、IoTデータの視覚化を現場作業員に提供する。同社の製品は、全世界で約6.5万台を超える販売実績を持ち、市場をリードしている。日本ではRealWear Japanを設立し、600社以上が同社製品を導入している。2016年よりRealWearに参画し、2020年にCEOに就任したAndrew Chrostowski氏に、同社の設立経緯、今後のビジョンについて話を聞いた。

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現場作業員のニーズに応え、産業用ウェアラブルコンピューターの市場をつくる

――御社は産業スマートグラスを展開した先駆的な企業です。RealWearのストーリーを教えてください。

 RealWearは、重量やバランス、人間工学を考慮した装着方法、メニューの操作方法、ハンズフリーでの操作方法など、あらゆる点を考慮したウェアラブルコンピューターの課題に10年近く取り組んできたChris Parkinson氏(Co-founder & CTO)と数名の創業者によって、2016年に設立されました。

 RealWearのビジネスの原点は、現場作業員にデジタル環境を提供し「コネクテッドワーカー」にすることで、より価値が高く、より安全で生産的な仕事ができるようにすることです。そして、それは今も変わっていません。

 私たちは、この市場を創り出すのは自分たちだという考えでスタートしました。2016年、2017年に「産業用ウェアラブルコンピューターが欲しい」と言った人は誰もいませんでした。しかし、私たちは現場作業員のニーズに応えただけなのです。そして、現場で使うのに最適なフォームファクターとハードウェアソリューションを提案し、それを普及し始めました。

Andrew Chrostowski
RealWear
Chairman & CEO
オレゴン州立大で工学物理学の学士号を取得した後、米空軍に約10年間所属。将校として、コマンドコントロールコミュニケーションとインテリジェンスの研究開発等に携わる。南カリフォルニア大学(USC)にて、システム管理の修士号取得後、Spectrol Electronics、日立、ファイザー、Energizer等、消費者製品の分野でビジネスを手掛け、産業エンジニアリング企業Scott Safety, A Tyco International CompanyのPresidentを務めた。

2016年よりRealWearに加わり、Chairman Advisory Board & Audit Committee Member、COO、Chairmanを経て2020年3月にCEOに就任。また、Rogers Groupの役員、取締役会のパフォーマンスとデジタルガバナンスの卓越性の向上を目的としたDigital Directors Networkの創設エグゼクティブメンバーも務める。

 その結果、コラボレーションを扱う世界の3大企業であるMicrosoft、Cisco、Zoomが当社のパートナー企業となり、密接に連携するようになりました。Microsoft Teams、 Webex Expert on Demand、Zoomは当社のデバイスで動作するように最適化されています。そのほかにも、当社のシステムに適合するソフトウェアを作っている数多くの企業と連携しています。

カメラの進歩、ニーズの変化に合わせてアップグレードが可能

――御社のフラグシップ商品「HMT-1」「HMT-1Z1」に加えて、2021年12月には、モジュール式でより軽量/スリム化された「RealWear Navigator 500」が発表されました。御社の製品の特徴について教えてください。

 私たちのデバイスは、Android OSベースであるため、アプリケーションのインポートが非常に簡単にできることが、優位性の一つとなっています。

 昨年発売した「RealWear Navigator 500」は、当社の主力製品「HMT」の第2世代にあたります。RealWear Navigator 500は、ライフサイクルを長くするために、モジュール式のプラットフォームとして開発されました。

 例えば、カメラ技術の進歩は非常に早く、多くの人が新しいカメラが搭載されたからということで、スマホを買い替えます。RealWear Navigator 500では、48メガピクセルの高解像度、低照度の高性能カメラを搭載していますが、カメラが変われば、クリップを外して、新しいカメラを搭載できるようにしました。ですから、カメラ技術が急速に変化しても、それを簡単にアップグレードすることができるのです。

Image: RealWear

 バッテリーは交換可能で、ホットスワップ可能なバッテリーを備えているため、新しいバッテリーをスナップインして、作業を続けることができます。接続性にも優れています。Bluetoothと無線LANで繋がるのは当然ですが、4Gや近い将来5Gのモデムを接続できるようにしました。また、直近では赤外線カメラ(サーマルカメラ)を発売しました。これにより、作業者は普段見えない温度差を見る事ができるようになり、まるでデジタルの目を手に入れたような感覚になります。

 HMT1は、頑丈で最適化された製品でしたが、RealWear Navigator 500では30%軽量化し、高速なプロセッサとHMT1と同様な頑丈さ、そしてモジュール性を備えたことで、現場作業員のニーズの変化に合わせて進化し続ける能力を持つ、大きな飛躍を遂げた製品となりました。

