これまでクラウド側で実行されることが多かったAIを、エッジデバイスで動作させることにフォーカスしたプロセッサを提供するHailo(本社:イスラエル・テルアビブ)。同社のチップは、膨大な量のデータをリアルタイムに計算する能力を持ちながら、ほかのプロセッサと比べ消費電力を抑えることに成功した。イスラエル国防軍で勤務した後、同社を共同創業したCEOのOrr Danon氏に、製品の特徴や、日本市場でのスマートエッジAIの事業展開について聞いた。

AIに特化することにより、高い演算能力とコンパクトさを両立

 自動車やスマートシティ、インダストリー4.0など、さまざまな業界において、より現場に近いエッジ側でのスマートなコンピューティングの活用が求められている。Hailoは、こうしたエッジテクノロジーに大きく貢献することを使命とし、コンパクトで効率的なAIプロセッサを製造する。2021年10月、シリーズCラウンドで1億3600万ドル(約177億円)の資金を調達。評価額が1億ドルを超え、ユニコーン企業となった。

 Danon氏は、イスラエル国防軍で10年以上にわたり勤務し、多くの責任を負うことに加え、新しい技術や複雑な問題に取り組むことを学んだ。その後、Texas Instrumentsの無線部門の責任者だったAvi Baum氏(現Hailo CTO)と出会い、エッジAIの可能性に魅力を感じ、2017年にHailoを共同創業した。

 HailoのエッジAIプロセッサ「Hailo-8」は、最大26テラオペレーション/秒(TOPS)の演算能力を持ち、サイズはコンパクトで消費電力も低い。エッジでの視覚データ認識処理など、AIのワークロードをより効率的に行うことができる。同社ではこうしたプロセッサを設計し、チップそのものやモジュールを販売している。典型的なコンピュータのアーキテクチャは、条件に応じて振る舞いを変える非常に長い意思決定の制御フローを経て成り立っているが、Hailoのアプローチは異なり、視覚的なデータを入力してニューラルネットワークによって処理することに特化している。

Orr Danon
Hailo
Co-Founder & CEO
The Hebrew University of Jerusalemで物理学を専攻し、2006年からイスラエル国防軍に所属。ハードウェアやソフトウエア開発のエンジニアとして、またグループリーダーとして2016年まで勤務。2012年〜2016年にはTel Aviv Universityの修士課程で科学や電気・電子工学を専攻した。その後Texas Instruments出身で現CTOのAvi Baum氏とともに2017年にHailoを創業した。

「近年、AIは多くの問題を解決するのに非常に有効とされています。カメラセンサーなどの情報を処理することで、過去に不可能だったタスクを解決することができるようになりました。AIの処理は膨大な量の計算を必要とします。一般的な処理を行うCPUよりも3桁以上も多いです。さらに、GPUなら大量の電力を消費します。CPUやGPUが汎用的なタスクのために設計されているのに対して、当社のチップはニューラルネットワークに特化しているため、その作業負荷に対してより効率的に処理できるのです」

 例えば、ドローン本体でAI処理をさせるためにGPUを搭載しようとすると、十分な電力を供給するためには、ドローンの重量も重くなる。何かを運搬するドローンなら、その連続稼働時間や積載量が減ってしまうだろう。このようなシナリオにおいて、消費電力を抑えて非常にコンパクトなHailoのチップが優位になるのだ。

NECとの協業や、ルネサスエレクトロニクスとの提携も

 テルアビブに本社を構えるHailoは、米国シリコンバレーやドイツのミュンヘン、台北、そして東京などにもオフィスを置いている。日本法人であるHailoジャパン合同会社の代表取締役社長は元ソニーの内田裕之氏だ。世界中の企業がHailoのチップを使ったプロジェクトは200を超え、農業や産業オートメーション、ロボット、運転支援システム、セキュリティ、監視、小売分析など、利用分野も多岐にわたっている。インドや中国へも事業を展開している。

「日本からはNECが投資をしてくれています。ご存知の通り、スマートシティに活用されるビデオ分析アクセスコントロールの世界的なリーダーで、複数のプロジェクトを展開しているNECグループは非常に早い段階で当社への投資に参加しています。市場ニーズなどを教えていただき、とても助かりました。イスラエルと日本の文化は違っており、問題に対して異なる角度からアプローチできます。お互いが敬意を持って取り組めばそれぞれが良い結果を得ることができるのです」

 Danon氏の取材は2022年5月上旬に実施したが、同月の中旬には東京を訪問する予定だと話した。その目的は日本の顧客やパートナーに会うことで、それには自動車業界向けチップの大手であるルネサスエレクトロニクスも含まれるとした。

 Danon氏は「私たちは、ルネサスエレクトロニクスが取り組むR-Carコンソーシアムの一員です。彼らが持つ自動車産業向の強力な製品を当社の専門技術で補完し、共に非常に強力で堅牢なソリューションを作り上げているのです。今回の提携は非常に喜ばしいことです」と期待を寄せた。

Image: Hailo

日本企業はエッジAIにおいて重要な力を持つ

 Hailoでは今後、顧客のアプリケーション開発をサポートする人材育成を行い、AIの実装のためのテンプレートなどのソフトウェア提供も拡大していく。Danon氏は「最近、自動車のナンバープレートを認識するためのテンプレートを発表しました。これは、スマートシティのシナリオの一部で、交通違反を監視したり、アクセス管理者の位置を特定したりするために、カメラからの映像を分析するものです」とその例を示した。

 2022年春にはプロトタイプや実証を容易にする「Hailo-8 センチュリー評価プラットフォーム」の提供も開始した。顧客が製品を迅速に市場に投入できるようなサポートを強化しているのだ。

 日本をはじめ、多くの先進国が高齢社会となる可能性のある未来において、エッジAIは強く求められる技術となるだろう。Hailoは、日本の自動車分野やスマートシティだけでなく、トラクターなどの農業機械やフォークリフト・工作機械など作業環境の安全性を向上する機器を提供する企業との長期的なパートナーシップも求めている。Danon氏に日本のビジネスパーソンへのメッセージを求めると、次のように語った。

「今の日本はAIの世界で重要な力を持っていると信じています。私たちが提供している技術や製品、サービスから恩恵を受けることができる使用例について、非常に興味を持たれています。私たちには強い信念があり、現場にいて互いに投資し合うことも、関係の一部だと考えています。ですから、特に日本市場においてより多くのパートナーを探しています。企業同士が協力し合うことはとても良いことだと思いますので、ぜひご相談ください。私もたびたび東京のオフィスに訪れることもありますので、皆様とお話できることをとても楽しみにしています」



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