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AIによる機械学習で競合他社の情報を集めて整理し、企業向け情報プラットフォームとして提供するKlue。従来、営業担当者などが「手作業」で集めていた情報を精査し、ワンストップで使えるようにしている。カナダ・バンクーバーで2015年に創業した同社は2021年12月にシリーズBで6200万ドル(約71億円)の資金を調達した。共同創業者で、CEOのJason Smith氏に創業の経緯や業況、今後の展望を聞いた。

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導入で90%の企業が成約率アップを実感

 Klueは、競合他社の製品やサービスに関する情報を、ウェブニュースやホームページ、メールやSlack、Salesforceからまとめ、ワンストップで提示するプラットフォームだ。現在、Klueを導入する企業は400社を超え、DellやSAP、Ciscoなどのグローバルカンパニーも使っている。主にB to Bの大企業に所属する営業担当者らがKlueを利用しており、日々の営業活動に欠かせないプラットフォームとされている。

 企業向けに情報を提供するサービスはたくさんあるが、Klueが選ばれる理由はどこにあるのだろうか。

 Smith氏は「膨大な情報を機械学習がひとまとめにしていることと、Klueを導入することで成約率が上昇すること」と話す。

Jason Smith
Klue
CEO/Co-Founder
プロダクト、営業、マーケティングを重視した技術系起業家として、これまで5つのスタートアップの共同創業者や投資家、創業メンバーなどとして関わる。コンピューターゲームの米Electronic Arts社の副社長などを務めた後、営業ソリューション提供のVision Critical社の社長としてスタートアップを500人規模の会社に成長させる。2015年にSarathy Naicker氏とKlueを設立。

 日々の営業活動において、競合他社の動向を知ることは必須だ。だが、これだけ情報が氾濫する状況では、人の手で資料を集め、網羅的に把握することは非常に難しい。Klueは毎日300万件を超えるデータを機械学習で精査する。その上で、Klueの分析チームが顧客企業にとって本当に必要な情報だけをまとめるか、企業自身がKlueの分析データから必要なものだけを厳選し、自社の営業チームに共有する。それによって競合他社のデータを「ワンストップで」「網羅的に」知ることができるのだ。

 導入企業へアンケートを実施したところ、Klueを使用した90%の顧客が成約率上昇に寄与した、と答えたという。

「大企業は、多岐にわたる製品やサービスを提供しているため、競合他社もとても多いです。営業担当者は自分が担当する商品・サービスの競合他社の情報を精査し、営業する際は自社製品と他社製品の違いを明確に説明する必要があります。Klueは、その違いを説明する際に最も役立ちます」

「情報量のわずかな違い」が大きな差に

「多くの営業活動の場合、契約が成立するかどうかは『情報量のわずかな違い』によるところが大きいです。Klueを使うことで他社との違いを明確に差別化できれば、それだけ顧客を納得させるチャンスが広がります」。わずかな情報量の差が、契約や売上を獲得できるか否かを決定づける大事なバトルカードになるとSmith氏は指摘する。

Klue Overview: Competitive Intelligence Platform from Klue on Vimeo.

「競合他社の情報を把握しているかどうかの重要度は増しています。それは、営業部門だけでなく、経営企画、カスタマーサクセス、人事部といった部署も同じです。マーケターであれば、顧客を魅了し続けるために、競合他社はどんなことをしているか知りたいでしょう」

 手作業による情報収集から、Klueは「機械学習で情報をひとまとめ」を可能にした。Smith氏は「時間を短縮でき、『今、知りたいこと』をダイレクトに理解することができる」と説明する。

CEOは連続起業家 顧客の「課題解決」で市場を創り出す

 2015年の創業以来、毎年成長を続けるKlue。Smith氏はカナダ出身のシリアルアントレプレナーだ。Klueを創業したのは、以前立ち上げた消費者情報のスタートアップでの経験がもとになっている。

「前の会社には約100人の営業担当者が世界各地にいたのですが、見込み客が彼らに『競合他社の情報を教えてくれ』と何度も問い合わせていました。その時、『自動的に競合他社の情報を集め、毎日アップデートされるサービスを作れないか』と思ったのです」

Image: Klue
会社を共に立ち上げたCEOのJason Smith氏(左)とCTOのSarathy Naicker氏

 創業当初は市場はそこまで大きくないと思っていたが、予想以上に多くの企業が好反応を示し、「これは大きな市場になる」と確信したという。

「Klueが成功した理由は、『顧客の課題を解決したこと』。これに尽きます。全ての企業が競合他社に関する情報を知りたがっています。それを私たちが機械学習を用いてまとめ、提供できました」

 現在約150人が勤務するKlueは、そのコーポレート・カルチャーも高く評価されている。カナダ国内で最も賞賛されるべき会社組織を称える「Canada’s Most Admired Corporate Cultures for 2021」を受賞した。

「健全な職場環境を築くことは重要です。従業員1人ひとりが尊敬され、モチベートされていれば素晴らしい仕事をしてくれる、というのが私の信条です。Klueは『顧客に、アップデートされた競合他社の情報を提供し、ビジネスの成功につなげる』というミッションを従業員全員で達成することを目標にしています」

 従業員全員がミッションを信じて、力を合わせるのがKlueのカルチャーだと強調する。

調達資金は機械学習の精度向上、インテグレーションに

 2021年12月にシリーズBラウンドでTiger Global Management、Salesforce Venturesから6200万ドル(約71億円)の資金を調達した。今後は機械学習の精度向上を図るほか、多言語版の開発も進めていく。

「資金調達の目的は、機会学習に投資をし、一層インテグレーションを進めて効果的にしていくことです。例えば、自動的に競合他社のインサイトを作成することが挙げられます。自社のSlackやSalesforce、Zoomで『A社』という競合他社の製品やサービスについての話題が出た時、『A社については、こちらのインサイトをご覧ください』と画面上にポップアップさせるような仕組みですね」

 資金調達に伴い、ヨーロッパ諸国、アジア太平洋地域への進出も目論んでいる。2023年には、多言語に対応したKlueを販売する予定だ。

Image: Klue

多言語版、日本進出も視野に BtoCや中小にも

 Smith氏は日本市場への参入に前向きだ。多言語に対応したKlueの販売予定に伴い、日本でパートナーシップ契約を結べる企業を探していくという。

「日本は独立した素晴らしい市場です。日本企業、そこで働く日本人とぜひ一緒に仕事をしてみたいし、この記事を読んだ読者の中からそのパートナーになってくださる企業があれば嬉しいです。日本はアジアの他の地域と違い日本語という市場で、特殊な環境でもあります。お互いに良い関係を築ける会社を見つけたいですね」

 同社の長期的な目標は「すべての会社の、競合他社の情報を記録するプラットフォームになること」だ。

「すべての企業に競合他社がいて、競合する製品・サービスがあります。私たちはそれらすべてを記録するプラットフォームになれると信じています。競合他社のあらゆる情報を網羅して顧客に届けることで、顧客は自社の製品・サービスに集中できる。そうした未来をつくりたいと思っています」

 BtoCの企業、中小企業向けのサービス開始も、そのビジョンを叶えるための目標の一つだ。そのためには機械学習の精度をより高め、BtoC企業にとって重要な価格設定やマーチャンダイジングなどの情報もまとめる必要があるという。

「たとえば、あなたが街の小さなコーヒーショップを経営しているとして、商圏にある他のコーヒー屋さんのプロモーションや街の人々の評価、外観など、すべてを知りたいと思うでしょう。そのような小さな業態にも我々のサービスを提供できると考えています」。将来的にはBtoCの企業にもKlueの導入を提案していきたいと考えている。

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