自動車、製造、エネルギー、さまざまな業界で導入

――御社のメインターゲットを教えてください。

 メインターゲットは、全ての第一線で働く人たちです。当社の最大顧客である米フォード社は、米国では約3,500台、グローバルでは5,000台以上の当社製品を導入しています。

 修理が困難な車種があった時に、現場作業員が当社のウェアラブルデバイスを介して、専門家による遠隔作業支援を受けるユースケースがあります。専門家は現場作業員が目にしているものと同じものを見ることができ、現場作業員に対して的確な指示を出すことができます。あの回路じゃない、こっちの回路だ。あのブレーカーじゃない、こっちのブレーカーだというように、まるで肩を並べて作業をしているような感じです。

 このような遠隔地とのコラボレーションは、業界を問わず重要なユースケースとなっています。自動車や石油、ガス業界では、ダウンタイムが非常に高くつくので、このような用途に使われています。ダウンタイムが高くつくようなシステムは、当社のリモートコラボレーションにとって理想的な顧客です。人材が現場に自動車、飛行機等で移動することなく、テクノロジーを使って問題を迅速に解決し、より効率的に物を使うことができるのです。製造業、消費財メーカー、医薬品、ロジスティックスも好調な分野です。

Image: RealWear

――日本では、どのような成長戦略を描いていますか。

 日本は、私たちの主要な市場の一つです。現在、日本では600社以上がRealWearの製品を導入しており、6,000台以上のデバイスが稼働しています。製造業、ガス、水道、電気のインフラ企業で主に導入されています。

 また、日本政府は2021年にデジタル庁を発足しましたが、リモートコネクトテクノロジーの普及を強化しようとしています。これは良い動きで、すべての自治体や都市が遠隔アシスタント技術を採用すれば、突然大きく次の段階に進むことになるでしょう。また、パンデミックもリモートコネクトテクノロジーの導入を政府が進める大きなきっかけとなりました。

 パンデミック期間に、当社のビジネス売上のサイクルは3倍になりました。パンデミックにより、ハイブリッドワークが今後も続くという理解が広がりました。全員がオフィスで仕事をするわけではないことが当たり前になってきているように、現場作業員がより効果的に仕事をこなし、無駄な出張を避けることで企業としてより環境に優しい働き方を進めることができることを多くの人が理解し始めました。

クラウドで、デバイスとデータの相互作用が生み出す価値を高める

――資金調達についてお伺いします。2022年6月のシリーズCラウンドでは、2,500万ドルを調達されました。その使途について教えてください。

 新製品の開発です。私たちのパイプラインには、第一線で働く人々のさまざまなニーズに対応するための、実にエキサイティングなイノベーションが数多くあります。2022年8月には、クラウドソリューションである「RealWear Cloud」を発表しました。

 RealWearデバイス群の制御をリモートで安全に効率化することができます。このクラウドとソフトウェアアプリケーションを基盤に、製品をさらに発展させたいと考えています。最終的には、価値を生み出すのはハードウェアだけではありません。デバイスと、そこにある双方向で利用可能なデータとの相互作用が重要なのです。

 つまり、ユーザーはクラウドからデバイスの情報を引き出せるだけでなく、ビジネスにフィードバックする情報源としてデータを有効活用できます。このように、デバイスからデータ、そして意思決定というループが重要になってきます。

第4世代の産業の進化へ 「人間中心」のデバイス提供へ

――御社の短期的、また長期的ビジョンを教えてください。

 短期的に私たちが目指していることは、顧客のニーズに応えることです。各ユースケースを理解するために、顧客とのエンゲージメントを深めることに情熱を傾けています。これを軸に、カスタマーサポートを再編成し、当社のデバイスがどのように使われているか、当社が他の機能や他のソフトウェアソリューションを追加した場合にどのような効果があるかを理解することに、多くの重点を置いています。

 これからは、最前線の作業員がデジタルで繋がっていない企業は、競争上不利になります。私たちの使命は、20億人の全ての現場作業員を「コネクテッドワーカー」にすることで、働き方を改革し、誰もがインテリジェンスに富んだ情報にアクセスできるようにしたいのです。そうすれば、より多くのデータをより多くの文脈で入手でき、より質の高い意思決定ができるようになります。

 私たちの長期的なビジョンは、オートメーションや第4世代の産業の進化において、人間中心のデバイスを提供することです。人が価値を持ち続け、有意義な形で貢献し続けられるようにすること、つまり、仕事の必要性を満たし、成し遂げ、支援する方法を見つけるという長期的な挑戦を続けていきます。我々の業界、企業、そして社会を支えるために。

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